普天間問題をはじめ、政治の世界も激震が続いているが、今回はまったく趣向を変えて、雑談シリーズ、それも「音楽よもやま話」の13回である。前回は、「私の音楽遍歴」として、個人的な音楽体験について書いた。今回は、私が会長を務める早稲田大学フィルハーモニー管絃楽団(WPO) の定期演奏会と「早稲田大学ニューイヤー・コンサート2010」について述べたい。やや宣伝的な面もあるが、ご容赦いただきたい。
2009年、早稲フィルは創立30周年を迎えた。私が会長となってまもなく5年になる。「直言」で会長就任の挨拶を書いたが、そこで早稲フィル(WPO)をウィーンフィル(WPO)に重ねた。その時は思いつきで言ったのだが、実は早稲フィルの弦はけっこう頑張っていて、彼らはウィーンフィルの音を目標にしているという。学生は志と夢のでっかさが取り柄である。「よし、がんばってくれ」と励ましてきた。
そんななか、吉報が舞い込んできた。早稲田大学文化推進部が、2010年から大隈講堂を使ったニューイヤー・コンサートの開催を企画。その最初の栄誉ある役をわが早稲フィルに持ってきたのである。
もともと「ニューイヤー・コンサート」は、毎年1月1日にウィーン楽友協会大ホールで行われるウィーンフィル(WPO)のコンサートのこと。ヨハン・シュトラウスはじめ、シュトラウス一家のワルツやポルカなどが華麗に演奏され、世界46カ国に生中継される。早稲田大学でも、来年から大隈講堂の大ホールを使ってニューイヤー・コンサートをやろうというのだ。1月9日(土)14時開場、14時30分開演(曲目はチラシの裏側参照)。早稲フィルは大学の公式サイトで、「ニューイヤー・コンサート レジデント・オーケストラ」として紹介されている。会長として大変うれしく思う。Waseda Online(Yomiuri Online)にも、ニューイヤー・コンサートの歴史などと一緒に紹介されている。
10月下旬、これを企画した早稲田大学文化推進部の方が研究室にこられて、いろいろとお話をした。学内のさまざまな芸術・文化活動を企画・実施していることは私も知っていたが、音楽活動も発展させていくということで、その一環としてニューイヤー・コンサートを計画したそうだ。私も趣旨に大賛成だった。驚いたことに、早稲フィルのコンサートにも足を運んでくれていた。早稲フィルのさまざまな活動についてもよくご存じだった。実際に演奏を聴いた上で「第1号」に選んでいただいたことが何よりもうれしい。
早稲フィルは、地域との関わりも重視している。落合第六小学校での音楽鑑賞教室は継続的に行っている。学校関係者のブログには、毎年の小学生との交流の様子が詳しく書かれている。「メンバーは90人に増強され、力強いオーケストラサウンドが落六の体育館に響き渡った」とあり、片手間の小編成ではなく、本格的な取り組みであることが分かるだろう。
早稲田大学には芸術学部はないが、各学部・研究科には芸術家タイプの学生たちがたくさんいる。プロなみもいる。勉強の合間に趣味でやっている学生の数は相当なものだろう。音楽系サークルも多い。学内のさまざまな音楽系団体に活躍のチャンスが与えていくことは大変いいことであり、今後、ニューイヤー・コンサートも学内のいろいろなオーケストラが担っていくことが望ましいと、文化推進部には申し上げた。これを機会に、早大の「音楽力」の発掘と活性化を期待したい。
さて、そうした「早稲田音楽」の一角を占めるわが早稲フィルだが、今年は創立30周年である。その年に「ニューイヤー・コンサート」の話がきたことは本当に喜ばしい。
再来週は、30周年を締めくくる第61回定期演奏会である。12月27日(日)13時30分開場、14時開演。会場は、すみだトリフォニーホール。ここは4 年前、飯守泰次郎指揮でベートーヴェンの交響曲第9番ニ短調を演奏したところである。大ホールには立派なパイプオルガンがあったのを記憶している。ちょうど4年が経過し、ここでオルガンを活用した華麗な曲を演奏することになった。サン・サーンスの交響曲第3番ハ短調「オルガン付き」。巨大なパイプオルガンが絶妙なタイミングで加わる。第2楽章では四手の連弾ピアノが彩りを添える。ピアノ協奏曲のような配置で交響曲を演奏するので、視覚的にも興味深いだろう。クラシック音楽が苦手という方にも、この曲は文句なしに楽しい、そして興奮させてくれる「楽」曲である。
私は37年前に買ったシャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団(1959年録音版)のレコードを繰り返し聴いており、この演奏が耳にしみ込んでいる。この曲の持ち味を極限まで引き出した完全燃焼の演奏である。ただ、私自身はポピュラーな曲の演奏会を避ける「偏食」傾向があるため、外国滞在中も、一度ボンの演奏会の機会があったにもかかわらず行かなかったことを思い出した。というわけで、この曲の生演奏は実は初体験である。
12月27日の日曜日は是非、すみだトリフォニーホールにお越しください。ハイドンの交響曲第101番「時計」、ベルリオーズの序曲「ローマの謝肉祭」という超ポピュラーな曲との組み合わせなので、どなたにも楽しめると思う。私個人としてはブルックナーやマーラーなど、通向けの曲も期待したいところだが、選曲は学生が自主的に決めている。ともあれ、今回はサン・サーンス3番で、巨大パイプオルガンとオーケストラの重厚なコラボレーションを体感していただきたいと願う。
「9」の付く年は激動の年になると何度も書いてきたが、早稲フィルのニューイヤー・コンサートで明ける2010年もまた、さらなる激動の年になることが予想される。2010年はまた、国連が定めた「文化の和解のための国際年」でもある。音楽は国境を越える。音楽のもつ可能性にも期待したいものである。