8月10日は陸上自衛隊(陸自)創隊50周年。1950年の警察予備隊発足にちなんだものだ。新聞各紙は50周年特集を組んだが、切り口はほとんど同じ。なかには「新たな脅威IT--サイバーテロ対策抜け落ち」(『読売新聞』8月6日)と新任務を急かす新聞もあった。どの世論調査を見ても、自衛隊の存在を認める理由の第一位は災害派遣である。防衛庁は8月4日、災害援助専任部隊の新設の方向を打ち出し(『毎日新聞』8月5日)、その存在をアピールしようとしている。そうしたなか、9月3日、東京都は「ビックレスキュー東京2000」という総合防災訓練を行う。石原都知事の「三国人発言」は記憶に新しいが、知事は防災訓練を、治安維持的視点を含む「三軍統合演習」と位置づけている。昨年11月、知事は志方俊之氏を東京都参与(災害対策)に任命したが、任期は今年9月30日まで。この訓練のための人事であることは明らかだ。志方氏は工学博士(京大)の学位をもつ新タイプの自衛官で、北部方面総監(陸将)だった91年8月、「新思考訓練の試み」と銘打った大規模な緊急医療支援訓練「ビックレスキュー91」を実施した人物である。冷戦後の自衛隊の生き残りの方向を見抜いた彼の動きは素早く、方面隊の装備、資材、人員を集中させて、大規模災害時の救難活動を派手に演練した。3300の人員は、災害訓練としては自衛隊始まって以来のもの。ヘルメットの横につけたブルーのワッペンは、国連旗のデェフォルメだったが、内側の絵は北海道の地図。PKOのワッペンに似ており、小さなところにも志方氏の配慮が見られた。彼は9 年目の今年、もう一度「統裁官」(今度は都知事の特別補佐として)をやろうというわけだ。
『読売新聞』8月12日付夕刊の先触れ記事によると、陸・海・空三自衛隊7800人、車両1000台、航空機100機、輸送艦・護衛艦数隻。第1師団と第12師団を基幹に、第一次増援の第6(山形)と第10(愛知)の各師団も加わる大がかりなもの。練馬の普通科(歩兵)連隊が、都営地下鉄大江戸線(石原知事の命名)の試運転車両を使って都内に展開する(木場公園まで)。まさに「大江戸捜査網」ならぬ「大江戸大作戦」。銀座中央通り(1~8丁目)にも部隊が進出する。都の訓練実施計画を見ると、「警察・消防・自衛隊の三機関連繋〔訓練〕」と書かれているが、この都の訓練を、自衛隊は部内の「南関東地域震災災害派遣計画」に基づいて演練する。自衛隊は従来から「防災の日」に、自治体の訓練計画とは別個に部内の計画に基づいて独自の視点で演練しているが、今回は石原知事と志方元総監という人を得て、初めて自衛隊の部内計画のかなりの部分が、都の計画として実施されるわけで、「自治体の軍事化」という視点からの批判的検証が必要だろう。災派される部隊は原則として武器を携行しないが、必要ある場合には最小限の火器・弾薬を携行できる(「災害派遣に関する訓令」18条)。石原都知事の希望もあり、大災害時の「不逞外国人」などを制圧するため、普通科連隊の一部は治安維持任務を専門的に与えられて行動するだろう。避難誘導・医療・輸送などだけでなく、実質的に「治安出動訓練」に準じた演練ともなりうるのである。「住民及び滞在者の安全」を守ることは自治体の任務である(地方自治法2条3項1号)。大規模地震の際に住民らの安全をどう守るか。そのための対策と訓練は重要である。問題はその中身である。自衛隊を過度に押し出した今回の訓練は異様である。災害対策や災害訓練は市民的視点から見直す必要がある。なお、自衛隊の準機関紙『朝雲』8月10日付によれば、11月に「周辺事態」を想定した日米共同統合実動演習 (FTX) が行われる。2万人という最大規模の演習で、日米共同統合PTXで「周辺事態」を取り上げるのは今回が初めてという。大規模災害と「周辺事態」。この両者の訓練は見えないところで連動している。
ちなみに、9月1日18時30分より文京区民センター(地下鉄三田線・春日駅下車)で、「災害(カタストロフ)と自衛隊」と題して講演する。