周辺事態法は軍事のための「如意法」 1998/4/13


よいよ「周辺事態法案」が具体的な姿をあらわした。ここ数カ月色々と予想されていたなかでは、結構踏み込んだものになっている。4 月8 日付「日米防衛協力の指針の実効性を確保するための法整備の大要」という政府文書を見ると、(1) 新法の概要、(2) 日米間の取決め(ACSA協定の改正)、(3) 自衛隊法の改正の三本柱からなる。基本原則として、「武力による威嚇又は武力行使に当たるものではないこと」とあるが、「物を燃やすときには火を使わない」というようなもの。中身はこれまで以上にキナ臭い。「捜索救助」の活動は人道的活動のような語られ方をしてきたが、今回は露骨に「周辺事態における戦闘によって遭難した戦闘員を捜索救助するための活動」と明記されている。それを、「他国の同意」があれば「他国領海」でも行うというところまで踏み込んだ。「周辺」が地理的概念でない以上、この「他国」にも限定はない。「捜索救助」という言葉に惑わされてはいけない。東京大空襲を行うとき、米軍は、被弾したB29が不時着水することに備え、硫黄島から伊豆半島沖まで潜水艦や水上艦艇を一定距離ごとに待機させ、捜索救助・救急医療の態勢をとった。米軍は自己の構成員の生命を徹底的に大事にする。だから、米軍戦闘部隊にとって、捜索救助態勢が整っているかどうかは、兵士の士気という点からも重大な関心事。そうした任務を自衛隊の人員・装備・予算を使ってやらせようというわけだ。これは、後方支援というよりは、事柄の性格と重要度からいって、戦闘部隊の活動の直接支援に近い。「戦闘によって遭難した戦闘員」という表現を広くとれば、戦闘の経過のなかで「他国」の海岸に孤立した米軍部隊を、部隊ごと救出する輸送作戦を担うことも想定される。「国以外の者による協力等」では、自治体の長に対して「協力を求めることが出来る」、「民間等に必要な協力を依頼することができる」という一項が入った。「できる」という表現に、強制力の弱さをみるのは早計だ。武器の使用も、自衛隊法95条(武器等の防護のための武器の使用)が根拠規定となりそうだが、とんでもないことである。95条は武器や弾薬、航空機、車両などを防護するための武器使用を認めた規定だが、これを国外で活動する自衛隊の部隊が何らかの武器使用をするときの根拠規定に援用することは許されない。法的な言い方をすれば、武器使用には作用法的な根拠、すなわち別個の法的授権を必要とする。95条を海外での武器使用の根拠条文とすることは,法的作法として甚だ疑問である。かつてグレーゾーンとされてきたところが、今回きれいにクリアされてしまっている。こんな大切な事柄が、十分な情報の開示もなく、国会での十分な審議も欠いたまま推進されようとしている。「周辺事態」の認定を国会承認事項からはずし、「報告」ですますことを、自らが作る法律でうたってしまう。そんな国会っていったい・・・。かなり無理な構成で、かつ急いでつくろうとしている「周辺事態法案」は、アメリカに対して日本もここまでやるよということをアピールすると同時に、「自衛隊」が「普通の軍隊」となるための重要な一歩となろう。孫悟空の「如意棒」は思うがままに伸び縮みする。「周辺事態法」は、軍事エリートのための「如意法」になりかねない。


【2015年8月21日追記】法案では「捜索救難」だったが、現在は「捜索救助」とされているので、その語を改めた。