東シナ海の小さな島の大きな事件 1997/11/3


シナ海の下甑(しもこしき)島。ここに 2月 2日、中国人20人が上陸した。「集団密航」ということで、大々的な捜索が行われた。島に駐屯する航空自衛隊第9警戒群の隊員30名も捜索に参加した。これについて、あるマスコミの福岡支局から短いコメントを求められた。意を尽くせなかったので、ここで詳しく述べておく。自衛隊の出動については、それぞれ自衛隊法に明文の規定がある。たとえば、駐屯地近くで起きた災害の場合、知事等の要請なしでも部隊を出すことができる。これを「近傍災派」(法83条3項)といわれる。災害派遣の場合でさえ、法の授権が必要なのである。治安維持のための自衛隊出動はより厳格である。命令による治安出動は、一般の警察力では治安を維持できないという事態でなければならない(法78条)。知事等が治安出動を要請できるのは、「治安維持上重大な事態」が生まれ、かつ「やむを得ない必要がある」場合に限定される(要請による治安出動・法81条)。今回のケースは武器を持たない民間人の密航事件であり、そうしたケースではない。空幕では、「野外訓練の一環」という。だが、密航は出入国管理・難民認定法70条で懲役・罰金の刑である。捜索は直ちに現行犯逮捕に連動する。隊員はトランシーバを持ち、班ごとに行動したから、個々の隊員がたまたま私人による現行犯逮捕に協力したというケースではない。警察行動の一環に組み込まれた、組織的行動である。上部組織の指示も受けていない、明らかに法的根拠を欠く行動だった。空自は「特別警備訓練」という治安訓練を実施している。この訓練拒否を呼びかけて自衛隊法違反に問われた小西事件では、空幕が訓練マニュアルの法廷提出を拒否。結局被告人は無罪となっている。レーダーサイト等を「不逞住民」から守る怪しげな訓練だから、マニュアルを表に出せなかったわけだ。新ガイドラインにより、警備任務が一段と強化されるなか、今回のケースはそうした雰囲気を反映した「フライング」と言えるかもしれない。離島の場合、急患輸送等、自衛隊への依存が著しい。住民の自衛隊支持も高い。消防や警察等の配置が十分に行われず、医療や公共サービスの「過疎化」の結果といえる。取材した記者は、住民から「なぜ悪い」と言われたという。住民をそうした状態に置いている離島対策の貧困こそ問われるべきである。密航者対策も、そうした観点から見直すべきであろう。