コソボ問題とドイツの「周辺事態」 1998/10/19


週は、コソボ紛争をめぐり、NATO軍のセルビア爆撃が行われる寸前の状況だった。どうやら爆撃は回避されたが、日本での関心は低かった。テレビニュースで、キャスターが「コソボは日本から遠いですからね」とコメントしたのにはのけ反った。ヨーロッパのメディアは連日、緊迫感溢れる情報を伝えた。たとえば、ベオグラードの市場でのインタビュー記事。一人の老女は、1944年の復活祭に米英空軍がベオグラード爆撃を行った際、独軍の軍事目標を狙ったはずが、爆弾はCukaricaの労働者住宅に落ちて1000人を超える犠牲者を出したことに言及。若い女性は、爆撃後の国内政治の過激化を危惧していた(Die tageszeitung vom 13.10.98) 。セルビアの野党指導者は、爆撃をすれば、「セルビアはヨーロッパのイラクになる」と警告した(Die Welt vom 13.10.98) 。この問題では、9 月23日の国連安保理決議1199号が重要だ。この決議は、(1) コソボからのセルビア部隊の撤退、(2) 即時停戦、(3) コソボ・アルバニア人との交渉をセルビアに求めたもの。NATOはこれを根拠に、部隊を戦時編成にする命令(activation order)を出し、臨戦態勢に入った。空軍機430 機がスタンバイ。うち260 機は米軍で、そのなかには巡航ミサイル搭載のB52 爆撃機6 機も含まれていた。湾岸戦争以来最大の規模だ。攻撃は8 波。第1 波はB52 などの米軍機。第2 波以降がNATO軍機。これには14機の独連邦軍トルネード戦闘爆撃機が含まれる。セルビア軍は地対空ミサイルSA12b 60基など、それなりの近代装備をもつ。米軍は高々度から巡航ミサイルを打ち込むだけ。フォローは独軍機などがやる予定だった。米軍には犠牲者は出ないが、独空軍から初めて戦死者が出る寸前だったわけだ。ボスニアで活動中のドイツの非軍事のTHW(技術支援隊) の隊員が12日に狙撃され、救援活動を中止した。セルビアの極右民族派指導者は、もしNATOが攻撃をかければ、ドイツに対してだけ特別の宣戦布告を行うと警告。NATO域外派兵は憲法違反という議論をつい4 年前までやっていたドイツで、域外派兵が常態化すると、ついに戦闘行動も可能ということろまで来たわけだ。NATO軍は国連軍ではない。「人道的介入」の論理でも、爆撃を正当化するには無理がある。安保理の優先的役割(NATO7条) にしても、これを武力行使の一般的根拠にするには弱い。コール政権与党内でさえ、V・リューエ国防相とK・キンケル外相との間の意見対立が生まれた。国防相は安保理決議1199号が憲章7 章に触れているから、攻撃の法的基礎は存在するという立場。これに対して外相は、それだけでは攻撃の根拠としては不十分で、憲章7 章に基づく強制措置であることを明示する安保理決議が別個に必要であるとの立場をとった。実は、この対立は、社民党の国防問題担当のG・フェアホイゲン(国防相候補)と緑の党議員団長のJ・フィッシャー(外相候補)の意見対立でもあり、新政権でも同じ対立を引きずりそうだ。国際法学者C・トムシャートは、安保理決議1199号はNATOの軍事介入の法的基礎にならないという。連邦議会は16日、コソボへの戦闘派遣を、緑の党の多数を含む圧倒的多数で決定した。コソボ問題解決は粘り強い交渉以外にない。コソボはドイツの「周辺事態」。日米安保条約のもと、日本も「周辺事態」では同じ問題に直面する。「遠いですからね」とは言っていられない。