「邦人救出に自衛艦艇」の悪のり 1997/7/28
世にこれを悪のりという。自衛隊機をタイに111 時間48分「待機」させたパフォーマンス。法的に無理を承知で出しておいて、自ら「法的整備」の必要を説く。その声に便乗して、今度は艦艇による「邦人救出」の態勢を作ろうとする。在外邦人60万人、海外旅行客1500万人時代。政情不安な国はどこにもある。戦後50年、アフリカやアジアの国々で起きた混乱の際、民間機を飛ばして避難・救出した事例はいくらでもある。それで問題がなかった。いま、なぜ自衛隊なのか。阪神大震災で「個人補償はしない」と被災者を冷たく突き放し、海外の邦人有権者(約40万人)に選挙権行使の機会を与えない日本政府が、急に在外邦人に優しくなるわけがない。何かあると思うのが普通だろう。とにかく自衛隊を外に出すことが自己目的化されている。そうした施策はすでに装備・組織面で進んでいる。その一例。艦番号4001番代(LST)
の輸送艦として「おおやみ」(8900t) が三井造船(岡山県・玉野)でこのほど進水した。来年 3月に就役する。全長178 m、収容兵員1000人。巨大な飛行甲板をもつ。外観はまるで空母だ。武装としてはCIWS(高性能20ミリ機関砲)を
2門を搭載する(昨年 6月のリムパックの際、海自護衛艦がこれで米海軍攻撃機を撃墜した)。建造費 503億1500万円。米国製ホバークラフト揚陸艇(LCAC)
2隻をもつ。海外緊急展開能力を保持しようとする政府・制服組にとって、「邦人救出」は世論誘導の絶好のネタである。艦艇を派遣すれば、周辺海域の掃海や哨戒、エアーカバー(防空)も必要となる。ミサイル護衛艦(DDG)
やヘリコプター搭載護衛艦(DDH) の派遣も必要。ヘリで救出する際に、相手国の飛行場や港に一時的に展開して、救出作戦遂行を援護する部隊もほしい。これには、熊本・第
8師団に編成中の「離島防衛用特殊部隊」(レンジャー徽章をもつ精鋭。 3個中隊)をあてる。まさに「平成の陸戦隊」である。自衛艦艇による「邦人救出」というのを本気でやろうとしたら、ここまでやるということだ。こうした「邦人救出に軍艦・軍用機」(「正義の言葉でバイオレンス」)という傲慢なやり方は、憲法の平和主義や国際協調主義に反する。アジア太平洋地域の国々は、日本の対外政策が、「力づくでも」という方向にシフトしだしたことをしっかり見抜いている。