思わず「目が点」になった。あの水島宏明特派員(日本テレビ、STV)がコンクリー トの壁をよじ登っている。カメラがググッと引いていく。何と彼が登っているのは原子力発電所の冷却塔ではないか。仕事の合間にたまたまテレビをつけたら、チャンネ ルが24時間ノンストップ・ニュース「NNN24」(34チャンネル)になっていて、この映像が飛び込んできたのだ。
連休用の特集で、タイトルは「ドイツの原発遊園地」。 廃止された原子力発電所に遊園地やホテル、レストラン、スポーツ施設などを建設し
た複合型娯楽施設で、場所はオランダ国境に近いカルカール(Kalkar)。デュッセルドルフの北西、オランダ国境まで18キロと離れていない小さな町である。ドイツ滞在中、8キロ南東のクサンテン(Xanten)まで車で行ったことがあるが、その先に原発遊園地
があるとは、当時は気づかなかった。原子炉にもカラフルな絵が描いてあって、炉心 に入っていく恐怖ツアーもある。米軍基地内に野球場や村役場を作った話を本にした私としては、この原発遊園地の写真も撮っ
ておきたかったと、ニュースを観ながら悔しがった。
ところで、カルカール原発は1972年に建設をめぐって大議論となった。ドイツ初の高速増殖炉であることから、安全性への強い疑問が出され、近隣のオランダとベルギーが反対。73年に建設を開始し、85年に完成したものの、原子炉の稼動許可はなかなか下りなかった。宙ぶらりんの状態が長く続き、ついに91年ドイツ連邦政府は稼動不許可を決定した。95年にオランダの実業家Hennie van der Mostが全施設を購入。97年に遊園地として部分開業したが、全面開業は2005年の運びという。正式名称はKernwasser Wunderland「核の水の不思議な国」。「100マルク(約5000円)でホテル1泊、遊び放題、夕食・朝食つきで、のみ放題・食べ放題」が売り。旅行好きのドイツ人とオランダ人の団体客でホテルは週末は数カ月先まで満室という。取材した水島氏によると、「ジュースも水で薄め、バイキング方式の食べ物も最低のクオリティー」 だそうで、この程度の内容ならば、遊園地として全面開業したとき、果してどの程度の観光客が来るかどうか。ケチで実をとることで知られるドイツ人とオランダ人には すぐあきられるかも。
ところで、昨年の東海村放射能漏れ事故はドイツでも大きく報道された。現に52基が稼動し、さらに20基が建設されるというと、ドイツ人は一様に驚きの表情を見せる。「なぜ、これから作るのか」というのが率直な感想だ。すぐになくすことは難しくても、離脱の方向を選びとるかどうか。日本は先進国では唯一、原発建設に熱心な国である。
一方、ドイツはいま、社会民主党と緑の党の連立政権で、 環境大臣はトリッティン環境大臣はかつて緑の党の代表もつとめた反原発で知られる人物。即時廃止を唱えていた緑の党も現実主義的勢力が増えた。結局、25年から30年で原発離脱の方向だが、シュレーダー首相はさらに引き延ばそうとしている。原発の行方について、電力業界と連邦政府の話し合いが延びて、「4月中の決着」がさらに
「夏休み前」にずれ込んでいる。
なお、水島特派員とは、昨年7月通信傍受法の審議中に、日本テレビのニュース特集のためにボンでテレビ出演したが(この映像を見た読者の方はいますか?)、その時以来のお付き合いである。滞在中、「ベルリンの水島さんへ、ボンの水島より」というようなメールを交換していた。本稿について、同氏と日本テレビ・ベルリン支局にお世話になった。お礼申し上げます。