自衛隊機タイ派遣の本当の狙い 1997/7/21
12日、航空自衛隊第一輸送航空隊のC130H戦術輸送機3機がタイのウタパオ海軍基地に派遣され、111 時間48分の滞在の後、撤収した(17日)。カンボジア国内の混乱から邦人を救出するというのが理由。だが、9
日の段階でプノンペン空港が再開され、現地邦人のなかにも「何をいまさら」という声も出たそうだ(『東京新聞』 7月12日付夕刊)。今回の場合、官邸の強引な仕切りが目立つ。特に問題なのは派遣の法的根拠だ。自衛隊法100
条の8 は、自衛隊機による輸送には、(1) 外国における災害、騒乱その他の緊急事態の発生、(2) 生命・身体の保護を要する邦人の輸送についての外相からの依頼、(3)
当該輸送の安全が確保されていること、の3つを要件としている。だが、現地はすでに平静さが保たれ、現地政府も外国人避難の必要はないと言明している以上、「緊急事態の発生」の要件はクリアしない。外務省も「退避勧告を出す情勢ではない」(邦人保護課)とか、「今の情勢は自衛隊法上の緊急事態に当たらない。チャーター便の方が安全で簡単なはずだ」という姿勢だ(同上)。必要な手続である「外相から防衛庁長官への依頼」もなかった(領事移住部長から防衛庁運用局長への連絡だけ)。軍用拳銃で武装した警務隊員
9名も搭乗している。訓練とは到底言えない。官房副長官は、「(100 条の 8の)完全な発動ではなく、準備行為である」と述べた。自衛隊の各種の行動については、実際の出動の前の待機命令の段階でも法律に定めがある。そもそも100
条の 8という雑則で自衛隊機派遣を定めるという手法そのものが問題だった。今回の「準備派遣」はそうした自衛隊法100 条の8 にさえ違反する。ガイドラインの「中間とりまとめ」も出たこともあり、この機会に便乗して、自衛隊の輸送部隊の実動訓練をするとともに、緊急展開能力の政治的デモンストレーションを行うというのが本音だろう。C130H戦術輸送機は航続距離2950キロ(18トン搭載)で途中給油も必要だから、航続距離5186キロ(55トン搭載)のC17グローブマスターという戦域間輸送機を導入すべきだという声もある。「新ガイドライン」策定に向けて、こうした動きはことあるごとに起きてこよう。海外への緊急展開能力を強化する動きだ。マスコミや世論の「馴れ」が一番危惧される。