<2001年10月11日> 夕刊 1版 総合4面(木曜日)
共同
本質論議避け拙速/テロ対策法・護憲、改憲双方から批判
 米中枢同時テロを受けて、自衛隊による米軍などへの支援を可能にするテロ対策特別措置法案の本格審議が国会で始まった。しかし、憲法や国際法学者の間で、護憲派、改憲派のいずれの立場からも法案の根幹部分への批判が続出している。

 政府は、国連のテロ非難決議と憲法前文の「国際協調主義」を新法案の論拠としている。しかし「戦争の放棄」をうたった憲法九条との整合性について、小泉純一郎首相は五日の衆院予算委で「憲法前文と九条の間の『すき間』でできることをやろうと考えている。法律的な一貫性、明確性を問われれば答弁に窮する」とあいまいさを認めた。


 東京大大学院の大沼保昭教授(国際法)は「(政府の論拠は)拙速な対米軍事支援を隠す"飾り"。『国際社会の総意でテロに立ち向かう中、日本だけが取り残される』という理屈は欧米の目線でしか世界を見ておらず、九条の本質的な論議を避けて突っ走る危うさを感じる」と指摘する。


 早稲田大の水島朝穂教授(憲法)は「国の理念を述べた前文と、これに基づき国の在り方を定めた九条などの本文は一体。前文を都合のいいように解釈するから『すき間』が生じる。『前文に法的拘束力はない』としてきた政府が突然、前文を持ち出すとは」とあきれ返る。


 改憲派で知られる慶応大の小林節教授(憲法)は「九条の議論を避けて自衛隊を海外派遣することなどあり得ない。集団的自衛権の解釈を変えずに『危険な所』に自衛隊を行かせようとするのはごまかしで論理的に破たんしている」との批判を展開する。


 護憲派とされる駿河台大の杉原泰雄教授(憲法)は「憲法上の明確な根拠なしに自衛隊に武器を持たせて外国の領土に行かせるなんてめちゃくちゃな話。こんなでたらめな法律を通したら内閣法制局は要らない」。


 「『憲法の枠内』と繰り返す一方で『法的一貫性はない』と答弁すること自体、理解しがたい。憲法九九条の『憲法尊重擁護の義務』に反しており首相は辞めるしかない」と痛烈だ。


 法政大の江橋崇教授(憲法)も「新法案は憲法の効力を停止させるもので、憲法に対するクーデターだ」と話している。