沖縄タイムス <2004年5月29日> 朝刊 1版 読書20面(土曜日) 自社 写有

[読書]/水島朝穂著/同時代への直言/(高文研・2310円)/

急激な国の変化を憲法診断

 著者は現実政治に対し憲法の視点から最も積極的に発言している学者の一人。自衛 隊・米軍の軍事知識を豊富に持ち、安全保障を分かりやすく解説できるのが強み。自 身のホームページで、毎週更新しているエッセー「直言」。立ち上げた一九九七年か ら二〇〇三年までに書いた三百五十本以上の原稿はこの間を「憲法診断」した結果 だ。七十一本を精選し、六つの章にまとめた。法案成立までの試行錯誤的段階の動き や、世論やマスコミの反応も手を加えず、そのままにした。この国の変化を「時代の 呼吸」とともに再現したいからという。著者が「体験的同時代論」というように、時 代にコミットする姿勢が鮮明だ。

 憲法記念日に発表された「読売改憲試案」の問題点を「権力にやさしい憲法」など と早速「直言」で取り上げている。国家権力担当者に憲法尊重擁護義務を課した九九 条を削除して、「試案」前文で「国民はこれを遵守しなければならない」と定めてい ることをとらえ、「大いなる間違いである」と指摘。「憲法は『国民みんなで守る最 高法規』では断じてない。第一義的に権力の暴走をチェックするための権力制限規範 という点にこそ、憲法の存在意義がある」と批判している。

 言葉を巧みに言い換えて本質を浮き上がらせるのは著者の得意技。沖縄の米軍用地 を強制使用するための特措法に関連して日本政府を「放置」国家、あるいは「法恥」 国家と揶揄し、国民保護法案を「国民反故法案」(最近の「直言」)と呼ぶ。

 「直言」を始めたのは九七年。憲法施行五十周年の年だった。著者はここを起点に 日本の憲法政治は巨大な転換を始めたとみる。日米新ガイドライン、周辺事態法、テ ロ対策特措法、イラク特措法…。それ以前とは比較にならないほどの内容とテンポで 日米安保体制が「グローバル安保体制」に転換していったと位置づける。

 V章「曲がり角のドイツで考えたこと」は、戦後の歩みが日本と比較されるドイツ の「ベルリンの壁」崩壊から十年後の時点の実情が分かり、有益だ。(崎浜秀光・沖 縄タイムス記者)

 みずしま・あさほ 1953年生まれ。早稲田大法学部教授。法学博士。ホームページ はhttp://www.asaho.com