「周辺事態」と地方自治体 1998/6/22


週末、新潟市で「周辺事態法案」について講演した。県労組会議などの「新潟港の軍事利用に反対する県民の会」主催。会場は満杯で、聴衆は非常に真剣だった。法案 9条1 項は、「関係行政機関の長は、法令及び基本計画に従い、地方公共団体の長に対し、その有する権限の行使について必要な協力を求めることができる」と定める。自治体に対してどのような協力が想定されているのか、法案からはまったく見えてこないため、自治体関係者は不安を隠さない。4 月20日の全国基地協議会(会長・横須賀市長)と防衛施設周辺整備全国協議会(会長・浜松市長)が、新ガイドライン関連法により「住民生活や地域経済活動などに少なからぬ影響を及ぼす可能性がある」として、基地所在自治体の意向を尊重するよう政府に求めた。1 週間後、渉外関係主要都道府県連絡協議会(会長・神奈川県知事)が、法案検討にあたって自治体の意見を聴取し、その意向を尊重するように要求している。同趣旨の要望書を、神奈川県や東京都の基地所在自治体の連絡協議会も政府に提出している。一方、内閣安保室は、「協力」の例として「自治体が管理する港湾や空港の活用」を挙げ、「強制はできないが、協力への一般的な義務を自治体に課す」もので、「正当な理由なく拒めば違法になる」としている(『毎日新聞』6 月10日夕刊)。法案は「空港及び港湾業務」として、離発着・出入港への支援、積み降ろし作業およびそれに類する物品・役務の提供を挙げる(別表第1)。港についていえば、港湾荷役作業への協力やフォークリフトなどの提供などが挙げられよう。米軍は、軍事物資をコンテナ化して輸送する(ミリタリーカーゴ)。近年、全国の港で、コンテナバースが次々に新設されているというのが気になる。米軍はすでに利用可能な港湾の調査を完了しており、米軍艦船の各地への寄港は、そのデモンストレーションというわけだろう。これに対して、港湾管理権をもつ自治体は、「住民及び滞在者の安全」(地方自治法 2条 3項 1号)を守るという観点から、米軍への協力要請を拒むことも許されると解する(憲法9 条、92条)。国・政府は安全保障政策に対する広範な裁量権をもつが、それは無制限なものではない。裁量権の逸脱・濫用にわたるものがあれば、自治体は政府の要請を丸飲みする必要はない。「周辺事態法案」による米軍協力には、従来政府が違憲としてきた「集団的自衛権の行使」の具体化を多く含む。私は安保条約も自衛隊も、そもそも憲法に違反すると考えているが、「周辺事態」をめぐるその運用実態は、違憲性の程度を一層高めているといえよう。自治体は、独自の見識と判断に基づき、政府の協力要請に対して毅然たる態度で対応すべきだろう。