1.普天間「移設」問題とメディア
鳩山内閣が発足して7カ月。普天間飛行場「移設」問題では、5月末の決着をいう鳩山首相の発言や内閣の対応に、新聞各紙は大変厳しいトーンです。「日米同盟を損なうな」という論法で政府を批判していく点で、『朝日新聞』から『産経新聞』まで初めて横一線に並んだように見えます。ただ、『毎日新聞』だけが少し異なる視点を提供していました。
「安保」取材班による「転換期の安保2010」という特集記事は今週のものではありませんが、全国紙のなかでは興味深い論点や情報を提供しています。例えば、沖縄海兵隊1万8000人という数字は、米側ではなく日本側が言いだしたものだという米軍幹部の発言(8日付)は注目されます。沖縄海兵隊を沖縄県内に移設しないと「抑止力」を損なうという論調に対しては、18000は定数で、米軍再編でグァムに8000人が移れば、実は沖縄には4000人程度しか残らない。18000人説は、基地利権を含む日本側の事情を示唆しています。また、『毎日』特集記事(15日付)は、「4年ごとの国防政策見直し」(QDR) のなかに、在韓米軍を北朝鮮に対する最前線の位置づけから、兵士が家族と暮らす「駐屯地」へと変えていく方針を確認したという記述があり、米国が「地球上、どこでも起こり得る戦争」のための兵士のプールにする考えだと分析しています。在日米軍約5 万もその家族4万4000人と駐留しています。これを多額の税金を使って今後も維持していく意味があるのか。日本の安全を守るための「抑止力」として維持するものなのかが問われる事実です。この点、『毎日新聞』4月3日付「争論」欄で、防衛省の柳沢協二元官房長(元内閣官房長官補)は、実質1 個大隊規模にまで縮小される沖縄海兵隊が、「地域の抑止力としてどれだけ不可欠なのか非常に疑問だ」と発言しており、『毎日新聞』の一連の記事や特集は、「抑止力」維持のため普天間飛行場を沖縄県内か県外に移設することに、大きなクェスチョンを投げかけています。
関連して『毎日新聞』18日付コラム「反射鏡」は、「『寝ても覚めても日米同盟』の危うさ」という元ワシントン特派員の興味深い議論を展開しています。多くのメディアは「時の内閣よりも日米同盟(日米関係)の権威を重く見る価値観を持っている」として、「日本は米国の忍耐に甘えている」(『日本経済新聞』3月31日付)とまで書く状況を読み解いてみせます。『毎日新聞』データベースで「日米同盟」と検索すると、湾岸戦争が起きた91年は29件だったものが、新ガイドラインができた97年になると170件に増え、イラク戦争が起きた2003年に360件、政権交代があった昨年は370件を記録したそうです。日米「安保」より強力な「同盟」という言葉が多く使われ、ここ数年は「寝ても覚めても日米同盟」という状況で、「同盟とは争わないこと。米国を渋面させないこと」という形で「日本が思考停止に陥ってはいないかと心配になる」と指摘しています。私はこれを読んで、鈴木善幸首相が1981年5月の「日米共同声明」を発表後、「同盟には軍事を含まず」と発言して、時の外務大臣が辞任したことを思い起こしました。政府も憲法との関係から、集団的自衛権行使はできないという立場をとり、そこから日米安保条約を攻守同盟にできないできたわけです。鈴木首相が「日米同盟」という言葉を初めて公式に使いながら、米ソ冷戦時代、米国との軍事関係に踏み込むことに抑制的な姿勢を一旦は示したことは、「暗愚の首相」と切り捨ててはならないものを感じます。『毎日』コラムの「同盟」オンリー傾向への批判は、全国紙のいまの状況のなかでは大変注目すべきものと思います。
2.普天間「移設」と徳之島
今週、沖縄の地元紙を1週間分まとめて入手しました。それを読みながら、全国紙との違いは、「温度差」というような曖昧な表現ではすまないところまできていると感じました。 普天間問題では、県選出全代議士が反対、県議会全会一致の反対決議、そして明日25日の普天間問題での県民大会には、41市町村長中、37首長が参加するとのことで、沖縄の強い反対の意志は地元紙の隅々に感じられます(注・当日、最終的には41市町村長全員と沖縄県知事が参加した)。 そうしたなか、今週18日、普天間「移設」が取り沙汰されている鹿児島県徳之島で、全住民2万5000人のうちの1万5000人が反対集会に参加したことを、各紙は一面で伝えました。東京本社版でカラー写真入り一面トップに持ってきたのは何と『読売新聞』(19日付)でした。『朝日新聞』は1面の肩、『毎日新聞』は一面のハラ(真ん中)の扱い。自民党政権の時代ではちょっとない光景です。有権者の過半数が参加したという意味では、これは実質的な住民投票の意味をもっています。鹿児島の『南日本新聞』は20日付で「普天間移設、徳之島の民意は明らか」と書きました。なお、『琉球新報』は1面トップでしたが、社会面受け記事はなく(両面ともトライアスロン宮古島大会の模様を大きく伝えていた)、徳之島の反対集会は地域面扱いでした。政府は鹿児島県徳之島を、沖縄県外移設と思っているようですが、地元紙では、沖縄の市町村のなかに位置づけていることを今回改めて知りました。例えば、『沖縄タイムス』一面コラム「大弦小弦」20日付は、奄美の特産品黒糖焼酎の原料に沖縄の黒糖が使われ、1.5倍の値段の奄美産があまり使われていないので、徳之島への基地誘致の条件として政府に提示した6 項目に、「黒糖生産を沖縄県並みに」する振興策が入っているそうです。このコラムは、基地受入れの見返り的手法を批判しながら、「言葉も音楽も風土も似ている。沖縄の人たちに徳之島を『県外』だと思ってほしくない」という徳之島の集会参加者の声を紹介し、「琉球と薩摩のはざまで苦難の歴史を歩んできた島人(シマンチュ)の悲痛な叫びに聞こえた」と結んでいます。『沖縄タイムス』22日付社説は「徳之島への移設は形式的に言えば『県外移設』だが、実体としては、親戚づきあいをしてきたお隣への『圏内移設』というべきだ」と書くのも、沖縄地元紙ならではの指摘でしょう。私たちは、普天間問題を、日米安保条約改定50周年を前にして、アジアと日本の平和と安全という、より広い視野からしっかり考える必要があります。その点で、明日の沖縄県民大会とその報道の仕方が注目されます。
3.憲法改正手続法施行を前に
最後に、来月18日、憲法改正手続法(国民投票法)が施行されます。そのちょうど1 カ月前の今週18日、『北海道新聞』が、「国民投票法、このまま施行してよいのか」という社説を出しました。3年前、安倍晋三政権が「任期中の改憲」を掲げ、野党の反対を押し切って強引に採決に持ちこんだことを、「憲法改正手続という国の大本にかかわる事柄は与野党の合意が大前提」であり、「それを欠いたまま成立した同法の成立過程そのものが問題だ」としています。18歳以上に投票権を与えること、最低投票率の設定、18項目にわたる「附帯決議」に、公務員や教員の運動に対する規制のあり方など、「民主主義の基本設計にかかわるテーマ」について、「論議らしい論議は交わされていない」と批判しています。社説は、日本弁護士連合会が宇都宮会長の声明で、この法律の施行延期を求めていることを紹介しながら、「国会は与野党協議の場を設け、同法の扱いを議論すべきだ。それが国民代表の最低限の責務である」としています。重要な指摘だと思います。