ビアス『悪魔の辞典』(岩波書店)によれば、「同盟」とは、「国際政治において、お互いに自分の手を相手のポケットに深く差し入れているため、単独では第三者のものを盗むことができないようになっている二人の盗人の結びつき」とある。だが、日米同盟はそんな関係とは違う。私に言わせれば、「大盗人が小盗人を背後から抱きかかえるようにして、そのポケットに深く手を差し入れたまま、第三者のものを盗みに歩きだした関係」である。大盗人の大きな体が前に動くたびに、ポケットを押さえられた小盗人はつまずきながら前に進む。何とも無様な恰好である。
8日に発表された「日米防衛協力の指針(ガイドライン)」中間報告の内容はそんな関係を端的に示している。「指針」は「平素から行う協力」「日本に対する武力攻撃に際しての対処行動等」「日本周辺事態における協力」の三つからなる。英文を見ると、bilateral
という言葉が、見出しを含め36箇所も出てくる。日本語訳では「日米共同」とか「共同の」とか誤魔化しているが、この言葉は「双務的」と訳すのが正しい。日米安保が「片務条約」であったのを、新ガイドラインで実質的な「双務条約」の内容をもつものにしようというわけだ。これは、日本への武力攻撃がなくても軍事行動を行う、集団的自衛権の行使となりうる。また、現行ガイドラインでは、「日本の安全に重要な影響を与える、日本以外の極東における事態」(いわゆる極東有事)とされていたが、今回、「極東」という文言は姿を消し、「日本の平和と安全に重要な影響を与える、日本周辺地域における事態(situations
in areas surrounding Japan) 」がキーワードとなった。しかも、「後方地域支援」(rear
area support) に、「戦闘行動が行われている地域とは一線を画される日本周辺の公海及びその上空」を含めている。英文では、on
the high seas and international airspace surrounding Japan which are distinguished
from areas where combat operations are being conducted. となっている。戦闘作戦が現在進行形で行われている地域は可変的であり、相手国領海・領空ギリギリの公海とその上空で、米軍に対して空中給油や海上補給を行うことも可能となる。 →さらに、今回の中間報告の問題点として、米軍への軍事協力の多角化・全面化が指摘される。自治体や民間の協力の強化、支援内容の細かな定めは、戦時受入国支援(WHNS)の制度化を意味しよう。加えて、日本が担当することになる公海上の機雷掃海も重大である。ペルシャ湾での機雷掃海は、領海におけるそれを想定した自衛隊法99条にさえ反する行動だった。今回はさらに、戦闘作戦に付随して行われる可能性があり、ペルシャ湾のときのような戦後の機雷除去という形の正当化は困難である。機雷掃海は上陸作戦の露払いとして行われるもので、それ自体戦闘作戦行動の一環だからである。また、経済制裁の実効性を確保するための「船舶の検査」はより問題である。英文ではinspection(査察)という表現になっているが、これはvisitation(臨検)であり、軍艦による臨検(公海条約22条)である。自衛隊82条の「海上における警備行動」との関連で、同93条2 項は海上保安官の権限を三曹以上の海上自衛官に与えているが、この場合、82条が領海警備規定であるという点に鑑み、公海上の臨検は法の趣旨に反する。しかも、海戦法規141 条は臨検に応じない船舶への砲撃を認めているから、自衛艦による臨検は、憲法 9条の武力威嚇・同行使にあたる場合を含む。中間報告はまた、立法上・予算上・行政上の措置を義務づけないとしながらも、具体的措置や施策をとることへの「期待」が表明されている。それに続けて、「日本のすべての行為は、その時々において適用のある国内法令に従う」という下りがある。英文を見ると、All actions taken by Japan will be consistent with its laws and regulations then in effect. とある。これは現行法令ではなく、新ガイドラインに照応した有事法制の整備をうたったものと解される。中間報告は、ガイドラインの見直しに対する「理解の促進」を目的としているという。内容上の追加や修正があることも述べている。ということは、これを出して様子を見ながら、よりハードな内容を表に出していこうというのだろう。アメリカの手法は「放火と消化を同時にするもの」(琉球新報社説)である。そんなアメリカにここまで肩入れする日本は尋常ではない。新ガイドラインにより、日本が対米軍事協力を強化することが、アジアの平和にとってマイナスの影響を与えうることをもっと知るべきだろう。 |