テロ対策特別措置法案が衆院特別委員会で可決され、米英軍への武器弾薬の輸送な ど、自衛隊の支援策が広がりそうだ。野戦病院での医療活動、難民の防護などは、隊 員の命の危険も伴いかねない。東海地方の自衛官は「派遣命令には従う」と口をそろ える。しかし、家族の不安も大きく、戸惑いもうかがえる。
●心構え
危険を顧みず、国民の負託にこたえる――。隊員が入隊時に行う宣誓の一部だ。 「海外派遣で『死』などの危険を覚悟させるような教育はない」と、陸上自衛隊豊川
駐屯地の陸曹(36)は話す。
過去の国連平和維持活動(PKO)では、派遣隊員の家族から「夫が死傷するかも しれない」と心配する声が防衛庁に多数寄せられた。
守山駐屯地のある隊員(37)は「自衛隊には実戦経験がない。出動となると不安 はある」。同駐屯地の幹部も「実際に死の危険に直面するとなると、隊内でも意見が
割れるだろう」とみる。
●武器使用
隊員の懸念が強いのは武器使用だ。「どんな場合に撃てるのかが問題だ」と、空自 小牧基地の佐官(44)は言う。法案では、刑法の正当防衛、緊急避難に該当しない
限り、「人に危害を与えてはならない」としている。
守山駐屯地の准尉(51)は「危険に出くわしたとき、武器使用が正当防衛なのか その場で判断するのは無理だ」。同駐屯地の陸曹(35)は「派遣されてもいいと
思っているが、法整備がされないままでは不安だ」と言う。
●専守防衛
今回の米軍などの支援について守山駐屯地の幹部は「専守防衛が国の方針なのに、 遠い中近東まで出かけるのはどうかという疑問はある」と話す。
陸自久居駐屯地の陸曹も「本来の自衛隊の任務は『守る』こと。最近の傾向は少し 行き過ぎと感じる」。その一方、「湾岸戦争で受けた国際的批判を思えば、国の立場
も理解できる」とも言う。
◇矛盾が犠牲生む懸念
水島朝穂・早稲田大教授(憲法学)の話 テロ対策特措法案は、武器使用を「刑法 上の正当防衛、緊急避難」に限った。また、海外での「武器の使用」と「武力行使」
を区別し、合憲性を担保しようとしている。だが、政府・与党の一部に武器使用の要 件を外せとの主張がある。自衛隊の軍隊化を認める動きだ。今後の自衛隊派遣で、今
までの矛盾が武器使用による人々の死や自衛官の犠牲として現れるかもしれない。
<海外派遣についての自衛隊員の声>
(1)戦場近くへの海外派遣についてどう思うか
(2)家族とは何を話しているか。家族の反応は
*
◇3佐(47)
(1)国に雇われている身。どうこういう立場でない
(2)「きなくさくなってきたなあ」という程度の話
◇3佐(44)
(1)我々は行けと言われれば行くのが仕事
(2)妻に「これからどうなるの」とは聞かれた
◇准尉(51)
(1)遠い中近東まで出かけるのに疑問もある
(2)家族は「やむを得ない」と言ってくれている
◇階級不明(37)
(1)命令が出れば仕方がない。行くしかない
(2)実家から「どうなるんだ」と電話があった
◇1曹(35)
(1)法整備がされれば出てもいいと思っている
(2)妻は平和な手段で解決できればと思っている
◇2士(27)
(1)命令が出れば、行く覚悟はしている
(2)独身なので、まだ家の者とは話をしていない
◇1尉(44)
(1)危険地域でも関係ない。任務なら仕方がない
(2)長男には「母と姉の面倒を頼む」と言ってある
◇2曹(36)
(1)実際は怖いけど、命令なら行くしかない
(2)家族に心配させたくないのであまり話さない
◇2尉(51)
(1)文民統制である以上、国の決定に従うしかない
(2)妻が何と言おうと行く。それが自衛官の仕事
◇2曹(38)
(1)だれでもいやだろうが、命令に従う義務がある
(2)仮に行けと言われれば、妻を説得する
注:自衛隊の階級は、上から将官、佐官(1等〜3等)、尉官(同)、准尉、曹 (長、1等〜3等)、士(同)。