4月中旬に車を買った。その週、家族の希望で、ダッハウ強制収容所(KZ)やノイシュバンシュタイン城などをまわった。1日平均800キロ。アウトバーンでは、時速140キロで「安全運転」する私の横を、何台もの車がビューンと追い抜いていく。飛ばす時は徹底して飛ばすが、速度制限の標識が見えると一斉にスピードを落とす。住宅地には30キロゾーンがあり、交通マナーは全体としていい。ダッハウKZはミュンヘン郊外にある。拙著『ベルリンヒロシマ通り』に書いた旧東独のKZやポーランドのアウシュヴィッツに比べ、「あっさり」した印象だ。20年前に来たときも同じ印象を受けた。それでもKZ訪問初体験の妻や娘のショックは大きかったようだ。気分を変えて、ビスコンティ監督の映画で有名になったバイエルン王ルートヴィヒ2世の世界へ向かう。ノイシュバンシュタイン城、ホーエンシュバンガウ城、リンダーホーフ城、ヘレンキームゼー城。これでもかというほどの贅沢の限りを尽くしたつくり。そのため、バイエルンは財政が逼迫。この「危ない王様」は湖で謎の死をとげる。現在、これらの城がバイエルン州の観光収入に貢献しているのは皮肉だ。 ノイシュバンシュタイン城のなかに一枚の地味なポスターを見つけた。「ドイツ基本法50周年記念展示」。オーストリアのザルツブルクまでアウトバーン8号でわずか40キロの距離にあるキームゼー。そこに浮かぶ二つの島、ヘレン島(男島)とフラウエン島(女島)。前者にあるヘレンキームゼー城。 基本法はこの半世紀の間に46回も改正されたが、50年間変わらない条文もある。その一つが26条だ。侵略戦争の遂行を準備する行為などを違憲とし、そうした行為は処罰されると定めた「平和主義条項」だ。日本国憲法9条と異なり、自衛のための戦争は禁止されていない。だが、今回の戦争参加は、ドイツやNATO加盟国への武力攻撃が一切存在しない以上、この 26条に違反する疑いが濃厚だ。ヘレンキームゼーの美しい湖水を眺めながら基本法草案を練った人々の頭には、半世紀後にドイツが「人道的戦争」に参加するなど、想像だにできなかったに違いない。(この項続く) |