陸上自衛隊幹部学校の部内誌に『陸戦研究』というのがある。陸自幹部が自己の責任で執筆したものを発表する場だ。そのなかに、情報化時代に対応した自衛隊の広報活動のあり方に関する論文が何編かあった。まとめて読んでみたが、自衛隊の広報観がよく分かって面白かった。まず、「広報」の留意点として、第1に、各種報道機関と、日頃から関係を強固なものにし、自衛隊に関する報道等が「正しく」行われるように報道機関に対し支援・協力を行うこと、第2に、隊員全員が自衛隊の広報官の立場で行動し、隊務のすべてを常時、広報の観点から管理すること、などが指摘されている。「隊員一人一人、装備品の一点一点、車両の一両一両、施設の一棟一棟及び部隊行動の一つ一つが、存在を開始した時から広報活動の対象になっているのだという認識を持(て)」(内村隆興1佐「『広報活動』を考える」94年10月号17~18頁)というわけだ。「現在も、NHK総合テレビのニュースで普賢岳のことが放映されると、画面に『陸上自衛隊撮影』という文字が出て、自衛隊の活動状況を広報している。夜7時のNHKニュースの視聴率を考えれば、この広報効果の費用対効果は絶大であろう。このようなことから、第一線各部隊レベルまで、自衛隊に関係あり、かつ報道価値がある事案については、それをどのような時期、手段で提供したら最も効果的なのか、常に考えながら行動する広報マインドとそれを可能にする組織・装備が常態となるよう期待したい」(菊地稔2佐「実態がわかる自衛隊にするための提言」95年1 月号63~64頁)。このような視点は、阪神淡路大震災で遺憾なく発揮され、自衛隊のマスコミ露出度の急増は、世論の自衛隊「認知」度の上昇に貢献した。作戦成功というわけだ。さらに、パソコン通信、電子メール、電子掲示板などについても言及されている(菊地・65頁)。96年7 月から防衛庁ホームページ、調達実施本部と海自のページが立ち上がり、同10月から空自のページ、次いで陸自と、ホームページは三自衛隊すべてが出そろった。最近では、ページの作り方のセンスもかなり向上し、アクセス数も多い。『セキュリタリアン』という広報誌も、マンガやイラストが豊富で工夫されている。かつての『防衛アンテナ』(長官官房広報課)とは格段の違いだ。『野外令』(陸自の作戦要務令で、米軍のFM(Field Manual の略)に「部外連絡協力」という項目があるが、それをより広く定義して、平時を意識して広報を行うことが強調されている(彦坂洋一1佐「陸上自衛隊と社会との関わり合いについて・・将来の広報・部外連絡協力の在り方」95年 12月号24頁)。自衛隊にとっての部外連絡協力とは、作戦遂行上の不可欠のカテゴリーである。「隊外広報の主眼」も「我が作戦を容易にするにある」(『野外令』 159頁)。日本にはまだ情報公開法はなく、「情報公開法要綱案」も「防衛情報」開示には消極的である。広報と情報公開は別物であり、広報もまた作戦の一環であることを忘れてはならない。 |