新型艦のもつ意味――日独海軍物語  2007年8月27日

衛省次官人事問題は、さまざまな問題を投げかけている。防衛大臣の言動と行動様式には多々問題があるが、しかし、自衛隊員である防衛次官が首相官邸に乗り込んで、直談判をしたことは穏やかではない。文民大臣に対する自衛隊員の「抗命」に近い行為であって、防衛省になってアロガント(傲慢)な面があちこちに出ているなかで、軽視できない問題である。佐藤正久参議院議員(元・陸自イラク復興業務支援隊長)の「駆けつけ警護」発言にしても、当時、より高いレヴェルによる明示または黙示の承認がなかったならば出てこない発言である。一議員の「失言」ではなく、本格的な真相究明が必要だろう。
   新装備の導入をめぐっても同様である。F22Aラプター導入をめぐる動きはすでに指摘した。その後、米側の事情や機密保全問題もあって、若干後退したようにもみえるが、F15改に1000億円をかける方針が浮上。多額の税金が使われるわりに、あまりに議論がなさすぎる。そこで、今回は「海」の動きに注目してみたい。

  先週の23日、空母のような新護衛艦の命名・進水式の映像がテレビに流れた。その日、たまたま、ドイツの新聞に、6月28日に行なわれた「ドイツ史上最も高価」とされる新フリゲート艦の命名・進水式を分析した論説が掲載された(Frankfurter Rundschau vom 23.8.2007)。偶然だが、そこから、日独両国が海上戦力の位置づけを変化させつつある現状がみえてくるので、少し検討してみよう。


   輸送艦「おおすみ」の登場を、1992年の拙編著『きみはサンダーバードを知っているか』で問題にした1997年2月には、その運用についての問題を指摘した2000年11月の「『防衛型空母』を持つ日本」では、その後の展開をフォローした。2004年、「護衛艦」といいながら、巨大な飛行甲板をもつ艦の建造が、国会での議論もほとんどないままに決まった。そして、先週木曜日、平成16年度予算で建造されるヘリコプター搭載護衛艦(16DDH)がついにその姿をあらわした。
   艦名は「ひゅうが」。その命名・進水式が、 横浜市磯子区のIHIマリンユナイティド横浜工場で行われた。全長197メートル、最大幅33メートル、艦首から艦尾までの「全通甲板」。基準排水量は13500トン。海自の戦闘艦としては最大級である(イージス艦「こんごう」型は7250トン)。高性能20ミリ機関砲と対空ミサイル(+対潜ミサイル)を搭載するが、護衛艦にもかかわらず主砲がない。2009年3月就役の予定という。なお、「ひゅうが」と同じタイプで、巨大甲板をもつ2番艦が「18DDH」として、2006年度予算で建造が決まっている。

  進水式の様子は、『読売新聞』8月24日付第一社会面が、大きなカラーの航空写真をつけて伝えた(同紙サイト同日付で読める)。以下、『朝日新聞』同日付の防衛問題担当編集委員の記事から引用しよう(同紙サイト23日付『毎日新聞』サイト同日付も参照)。
   「…潜水艦を捜索する哨戒ヘリコプターを効率よく発着させるため、艦橋を右舷に寄せ艦尾を全通甲板でつないだ外観は『ヘリ空母』そのもの。機体は艦内に収容する2基の大型エレベーターも造られる。防衛省は、近く退役する2隻のDDH(基準排水量約5000トン)の後継として04年度に同艦の建造を計画。従来艦と形状は大きく変わり、排水量は3倍近い巨艦となった。護衛艦が搭載するヘリはこれまで最大3機だったが、ひゅうがは通常4機を積み同時発着ができるほか、最大時には11機を収容できる。政府は88年に『攻撃型空母の保有は許されない』とする見解を表明しているが、防衛省は『攻撃型にはあたらない。大規模災害など多様な事態に対応できる護衛艦にあたる』としている」。

  『朝日』は「多様な事態に対応できる」と書くが、『読売』は、「対潜水艦作戦を主な任務とし、…輸送ヘリなどの発着も可能で、大規模災害や海外任務での活躍も期待される」とする。この国が戦後初めて、空母を保有するというにもかかわらず、そのことの掘り下げや指摘は、どの新聞も弱い。大規模災害のためにこんな大がかりな艦艇が必要だろうか。また、対潜作戦が主任務というのも正確ではない。もはや冷戦時代の旧ソ連原潜対処が主任務の海自ではない。ロシアや中国、北朝鮮の潜水艦だったら、海自の現有能力でも十分すぎる。「ひゅうが」の運用目的はほかにあるのではないか。

  旧海軍の「八八艦隊」構想(戦艦8隻、巡洋戦艦8隻)になぞらえ、海自には「新・八八艦隊」という言葉がある。ヘリ3機を有するヘリコプター搭載護衛艦(DDH)1隻、ミサイル護衛艦(DDG)2隻、ヘリ各1機搭載の護衛艦(DD)5隻で、艦艇8隻+ヘリ8機からなる1個護衛隊群をなす。それがこう呼ばれている。「ひゅうが」は、最大11機のヘリを搭載できるから、わずか1隻で1個護衛隊群のヘリ搭載数を上回る。
   しかも、巨大な飛行甲板に載るのは対潜ヘリだけではない。『読売』も書いているように、輸送ヘリコプターや、将来的にはMV22オスプレイも搭載されるだろう。すでに気の早いお菓子メーカーは、おまけのプラモデルに日の丸入りを使っている。陸自がオスプレイを採用するのを先取りしたものである。箱には「20××年仕様」とあり、なかなか芸が細かい。
   「ひゅうが」の運用思想は、対潜作戦よりも、むしろ、ヘリによる特殊部隊などの輸送・投入の支援にあるように思う。この艦は、「中央即応集団」の発足などと関連して、緊急展開部隊の主要装備となろう。

  なお、この新「護衛艦」の名前も気になる。イージス護衛艦は「こんごう」「きりしま」「みょうこう」とすべて山の名前である。ヘリ搭載護衛艦の「しらね」「はるな」「ひえい」も同様である。輸送艦には半島の名前が使われるので、「おおすみ」「しもきた」「くにさき」である。ところが、この16DDHは山の名前ではなく、初めて「日向」という旧国名が使われた。なぜ、「ひゅうが」にしたのか。そこには旧軍との発想との連続性がみてとれる。すなわち、戦艦「日向」は「航空戦艦」として有名だからである(「The Naval Data Base近代世界艦船事典」参照)
   ミッドウェー海戦で主力空母を失った帝国海軍は、航空機を搭載できるように戦艦や重巡を改装した。伊勢型戦艦の「日向」と「伊勢」から着手された。戦艦「長門」竣工まで連合艦隊の旗艦だった「日向」。後部の5番主砲、6番主砲を撤去して格納庫や飛行甲板を設置。対空火力を強化して、「航空戦艦」と呼ばれた。航空機22機が搭載可能とされた。水上偵察機「瑞雲」やカタパルトを使って「彗星」艦爆なども発進できた。2006年度予算で建造される18DDHは「いせ」と命名されるだろう。旧海軍の「航空戦艦」への過剰な思い入れは否めない。やがて、「やまと」「むさし」「しなの」「きい」という艦名が使われていくのだろうか。

〔※追記:「日向」と「ひゅうが」については、その後、入手したグッズも含めて、「兵器の名前からみえるもの」(2008年1月14日)も参照〕


   さて、一転してドイツの話である。前述のように6月28日、ハンブルクの造船所で、300人の招待客を前にして、ドイツ国歌と3回の万歳(Hurra)によって、ドイツ海軍のブラウンシュヴァイク級(K130型)コルヴェット(小型の護衛艦)の4番館の命名・進水式が行われた。艦名は「オルデンブルク」(F263。ブレーメンの南にある北ドイツの都市の名前である。
   ちなみに、この艦名は、ドイツ帝国海軍(「皇帝陛下の軍艦」〔SMS〕)以来の3代目である。1代目は1884年進水の装甲艦2代目の1910年進水の戦(列)艦は、第一次大戦後、賠償艦として日本に引渡された

  これを報じたドイツ紙の長文の記事の見出しには、「軍拡プログラム――ドイツ海軍が政策をつくる」とある(Frankfurter Rundschau vom 23.8.2007FR紙によれば、連邦海軍の新しい戦闘艦は、ただ単に、ドイツ史における最も高価な兵器システムであるということにとどまらず、それは、世界のいかなる沿岸にも登場できることになると、そのグローバルな能力に着目する。そして、1945年以来初めて、再び、地上を砲撃〔艦砲射撃〕できるようになったとして、ドイツ海軍艦艇の地上攻撃能力の強化の意味を指摘する。以下、この新聞論説や他の新聞コメントを紹介しながら、問題のポイントを探ろう。

  まず、「オルデンブルク」(K130型)の登場により、「ドイツ対外政策への明確なシグナルが発せられる」という。将来的に、七つの海すべてにおいて「質的に新しい軍事オプション」が展開されることになるという。そこで、二つの指導的な方針が追求される。まず、将来的に、国際的な危機対処が、より一層、陸軍、空軍そして海軍の共同行動によって行われることである。その際、国境にとらわれずに作戦できる海軍が、鍵的な役割を果たすとされる。ドイツ海軍は、海から陸の部隊を支援する能力をもつ。そのため、76ミリ単装砲と全天候のRBS15SSMタイプのミサイルが装備される。
   第2の重点は、将来、海軍は、グローバルな貿易ルートの保護にあたることである。対外貿易や資源に依存する国民として、ドイツは、「海洋依存性」をもつ。海軍力が、帝国海軍以来、再び、軍事戦略の中心に押し出された。ドイツは海洋を経由した世界貿易を活発化し、この20年でほぼ2倍になっている(出典:艦隊司令部年次報告2006)。

  会計検査院は、この艦の予算化以降の動きに注目する。特に、最初の支払いは、艦自体の計画が2014/15年になってようやく完了するのに、すでにこの夏から行われていることが批判される。ティッセン・クルップ〔400年の歴史をもつ重工業企業で、99年に合併し巨大コングロマリッドとなった〕への前払い額は18億ユーロ(2850億円)を超える。総額は26億ユーロになる可能性もある。会計検査院は、2019年までに、艦艇の価格は年々3%ずつ高くなっていく。連邦の価格見積もりの原則は、価格上昇レートの限界を2%に管理しているが、3%というのはそれを上回る。一隻、6億5000万ユーロ(1027億円)もする「ドイツ軍事史上で最も高額な兵器」となる。連邦政府は、ティッセン・クルップに、5隻中4隻を注文している。国防省の観点からは、この艦の建造は、「軍事的に意味があるだけでなく、経済的にも意味がある」というわけである。
   新しい艦は、1945年以来初めて、再び、地上目標を破壊できるようになる。そして、すべての世界の海で作戦を展開できるという。「新型フリゲートは、国防に奉仕するのではない。それは、はっきりと将来の海外出動のために展開されるのだ」という批判も紹介されている。なお、このタイプの最後の5番艦(ルートヴィヒスハーフェン・アム・ライン)も建造される。このタイプの一番艦(ブラウンシュヴァイク)は、2007就役予定。


   この間、日本とドイツで命名・進水式を行った二つの新型艦。ともに、従来の防衛政策の枠内におさまるものではない。ただ、ドイツの場合、海外出動の「本務」化は日本以上に進んでいる。また、「テロとの戦い」のなかで、軍隊と警察の区別の相対化も進んでいる。デモ隊の頭上に戦闘機を飛ばして威嚇するという行為も、決して偶発的なものではないだろう

  ドイツと日本の新型艦の運用思想の特徴は、第1に、純粋に「国土防衛」としての「国防」ではなく、「国益防衛」としてのそれであることだ。「国益」の定義は、領土・領海・領空とは異なり、客観的に確定できるものではない。ある国家が他国の領土内にある資源やそれと本国との輸送ルートを「死活的利益」と判断すれば、それが「国益」となる。それを軍隊で「守る」任務は、個人や他国にとっては「いい迷惑」という場合も少なくない。
   なお、FR紙の記事は、「オルデンブルク」が地上攻撃能力を「戦後初めて」もつことの意義を説いているが、76ミリ単装砲を装備する艦は他にもあり、「オルデンブルク」によって地上攻撃能力が格段に強化されるとは必ずしもいえない。ただ、ドイツの地理的位置からして、これまでは、艦砲射撃を行う作戦というのはあまり想定されてこなかった。記者は、新型艦が世界の海に展開するとき、他国の沿岸を攻撃する必要性が出てくるということを問題にしたいのだろう。
   この点、海自の「ひゅうが」も他国の沿岸に接近し、そこから兵員を輸送ヘリに載せて作戦を展開するような事態も想定されてこよう。「邦人救出」というのが一つのキーワードだが、市場や資源ということになれば、企業利益は「国益」とばかり「(営利)法人救出」ということになるかもしれない。いずれにしても、海上戦力の運用思想が日独両国とも変化しつつあることは確かだろう。

  第2に、経済的問題についてである。海軍の「軍拡」は、戦前から有名なコングロマリッドとしてのティッセン・クルップに膨大な利益を与える。会計検査院が先週問題にしたのも、その野放図な支払いの構図である。同じように、日本の正面装備は、圧倒的に三菱重工やIHI、小松製作所などの重工業部門を潤わせている。いずこの国でも、こうした「軍需産業」の利益のために、軍の活動のグローバル化が進んでいく。グローバリズムの逆説はここにもある。
   FRの記事は、新型艦艇建造の産業政策的理由についても触れているが、「1バーレルあたりの原油に対して、世界規模で少なくとも、20ドルの軍事コストがかかる」計算になるという。そもそも原油を軍事力で確保しようとする傲慢な姿勢が問題なのである。産油国との関係の改善を軸に、「原油と軍事コスト」のような発想を捨てるところから出発すべきだろう。また、一体、日本でも、ドイツでも、これだけ膨大な税金が高額装備に投入されることについて、どれだけの人々が知っているだろうか。本当にこんな高価な装備が必要なのか。そして、なぜこうも巨大企業に税金がいとも簡単に流れ込む仕組みになっているのか。そういうところから、まず疑問をもつべきではないだろうか。

  いま、日本は「武力による威嚇」を行う国としてのかたちを鮮明にしつつある。日本が憲法上保持できない装備は、「大陸間弾道弾(ICBM)、戦略爆撃機、攻撃型空母」(参院予算委1988.4.6. 防衛庁長官答弁)とされる。空母について、「攻撃型」と「防衛型」をどう区別するのか。特殊作戦群の精鋭を輸送ヘリに載せ、相手国の近海から投入する。これは「わが国」の「国益」(海外進出した企業の利益、「権益」)を守り、「邦人(法人)救出」のためといっても、他国からすれば「攻撃」と受けとめられるだろう。軽空母をもつ国となる日本。本当に憲法9条2項を変え、軍としてのすべての権限・属性を具備することでいいのか。納税者の視点から、自衛隊の装備をご覧いただくことをおすすめしたい。

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