「大盗聴」のための憲法改正へ 1998/1/12


「非常に重要な日」と、カンター内相は語った。1月8日、ドイツの与党と最大野党・社民党(SPD) が、組織犯罪対策の一環として、市民の住居に盗聴器を仕掛けることを認める法律と、そのための基本法(憲法)改正に合意した(http://www.welt.de)。10月27日の「直言」で述べたのは基本合意で、今回は最終合意である。

  医師など証言拒否権を認められた職業の者を盗聴の対象外とするか否かが最後までもめたが、結局、聖職者、刑事弁護人、議員の三つだけが盗聴されないという点で妥協が成立。医者、ジャーナリスト、一般の弁護士は盗聴できることになった。 1月12日から16日の間に連邦議会で可決される見込みである(http://www.germany-live.de)。この合意に対して、それぞれ団体は激しく反発。とくにドイツ医師会長は、医師には守秘義務があることを強調して、この合意を「完全に不十分で自己矛盾だ」と非難。憲法裁判所への提訴も考慮中と述べた。

  警察は従来の電話傍受(「小盗聴」)に加え、殺人や銀行強盗などの凶悪犯罪を犯した疑いのある者の住居を盗聴する「大盗聴」の権限ももつことになる。ただ、基本法13条が住居の不可侵を定めているので、13条に第 3項から 6項を新たに挿入して、住居盗聴に明文の根拠を与える必要がある。8日合意された基本法改正案では、盗聴器のことを「住居の聴覚的監視のための技術手段」と表現している(3項) 。使用には3名の裁判官の命令(令状)が必要だが、急を要するときは事後でよい(3、4項) 。議会への報告義務と、特別委員会によるチェックの仕組みが定められている(6項) 。「小盗聴」の場合も事後的な議会統制の仕組みが設けられているが、通信の秘密も住居の不可侵も「密かに」侵害されるわけで、濫用された場合、事後的統制ではほとんど意味がない。重大犯罪の捜査のためとはいえ、住居の不可侵という重要な基本権が空洞化するおそれも指摘されている。

  なお、基本法改正には連邦議会と連邦参議院(州政府代表)の各3分の2以上の賛成が必要。連邦議会は「緑の党」と旧東独国家社会主義の残党(PDS) が反対しても社民党の賛成でクリアするが、参議院は「緑の党」と社民党の連立政権の州が五つあることから微妙である(ブレーメンとラインラント・プファルツのいずれか一州の反対でつぶれる可能性あり)。憲法裁判所に提訴される可能性も高い(ドイツでは、特定の条件のもとで法律の違憲性を抽象的に争える)。

  日本では、「小盗聴」のための組織犯罪対策法案が国会上程の機会をうかがう。「普通の国」をめざす日独両国は、治安部門の権限強化の面でも共同歩調をとるのだろうか(日本は一周遅れ)。