キリスト教民主同盟(CDU)にとって、「4月3日は真に危険な日」だった(Die Welt 10.2) 。コール前首相の70歳誕生パーティーをどうするか。90年にボン・ ベートーヴェンハレで3000人を集めて60歳の祝賀会をやった。今年はベルリンの予定だったが、党執行部は中止を決めた。自宅が捜索を受けるというニュースの流れた2月23日、地元ラインラント・プファルツ州本部は、「現在の状況のもとでは」という言葉を付して、4月5日予定の地元祝賀会の中止を党員に通知した。コール氏が私と誕生日が同じことを初めて知った(どうでもいい話で失礼)。
コール氏は98年までの6年間に約200万マルクの匿名献金を受け、これを 政治資金収支報告書に記載せず(この点コール氏も認めた)、スイスに隠し口座を設けていた。党に財産上の損害を与えたとして、背任容疑も加わる。また、フランスの石油会社エルフ社からの不正融資疑惑もある。ドイツでは、政党に対する国庫補助が60年代半ばから行われている。今回のような場合のペナルティは、 不正献金額+同額の二倍の額を国庫に返還すること(政党法23a条)。連邦議会 議長はCDU に約4100万マルク(23億円)の返還を命じた(2月15日)。さらにヘッセン州(連立与党の自民党FDP内の対立)やフランクフルト市(社民党SPDが連立離脱)など、地方にも不正献金疑惑は広がっている。去年11月の世論調査で 48%の支持率を獲得したCDUは、2月には35%に転落。一方SPD は33%から42%に急増した(Das Parlament 25.2)。北部のシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州議 会選挙ではSPDが勝った(2月27日) 。
ところで、ボン大学のJ. Isensee教授は新聞やテレビで、この事件に関する憲法論を果敢に展開している。手始めに、政党法に関して裁判官類似の機能をもつ連邦議会議長の中立性を強調し、「コール悪」と決めてかかったティールゼ議長の不公正を突く(Die Welt 30.12.99) 。次いで、自ら罪を告白した者に国家はマイルドに対処すべきだという議論(milder Staat)を展開。ショイブレCDU党首(先週辞任)が不正献金を告白した点を評価 すべきだとする(Die Welt 14.1) 。さらに、献金者の名前を言わないコール氏に ついて、マスコミはもとよりCDU内部からも非難する声が出ているのに対して、 「コール前首相は政党法に違反したが、憲法には違反していない。政党法の公開 義務は政党に対してのもので、前党首個人に義務はない。コールの沈黙は合法である」という論を展開する。極めつけは、「コール体制とラウ体制」という論文 (FAZ 28.1)。ラウ連邦大統領が州首相時代に、民間銀行の飛行機を私用に使っていた疑惑が明らかになり、州議会で調査委員会が設けられているが、教授は「共通しているのは、公的な資金の私的利用である」とし、両者をパラレルに扱う。テレビ(ZDF) では、緑の党の公金流用を鋭く追及した。先月末、大学の研究室でこの事件について教授と話したが、議長の中立的役割については意見が一致した。なお、連邦議会議長は25日の段階で、SPDの献金疑惑についても調査を命じている。
日本でも有名なヴァイツゼッカー元大統領はテレビ(WDR)でコール氏を厳しく批判。「憲法への宣誓を破り、法律に違反したことを隠すために個人的名 誉が持ち出されるとき、それは名誉ではなく、恥辱である」とまでいう(GA 15.2)。
先週出版された『民主主義の美しき外見について』(H. H. v. Arnim, Vom schönen Schein der Demokratie, München 2000)という本。著者は政党財政の 第一人者。結論は、無責任体制を生み出した諸政党を非難し、代表民主制を補完するため、基本法を改正して連邦レベルで直接民主制を導入せよというもの。高 級週刊紙の最新号も、Wir sind das Volk(我々が国民だ)というタイトルで、 「政党国家」の行き過ぎを国民投票でチェックせよという論文がトップだった(Die Zeit 24.2) 。直接民主制に消極的だった国で、いまこの議論が熱い。
なお、旧東独の小学校教科書に、「資本主義においては、金で買えるものは商品だけでない。議員も公務員も、博士の称号も名誉も愛も金で買える」とあり、これを紹介した保守系新聞は、「この教科書は1989年にごみ箱に捨てられたが、今から見ると、すべてが間違っていたわけではなかった」と書いた(FAZ 10.2)。