「非常事態」の年 1998/1/6


当はこれが新年冒頭の「直言」原稿だったのだが、元日付各紙を読んで差し替えたのだった
  今年のキーワードは、「非常事態」(緊急事態)である。通常国会にも、新ガイドライン関連法案や、どさくさ紛れで、従来の積み残しの有事関係法案が出てくる。財団法人「平和・安全保障研究所」が昨年11月に出した提言は、「国民非常事態法」の制定を求めている(『朝雲』1997年11月20日付)。『読売新聞』は年頭から社説でさかんに憲法問題に踏み込むことを説いている。年末の解説記事(松岡宇直)「新ガイドライン――アジア安定へ日米同盟再構築」はとくに露骨だった。縦見出し四段で「解けぬ憲法の呪縛――『緊急事態対処法』急げ」。憲法の「呪縛」という物言いに、その姿勢が端的に示される。内容は、「新指針に魂を入れる」ためには、「自衛隊法改正で済むという安直な意見」ではダメで、「周辺有事、日本有事にかかわらず国家の有り様に真正面から取り組む包括的な立法でなければならない」と、政府の尻をたたいている(『読売新聞』1997年12月28日付)。
  話は変わるが、いま店頭に出ている雑誌『丸』と『世界の艦船』の2月号表紙はともに、海自の新輸送艦「おおすみ」の「雄姿」である。昨年 2月17日の本欄で述べたように、この艦は従来の海自の運用思想とは明らかに異なる装備である。「わが国の自衛」というよりも、海外への緊急展開能力の一部をなす「外征」型の装備だ。『世界の艦船』の写真は上空からのもので、ヘリ発着艦スペースが2機分あり、DDH(ヘリ搭載護衛艦)の第二種と異なる、第一種マークが付いている。これだと、海自最大級MH-53Eヘリが複数搭載可能で、ヘリ空母機能をもつ。捕鯨母艦のようにパックリ開いた後部からは、LCAC(エアクッション揚陸艇)が水煙を挙げて飛び出している。3月就役を前にした海幕広報室によるお披露目だ。今年中には、空自も新型輸送機(C17グローブマスターⅢ)の予算要求に向かうだろう。このような装備は、「周辺有事」を媒介にして海外緊急展開能力を保持しようとするこの国の「防衛政策」の顕著な変化を象徴する。今年の焦点となる「非常事態法」の議論は、「日本有事」というよりは、「周辺有事」対処に重点移行していることに注意する必要がある。今年、この欄ではこれから登場する「非常事態法」の本質と問題点について、断続的かつ執拗にコメントしていく予定である。