テキサス州の「罪と罰」   2001年1月22日

年8月31日、アメリカのテキサス州ポートアーサー地裁が、一風変わった判決を出して注目された。

『朝日新聞』9月1日付の国際面トピック。見出しは「プライベート・ライアン鑑賞の刑」。17歳の少年たちが、第2次世界大戦に従軍した地元兵士を讃える公園に入り込み、兵士の名を刻んだ銘板などを損壊した罪に問われた事件だ。少年らに最高6カ月までの刑を科すことも可能だったそうだが、裁判官は、「退役兵をただのお年寄りと思ってもらっては困る」として、2年間の保護観察処分に加えて、スピルバーク監督作品の映画「プライベート・ライアン」を観るよう「義務づける」判決を言い渡した。映画鑑賞が厳密な意味での「刑罰」であるはずはなく、日本的に言えば、裁判官の「粋な説諭」ということだろう。

  実はこの判決の出たテキサス州は、死刑執行でも記録破りなのだ。

12月5日、テキサス州で60歳の男性が薬物注射で処刑されたが、これは40回目にあたる。2000年の全米の処刑が85件だから、その半数近くをテキサスで占める。年40回というのは、一つの州における処刑としては史上最多の数字という。これで1982年以来、テキサス州では計238人(女性2人)が処刑されたことになる。

現在、同州には444人の死刑囚が拘置されている(全米では3700人)。アメリカでは処刑直前まで執行停止の訴訟が続き、最終的に州知事が恩赦をしないと処刑に至る。

州知事として95年以来151人の処刑に関わったブッシュ氏がこの1月20日、アメリカ合衆国大統領になった。「選挙の現場」(投票用紙、開票作業など)のアバウトさを世界中に見られてしまい 、薄氷(白票?)を踏む思いで当選した人物だから、成果を挙げようと必死になる。すでに「目立つ人事」(黒人、日系などの高官登用)もやったが、こと死刑に関しては保守的な立場に徹するだろう。ブッシュ氏は知事在職中、ことのほか死刑に熱心だった。

昨年、テキサス州でドイツ系アメリカ人兄弟の処刑が行われることになり、ドイツ政府は中止を強く求めた。

この事件は、ハーグの国際司法裁判所で争われている。ドイツ連邦議会は12月7日、アメリカにおける処刑増大を憂慮する決議を採択した。討論に先立ち与党議員の一人は、「友好国の国内問題に介入するかどうかではなく、どのように介入するかが問われている」と発言した(FR vom 8.12) 。ベルリンの地元紙は「処刑民主主義」という論説を載せ、テキサス州のJ.ペンリー死刑囚のことを取り上げた(Tagesspiegel vom 16.11)。州最高裁が89年に、精神障害者の処刑は「異常でも残虐でもない」として、ペンリー死刑囚の主張を退け、ブッシュ知事もペンリーの恩赦申請を却下。州議会は99年になって、ブッシュ知事の同意を得て、精神障害者の死刑の廃止を求める提案を否決した。これらの事実をもって、この論説は「ブッシュはアメリカ民主主義の神話のよき手本にはならない」と断じている。

 ところで昨年10月14日、ヨーロッパ基本権憲章がEU首脳会議で承認された。憲章2条2項には、「何人も死刑判決を受け、または処刑されてはならない」とある。将来も、ヨーロッパに死刑が存在する余地はなくなった。

すでに国連加盟国189カ国のうちの過半数が死刑を廃止している。アメリカは州ごとに死刑の扱い方が異なり、3分の1弱の州で死刑を廃止している。

つまり、国として死刑を存続させているのは、先進国では日本だけということになる。年末、私は「20世紀の負の遺産」を3つ挙げよと言われ、「サミット、代用監獄〔警察留置場〕、改憲新聞社が野球界に保持する『軍』」と答えた。解説で、代用監獄廃止と死刑廃止をセットだと書いた(『週刊金曜日』2000年12月8日号)。

21世紀の遅くない時期に、日本も死刑を廃止しなければならない。なお、中曾根元首相は1月7日、あの首相の続投を支持したが、その理由として、「首相も新大統領もあまり頭がよくないので気があう」と述べたそうだ。死刑に積極的な元テキサス州知事とあの首相とのコンビ。21世紀の始まりは暗い。