南西ドイツの美しい街、カールスルーエ(Karlsruhe)。ボンから高速道(アウトバーン)3号・5号で簡単に着ける距離だ。去年の今頃、フランスに行く途中に半日滞在し、今年2月にもイタリアからの帰りに通った。ここを過去にも何度か訪れたが、それには理由がある。それは、連邦憲法裁判所があるからだ。もっとも、誰もが一見して「エッ、これがあの…」というほど、それは質素な建物である。「カールスルーエは○○法に疑義を表明」といった形で新聞の見出しに使われるように、地名と連邦憲法裁判所とは一体化している。12月6日、その連邦憲法裁判所の裁判官会同は、当日出席した15人の裁判官のうちの10対5の多数をもって、この地にとどまることを決定した(Süddeutsche Zeitung vom 7.12) 。実は、 ベルリンかポツダムへの移転計画があったのだが、裁判所はこれを明確に拒否したわけだ。1951年にベルリン、ケルン、キールを退けて、カールスルーエが所在地として決定されて以来、まもなく半世紀。来年は連邦憲法裁判所創設50周年がこの地で祝われることが確定した。ドイツでは議会や政府の所在地とは別の都市に、最高の司法機関を置くのを常としてきた(旧ライヒ裁判所はライプチッヒ)。まさに「権力との象徴的な距離」である。私は、日本でも、最高裁は京都か鎌倉あたりに置いた方がいいと常々思っている。欧州連合(EU)でも、欧州裁判所はルクセンブルクに置かれ、ストラスブール(欧州議会)やブリュッセル(欧州理事会)と距離をとっている。ところで話は変わるが、その欧州裁判所で今年1月11日、女性の戦闘部署への勤務を禁ずるドイツ基本法や法律が、職業生活における男女の平等な扱いを定める76年EU平等基準に反するとの判決が出された。原告(女性)は、「女も男なみに扱え」という主張よりも、「私は電気技師の仕事をしたい」という技術者個人としての主張を前面に出した。その結果、衛生部門と軍楽隊だけしか就労できない現行制度の不合理性が際立ってしまった。この判決を受けて、10月27日、ベルリンのドイツ連邦議会は基本法12a条4項2文を改正する基本法改正法案を可決した(賛成512、反対5、棄権26)。12月1日、連邦参議院も全会一致でこれに同意。48回目の基本法(憲法)改正が行われた。連邦議会(第一読会)で審議が始まってから第二院の連邦参議院で可決成立するまで、わずか38日というスピード改正だった。「女子は、いかなる場合にも、武器をもってする役務を給付してはならない」という文言が、「女子は、いかなる場合にも、武器をもってする役務を義務づけられてはならない」に修正された。ドイツ語では、leisten をverpflichtet werdenに変えただけの微修正だった(軍人法も一部改正)。現在、女性軍人は4416人(衛生勤務4360人、軍楽隊56人)。来年1月から、女性は軍隊内のほとんどの部署に就くことが可能となった。だが、この基本法改正を、女性の社会的地位の向上、あるいは男女平等の前進と単純に評価できるだろうか。いまドイツでは、徴兵制廃止が日程にのぼっている。連邦軍が「国防軍」ではなく、「人道的介入」などを主任務とする「危機対応部隊」に変わろうとしているとき、徴兵制の存続の実質的根拠は、「代役」(民間役務)という社会福祉分野の要員確保以外にはなくなった。改正規定は、文言上「女性の徴兵制は認めない」という形をとっている。「男なみに」あるいは「女だからこそ」という形ではなく、「女性がいやなことは男性もいやだ」ということで、今後、この基本法改正は、男性の徴兵制廃止に連動する可能性もある。「第三世代のジェンダー論」との関わりでも、議論の展開が注目される。なお、改正に反対した民主社会主義党(PDS)の5名の議員は、「男女同権が間違った分野で追求されている。連邦軍は、家長的制度の性格を放棄しないだろう」と批判している。実際、連邦軍社会科学研究所の最新の調査によれば、49.1%の軍人が、女性の戦闘部門への進出に反対し、83.6%が軍隊内で性的トラブルが増えると回答しているという(die taz vom 7.12)。 あわただしく行われた基本法改正の「効果」は今後、思わぬ方向に広がるかもしれない。