防衛副大臣の「適性評価」は大丈夫か――「セキュリティ・クリアランス」制度の落とし穴
2024年5月13日

「経済安保情報保護法」の成立

510日の参議院本会議で、「統合作戦司令部」を設置する改正自衛隊法や、経済安全保障上の機密情報を扱う民間人の身辺調査を行う「重要経済安保情報保護法」が可決・成立した。前者の問題性はすでに論じた。先週発売の『世界』6月号の城野一憲「同盟調整メカニズムと「外国軍隊」―自衛隊と米軍の一体化の完成」を参照されたい。後者については、立憲民主党までが賛成にまわった(同一会派の社民党は退席)。半導体や重要インフラなどに関わる「重要経済安全保障」ということで、「経済」という枠づけに惑わされたきらいがある。2013年の特定秘密保護法の際には同党も反対の立場を貫いたのに残念である。特定秘密保護法が防衛・外交など4分野の情報保全を目的としていたのに対して、今回の法律は、経済分野に広く網を張り、民間企業の従業員や研究者も捕捉対象にしている。「セキュリティ・クリアランス(適性評価)」が制度化され、家族・同居人、精神疾患、飲酒の節度など7項目が調査される。『東京新聞』511日付によれば、ハニートラップを念頭に性的関係も調査対象となるという(高市早苗・経済安保担当相)。
 特定秘密保護法制定から10年。経済関係にまで対象範囲が広がり、特定秘密保護法自体の運用も拡大されようとしている。

 

防衛副大臣が一番危ない! !

自衛隊の場合、星(桜)の数が重要である。最高指揮官の内閣総理大臣旗は、紫色に5つ桜である。防衛大臣旗は、えんじ色に5つ桜。えんじ色に4つ桜は防衛副大臣である。制服組トップの統合幕僚長も4つ桜。3自衛隊の各幕僚長も同じく4つ桜である。冒頭左の写真からも、防衛大臣に次ぐ地位にある防衛副大臣の旗が4つ桜(制服組トップと同じ大将級)であることがわかる。

   自衛隊という実力組織の上に立ち、日本の安全保障に関わる防衛副大臣が、安倍晋三内閣、菅義偉内閣、岸田文雄内閣と連続して不祥事を起こしている。他省の副大臣がかくも連続して問題を起こした例を私は知らない。自衛隊の駐屯地を訪問すれば、ジープに4つ桜の副大臣旗が掲げられ、着任すれば儀仗隊の栄誉礼を受ける

 まず、第3次、第4次の安倍内閣で防衛副大臣を務めたのは、山本朋広である(在任期間20178月~201810月、20199月~20209月)。中国を念頭においた南西諸島シフトのなかで、西部方面普通科連隊を基幹として、日本版海兵隊といわれる水陸機動団が新編された際、隊旗を授与する「凛々しい姿」が防衛省のホームページに残っている(左下の写真)。

     山本防衛副大臣(当時、以下すべて同じ)は神奈川県内に自宅があるようだが、なぜか都心の衆院議員宿舎には入居せず、公務で都内に滞在する時は、ホテルグランドヒル市ヶ谷(防衛省共済組合施設)に146泊していた(『毎日新聞』202032日付)。防衛省では、大臣不在時や北朝鮮のミサイル発射などの危機管理対応のため副大臣や政務官に、都内で待機する「在京待機」を割り当てているが、山本は公費でホテル暮らしをしているという批判を受け、衆院青山議員宿舎に入居している。このことを、2020310日の参議院外交防衛委員会で立憲民主党の議員に追及されると、あれこれ理由を並べていたが、結局、「他の政務三役との公平性に欠く」としてホテル代全額を返納すると明言した(上記議事録11頁)。

     東館スイートの1泊料金は、防衛省共済組合員の割引を使えない政治家なので相当な金額になっただろう。何よりも、議員宿舎のセキュリティとホテルのそれとは大違いであり、この「146泊」について、SPが隣室に宿泊していたという話は出ていない。セキュリティが厳しく求められる防衛副大臣が、「危機管理対応のためホテル宿泊」というのは何とも不自然である。後述する宮沢博行と同じ「趣味」を持っていたかどうかは確認しようもないが、危機管理上、きわめて杜撰であり、ホテル代を国庫に返納すればすむという問題ではないだろう。北朝鮮のミサイル問題での緊急対応のための「在京待機」といっても、トップクラスの人物がこの有り様では、国民に不安と緊張を煽っているだけという私の指摘に説得力が増すというものである。

   山本の場合、もっと深刻な安全保障上の問題は、統一協会(現・家庭連合)との濃厚かつ濃密な関係だろう。彼の名前を全国区にしたのは、統一教会の韓鶴子を「マザームーン」と呼んで、恍惚とした表情でカーネーションの花束を手渡すシーンである(写真参照)。その際、「本当に皆さまには、我々自民党に対し大変大きなお力をいただいていますこと、改めて感謝を申し上げたいと思います」と述べており、統一教会の組織的な支援があることを裏づけている(日本テレビ202282日放送)。衆議院議長をやった細田博之が、「今日の盛会を安倍総理に早速報告したいと考えています」と韓鶴子を持ち上げていたことは記憶に新しい(直言「統一教会との関係は「大昔から」―最高機関の最低議長」参照)。

  山本が「マザームーン」といって花束を渡したのは防衛副大臣在任時ではないが、それ以前から統一教会の支援を受けていたとすれば、在任中に何らかの関係がなかったとは考えにくい。まだ明らかになっていない統一教会と山本との接点を、20178月から20209月までの間で見つけることができれば、これまた重大問題である。山本が「マザームーン」と最大級の言葉を使った相手は、実は日本と日本人のことを馬鹿にしている。文鮮明は、「まず秘書として食い込め。食い込んだら議員の秘密を握れ。次に自らが議員になれ」と指示していた(参議院議員の井上義行が典型)。「嘘をついても勧誘できたらOK政治家を全員信者にして、政策に関わって、国家予算にも関わって、予算の配分も全部決めようとしてました」(直言「統一教会の家族観に「お墨付き」―安倍晋三の置き土産」参照)とも。

   このような意図を秘めて政治家に接近する統一教会。それが防衛副大臣ないしその経験者と過度な関わり合いをもっていたとすれば、これは日本の安全保障上重大な問題である。統一教会は、日本の権力機構の深部と芯部に浸潤をしていることになるだろう(直言「「反社勢力」に乗っ取られた日本(その22次安倍政権発足10年を前に(その1)参照)。

反イスラエルのテロの対象にりかねない

     次は中山泰秀防衛副大臣である(在任期間20209月~202110月)。建設大臣・郵政大臣をやった中山正暉の息子で、典型的な二世議員である。20209月の菅義偉内閣発足の際に防衛副大臣に任命された。

     20215月、パレスチナのイスラム原理主義組織、ハマスがイスラエルのテルアビブに多数のロケット弾を発射し、イスラエル軍が報復として、パレスチナ自治区のガザを「空爆」した(2023107からの事態(「ガザ包囲戦」)はこれを大規模化したもの)。これに対して、中山は、512日、「私達の心はイスラエルと共にあります」とツイートしたのである(JASTニュース2021年5月13日)。

     514日、駐日パレスチナ代表部の大使が記者会見で、「自衛という名目で殺された多くのパレスチナ市民に対して無礼だ」「イスラエルの人種隔離政策や、今も続く民族浄化を支持していることにもなる」と非難した。中山は21日、「中東の議論が活発となり、一定の使命を果たした」として、投稿を削除した。

    だが、この521日、衆議院安全保障委員会で、この中山のツイートが問題にされた。当時の政府公式見解は、イスラエルに対しても、ハマスに対しても、「すべての関係者に対し、一方的行為を最大限自制」するよう求めるというものだった。これとの齟齬が問題となった。

○中山副大臣 512日に発信をした御指摘のツイッターは、あくまでも一政治家としての見解を申し述べさせていただいたものでありまして、公安調査庁の国際テロリズム要覧で国際テロ組織に挙げられており、我が国がテロリスト等に対する資産凍結等の措置の対象としているハマスが攻撃を行ったとの声明を発出したことを踏まえまして、こうした暴力行為は行うべきではないという趣旨で発信をさせていただいた次第であります。…

○本多平直(立憲民主党) …A国とB国、国準でもいいですよ、紛争しているときに、日本の政府の防衛副大臣が片方に寄り添うと言ったら、今回の場合はあり得ないかもしれないけれども、近くの国だったら、ああ、そうなんだと攻撃の対象になるかもしれないような重大なことですよ。政府の方針に反することを10日以上載っけたままにして、挙げ句に理由も言わないで削除。政治家としてどうなんですか。むちゃくちゃじゃないですか。

     この中山防衛副大臣の答弁に対して、本多委員は、公安調査庁がハマスをテロリストと認定していないことを確認した上で、茂木敏充外務大臣から、次のような答弁を引き出している。

○茂木外務大臣 …イスラエル政府の発表によりますと、イスラエルは、エジプトの提案を受け入れ、無条件の停戦に合意をいたしました。また、パレスチナ武装勢力も同様に停戦を受け入れたとの情報があります。我が国は、今般の停戦合意を歓迎するとともに、米国、エジプト等の関係国による停戦に向けた仲介努力に敬意を表したいと思います。今般の合意が持続的な停戦と長期的なガザの安定につながることを強く期待をいたします。その上で、我が国として、テロ、これを、どの組織がテロであるか、これを認定するような法律はございません。

○本多委員 公安調査庁も外務省も認定していないんですよ、大臣。訂正していただけますか。

  中山防衛副大臣は訂正を拒否して、ツイートを削除したことですませようとした。そもそも、武力紛争の一方当事者に過度に「寄り添う」ことは危険である。本多委員も指摘している点である。日本に対する過度な反感や敵対心を生じさせないという慎重な姿勢は、実は安全保障上きわめて重要である。しかし、政府の一員、しかも安全保障分野に関わる防衛副大臣が、「私達の心はイスラエルと共に」と発信してしまえば、「中山個人」ではなく、「私達」、つまり日本政府、あるいは日本国民と受け取らかねない。きわめて不用意で、かつ軽率といわざるを得ないが、この防衛副大臣は再び、イスラエル寄りの行動をとった。

    東京五輪の開会式のディレクター小林賢太郎が、過去の芸人時代に、「ユダヤ人大量惨殺ごっこ」をネタにした動画を作っていた。これがLet's play Holocaust と意訳されて、一気に拡散された。この動画発覚の翌日、「サイモン・ヴィーゼンタールセンター」という反ユダヤ主義の監視を行う米国のNGOから長文の抗議文が届いた。あまりにすばやい対応となったのには理由があった。それは、中山防衛副大臣が、一般ユーザーからの情報提供を受けて、同センターに通報したからとされている。これも「個人として」やったのだろうか。防衛副大臣がやることだろうか(直言「五輪史上の「汚点」―ミュンヘン1972と東京2020参照)。

   そこで思い出すのが岸田文雄首相である。411日(日本時間12日未明)の米議会上下両院合同会議での演説のなかで、「You are not alone. We are with you!(米国は独りではない。日本は米国と共にある)」とやって総立ちの拍手を受けた。中山防衛副大臣の「イスラエルと共に」よりもスケールが大きく、その長期的効果として、日本が初の「戦死者」を出すことにもなりかねない。

   なお、過度にイスラエル寄りの中山は、202110月の総選挙で落選した。比例復活もできなかった。敗因について、「負ける理由を挙げたらきりがない」と正直に述べている(『産経新聞』2021111日付。目下、大阪第4区で再選を目指して活動しているというが、子どもを含む35000人ものパレスチナ人を殺戮しているイスラエルについて、中山は今も「イスラエルと共に」といっているのだろうか。

《付記》510日の国連総会で、パレスチナの国連加盟が、193カ国中143カ国(74%)の圧倒的多数で承認された。日本とフランスも賛成した。反対は米国とイスラエルなど9カ国、棄権は、異様なイスラエル擁護のドイツなど25カ国、無投票は16カ国だった。日本は米国と距離をとったのであり、これは評価してよい。


パパ活・デリヘル好きの防衛副大臣――ハニートラップの好餌?

   3人目は宮沢博行防衛副大臣である(在任期間20239月~12月)。冒頭2枚の写真がすべてを語っている。コロナ禍でパパ活をやり、デリヘルから女性を一晩で続けて2人も呼ぶ。「(性)欲が強すぎる」とメディアにペラペラしゃべってしまう。『週刊文春』52/9日号はすぐに入手して読んだが、あまりにあっけらかんとした物言いに、ここに要約して紹介する気がおきない。

    政治家のスキャンダルの場合、発覚すると必死に隠そうとする者、知らなかったことにする者、他人のせいにする者などさまざまだが、宮沢はきわめてシンプルで、すべて認めてしまう。132万円の裏金についても正直に認め、派閥幹部による箝口令を暴露してしまい、その顔と名前が一気に知られるようになった。今回の問題でも、第一声は「記憶にございます」だった。陣笠議員(採決要員)でしかない多くの与党議員は、何か目立ったことをやってメディアに露出することを狙うのだが、この人の場合、語る言葉の一つひとつがそれだけで話題になる。さすがの文春記者も「けっこうです」といって、宮沢の申し出を断る場面もあった(詳細は『週刊文春』参照)。これは愛すべきキャラなのだろうが、重大なのは彼が防衛副大臣だったことである。

    ハニートラップ(honey trap)というものがある。色仕掛けで政治家や外交官、軍人、企業幹部、技術者などから情報を得る諜報活動の一形態とされる。思い出すのは、1991年に旧東ベルリン滞在中に入手したシュタージ(旧東ドイツ国家保安省)の正職員・協力者のリストのことである。年収が書いてあり、一番多いのはエーリッヒ・ミールケ国家保安大臣だったが、協力者リストのなかに匿名がいて、女性でかなりの高給だった。これは、西側の大物政治家か官僚の愛人か何かではないかと当時推測していた。

   公安・諜報機関の活動はどこでも表面化することは稀だが、先週成立した「重要経済安保情報保護法」では、民間人まで身辺調査の対象とされる。派閥順送りで大臣・副大臣・政務官ポストに着く政治家の調査はどの程度やられているのか。防衛副大臣は3人も続いている。宮沢防衛副大臣の場合、ハニートラップの対象にならなかったのは、ただ運がよかっただけかもしれない。否、本人が気づかないだけで、これまで相手にした女性たちに何らかの情報をしゃべっているかもしれない。脇が甘いですむ問題ではない。民間人の身辺調査に関連して、「ハニートラップを念頭に性的関係も調査対象となる」と述べていた高市早苗・経済安保担当相は、宮沢防衛副大臣についてどのように考えているのか聞いてみたいところである。
   そもそも「経済安全情報」を保護するというなら、まずはこうした政治家から調査すべきではないのか。裏金問題で国民を欺いてきた自民党政治家たちに、政治資金規正法の改正を論ずる資格がないのと同様である。政治資金の問題では、国会に本当の有識者(例えば、上脇博之神戸学院大学教授など)を入れた第三者的な委員会を設けて改正案を議論すべきではないか。

【文中敬称略】


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