「組織防衛庁」長官は辞任すべし 1998/9/28


22日付『毎日新聞』と『東京新聞』夕刊に、アクション映画みたいな写真が載った。訪米中の額賀福志郎防衛庁長官が乗るリムジンが、国防総省の対テロ用車止めに突っ込んでいる。フロントガラス右側に大きな割れ目。シートベルトをつけずに助手席に座った秘書官が頭を突っ込んだものだろう。長官は右足に軽傷を負って病院で手当てを受けたが、『毎日』には、米駐在武官の海将補が顎に絆創膏を貼り、左目に眼帯をした痛々しい姿で長官に付き添う写真が出ていた。海将補の眼は虚ろだ。この不甲斐ない長官の不運を心のなかで嘆いていたに違いない。

  いま、この国の首相、外相、防衛庁長官はともに、歴代のなかでも群を抜く「印象の薄い顔」をしていらっしゃる。ただでさえ外国で軽く見られる日本の政治家のなかでも、一層のライト感覚。VIP警備では完璧を期する米側も、思わず力が緩んだのかもしれない。
  この長官、北朝鮮の「ロケット発射」事件でも、さっさと帰宅しての「在宅指揮」で、その「軽さ」を世界にさらしたが、調達実施本部の一連の事件については、重大な監督責任がある。調本の事件では、証拠隠滅が組織的に行われた疑いが強い。警察・検察の手の内をよく知る警察庁捜査2課長経験者をも身内に抱え、証拠隠滅工作は周到を極めたようだ。まさに「組織防衛庁」である。だが、世の中そんなに甘くはなかった。さしもの『読売新聞』も、同情的なトーンを維持しつつ、「隠蔽疑惑を生んだ体質」を社説で厳しく批判している(9月17日付)。この問題では、老舗の読売社会部の記事も切れ味がいい。元防衛施設庁長官が逮捕されても、調本の副本部長が起訴されても、額賀長官はその地位にとどまっている気なのだろうか。「疑わしきは被疑者・被告人の利益に」という無罪推定の原則を持ち出して、裁判所で有罪判決が出るまでは、と居直るつもりなのだろうか。政治責任の問題では、「疑わしきは政治家の不利益に」とすべきである。防衛庁高官の組織的関与が疑われた段階で、最高責任者は出処進退を明確にすべきだったのだ。それをノコノコ訪米し、しかも数兆円規模の税金を使うTMDについての重要な約束をしてしまった。無責任極まりない。TMDを最大値にしながら、当面、新式のミサイルやレーダー、イージス艦数隻を日本国民の税金で買わせる。日米の軍需産業にとっては美味しい「金づる」である。「天下り調達実施本部」の仕切りで、莫大な金とポストが動き、今回その一端が明らかになったが、この癒着構造に根本的なメスが入れられない限り、同様のことが、より巧妙な形で繰り返されるだろう。責任をとって額賀長官は直ちに辞任すべきである。それとも、「組織防衛」に全力を挙げるために、その職に止まり続けるつもりか。納税者の怒りは、車止めよりも痛いことをいずれ思い知ることになろう。