「ミサイル」事件とTMD 1998/9/7


週、沖縄でのゼミ合宿で、学生たちは5班に分かれて各地を取材し、多くの人々から聞き取りを行った。山内出納長(前・読谷村長)や岸本名護市長などの行政関係者、反戦地主や米兵犯罪被害者、基地訴訟関係の弁護士、沖縄振興開発金融公庫副理事長や自由貿易地域(FTZ) 関係者、米海兵隊『星条旗新聞』(Pacific Stars and Stripes) 支局長、アメラジアンの教育を考える会、沖縄在住の被爆者など。この場を借りて、長時間の取材に応じて下さった方々にお礼申し上げたい。

  ところで、この合宿中、北朝鮮の「ミサイル」発射と、防衛庁調達実施本部の元高官逮捕のニュースが飛び込んできた。前者は、「金王朝」の継承儀式の完成の「祝砲」なのか。その時刻、落下地点周辺には民間航空機や船舶もいたという。きわめて野蛮な暴挙である。北朝鮮は、民衆の悲惨な状況を尻目に、乏しい資金と労力を軍事強化に投じている。まさに「朝鮮君主主義臣民共和国」である。 />
  だが注意すべきことは、このことを口実に、日本の納税者にとんでもない負担をさせようという企てがあることだ。TMD(戦域ミサイル防衛)計画。偵察衛星や迎撃ミサイルの多層的な運用で相手国ミサイルを捕捉するシステムである。読売新聞は2日付社説で、「TMD研究は急ぐべきだ」と煽っている。だが、今回の北朝鮮の動きに対して過剰反応は禁物である。相手国がミサイルを開発すれば、それを迎撃するミサイルを開発する。冷戦下、米ソの核軍拡競争のなかで繰り返されてきた愚挙である。アメリカでは、弾道弾迎撃ミサイル構想(ABM)が頓挫し、80年代に戦略防衛構想(SDI)として復活したが、これも中断された。冷戦後、軍需産業の夢はTMDとして蘇った。これはSDIを地域レヴェルで切り売りするようなもので、それでも数兆円規模の資金が必要となる。「米国人に二度断られた『冷めたピザ』を温め直して、外国人に売ろうというような話」(田岡俊次・朝日5日付) に、日本は乗ろうとしているのだ。不況のおり、日米の軍需産業にとっては実においしい話だが、納税者にとっては、21世紀に向かってとんでもない借金を背負い込むことになる。
  冷戦下、ソ連に対抗するためと称して導入した高価な正面装備が、今どういうことになっているか。たとえば、P3C対潜哨戒機(1機百数十億円)。先週これが那覇空港にズラッと並んでいるのを見た。100機体制を呼号して導入したものの、ソ連軍なきあと、密入国者監視などに使っている。ベンツの高級車を大量に購入してピザの宅配をするのでは、ピザ屋はもとがとれない。だが、国家予算を使えば可能というわけか。そこに防衛官僚と軍需産業との癒着の根もある。
  北朝鮮の「ミサイル」発射を「神風」にしたTMD導入を許してはならない。北朝鮮の状況は確かに深刻だが、「だが、それにもかかわらず」(trotz alledem) 、人道援助や積極的な外交交渉を組み合わせた外交的努力を尽くさなければならない。なお、調達実施本部のHP に装備品の入札に関する情報が出ているので、納税者の皆さんは一度見ておくといいだろう。