ジャイアンとスネ夫の関係  2001年11月26日

画「ドラえもん」に出てくる「ジャイアン」こと剛田武骨川スネ夫との関係は、どことなく日米関係に似ている気がする。かつて脚本家のジェームス三木氏と対談したことがあるが、そのなかで私は日本を「スネ夫国家」と呼んだ(緑陰対談「憲法の値打ちはどこにあるか」1997年8月15日)。9月11日事件後の日本政府の対応をみていると、その感を深くする。アメリカはソ連なきあと、ひとりよがりで、すぐに暴力を使う「ジャイアン」そのものだ。「ジャイアンのかあちゃん」のような苦手は、現実のアメリカには存在しない。国連は適当な時に利用する道具くらいにしか思っていない。それは、長年滞納してきた国連分担金を払ったタイミングを見れば明らかだろう(アフガン攻撃の直前)。

  独りよがりもここまで来たかという一例は、ブッシュがビンラディンらを裁く特別軍事法廷設置の大統領令に署名したことだろう(11月13日)。国際刑事裁判所(ICC)設置に反対する一方で、秘密裁判で、証拠採用も甘い特別法廷を設置しようというのだ。通常裁判所では有罪にできない程度の証拠しか持ってないことを自ら認めるようなものだろう。国防長官もビンラディン殺害に重点を置いていると告白してしまうくらいだから、対ソ連のアフガン戦争当時のCIAとビンラディンとの黒い関係が明らかにならないよう、壮大なる証拠隠滅作戦を行っていると疑いたくもなる。殺し損ねたときは、秘密裁判が前提となるわけだから。「米国は自国兵士が陪審裁判を受ける権利が保障されない、などとしてICCを認めない。テロリストの疑いがある外国人ならば、陪審も控訴も認めない軍事法廷で裁くというのでは、二重基準だ」という批判が出てくるのも当然だろう(朝日新聞11月16日付)。

  もう一つの例は、ブッシュ政権がイラクに対する攻撃を準備していることである。「同時多発テロ」に対する軍事報復という名目で、世界で最も貧しい国アフガニスタンに、超高価な最新ハイテク兵器を次々投入。兵器の試験場と化している。テロリストを掃討するとしながら、7トン気化爆弾まで使用。タリバンが崩壊寸前のいま、ブッシュ政権はついにイラク攻撃の本音を明らかにした。テロに対する報復というのは口実だったとしか思えない。ここでイラクを攻撃すればどうなるか。フセイン政権に対する長期にわたる経済制裁の結果、イラク民衆は悲惨な状態に追い込まれている。すでに50万以上の子どもたちが死んでいるという。イラクはアメリカのいう「ならず者国家」の筆頭に挙げられているが、一体誰が「ならず者」と決めるのか。チョムスキー『ならず者国家』(Noam Chomsky,Rogue States--The Rule of Force in World Affairs,Cambridge,2000)を読むと、バルカン、東チモール、コロンビア等々、クリントン政権までの米対外政策の偽善性と独善性が、鋭い筆致で暴露されている。「他に選択肢はなかった」という介入正当化の殺し文句。これはドイツのフィッシャー外相がコソボ紛争の時、NATO空爆を正当化する時にも多用した

チョムスキーは、アメリカの長期にわたる介入手法を「ティナ」(TINA:There is No Alternative)スローガンで特徴づける。テロに対処するのには「他に手段がなかった」として、アフガン空爆が選択された。他に尽くすべき手段が無数にあったにもかかわらず、ブッシュは何のためらいもなくアフガン空爆を開始した。そうしたブッシュこそ「ならず者」であろう。

パームビーチ郡の開票結果が、運命をわけた。いまだに当選に疑義をもつ人々が半数近くも存在する大統領であることを忘れてはならない。支持が下がるたびに、これからも「事件」は起こるだろう(怖い予言)。

  ところで、カブールはいま凶暴な「ならず者」たちに支配されている。「北部同盟」という怪しい集団である。ドスタム将軍派のウズベック人部隊はとくに凶暴といわれ、住民虐殺を繰り返したことで、国連機関などが警告している集団である。

タリバン少年兵の大量虐殺の報道もある。27日から、ボン郊外のケーニヒスヴィンターのペータースベルク城(政府迎賓館)で、「北部同盟」を含むアフガン関係の諸グループが集まって会議を行う。

私がボン大学で在外研究をやっていた頃、ここで頻繁にG8外相会議が開かれ、オルブライト国務長官(当時)らがしばしぱ訪れていた。コソボ紛争の最終和平案もここで決められた。99年の夏には普通のホテルになり、私も家族とライン川を見下ろすテラスでコーヒーを飲んだこともある。再び、この城が注目された。331メートルの山頂にあり、もっぱらこの安全上の理由から会談場所に選ばれたという。だが、この会議に期待をかけることはできない。私が座った白いレースの椅子に、「北部同盟」の荒くれたちも座る。アメリカは、利用できる者は利用し尽くす。いらなくなれば即座に捨てる。コソボ紛争の時も、ミロシェビッチ大統領に対抗する必要から、その直前までテロ組織とレッテルをはっていた「コソボ解放軍」(UCK)を「自由の戦士」に仕立てあげ、軍事援助を与えた。UCKは、マケドニアで悪質な役割をしているが、アメリカは知らんぷりである。ソ連との戦争の必要からビンラディンやタリバンを援助・利用し、タリバンを駆逐するため北部同盟も利用する。

そうしたアメリカのやり方に最も忠実にこたえ、長年の関係を結んできたのが日本である。米国務省御用達のNHKワシントン支局長の口癖ではないが、「日米同盟」というのは何とも不可思議な関係である。金持ちのスネ夫は常に「ジャイアンの威をかるキツネ」であり、そのくせジャイアンには反感を持ち、心から信頼しているわけではない。この屈折した関係は、まさに日米関係とよく似ている。

26日、海上自衛隊の護衛艦などがインド洋に向かった。「テロ対策特措法」に基づく米軍支援だが、いったい何を支援するのか。意味や効果があるのか。実際、自衛隊員たちも十分に理解できていないのではないか。だが、外務官僚や与党の政治家たちはいう。「とにかく自衛艦を出すことに意味があるのだ。現地の難民に役立つかなんてことは重要ではない」と。金しか出さないと湾岸戦争のときに非難されたと思い込んでいる、「湾岸トラウマ」にとらわれた人々は、自衛艦の派遣にホッとしているだろう。だが、イラク攻撃の意図をちらつかせている米軍の支援にノコノコ出かけていくことほど危険なことはない。日本はまたも世界から軽蔑され、尊敬されない。湾岸の時は金だけですんだからまだよかった。今度は軍艦を出してしまった。この日本の姿は、ジャイアンの単独歌唱大会の客集めに奔走するスネ夫とダブる。この時のスネ夫を見る子どもたちの目はいつもよりも一段と冷たかった。スネ夫自身がジャイアンの歌を聴くのを一番嫌っているのを知っていたからである。 〔敬称略〕

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