わが歴史グッズの話(3)   2001年12月24日

フガニスタンに対する「対テロ戦争」とは一体何だったのか。

テロ対策といいながら、いつの間にか「ならず者国家」つぶしにシフトしている。日本は大慌てで自衛隊を派遣してしまい、ブッシュ政権(IQが史上最低といわれるブッシュ・ジュニアにそんな知恵はないが)の狙い通りの展開となった。湾岸戦争では10万人のイラク兵が死んだが、双方が隠しているので、実際の数字は未だ不明である。

今回も同様である。たくさんの犠牲者が出ているが、全貌はわからない。ただ、米兵が一人でも死ねば、マスコミはその死を伝える。でも、現地の人間ならば、死者は「数」でしかない。マザリシャリフで三桁の捕虜が殺されたが、その事実さえ、いつの間にか忘れられている。

ところで、米国は実に「人間の命を大切にした戦争をする」。誤解がないように直ちに付け加えれば、この場合の「人間」とは米兵のみを意味する。

例えば、東京大空襲に向かうB29爆撃機が東京上空で被弾して、不時着水する可能性を想定して、グァム島から大島あたりまでの海上に、一定間隔で救難船を配置。病院船には、緊急手術に備えて、医師や看護婦が待機していた。集束焼夷弾によって東京の10万人が死んだが、米兵の死者の数はきわめて少なかった。米兵の生命を救う態勢は徹底していたからだ。戦場でも、日本軍の攻撃があると、すぐに部隊を後退。航空機や長距離砲を使って徹底的にたたいてから前進する方法をとった。米軍はそうした物量・ハード面で日本を圧倒していただけではない。情報などソフトの面でも比べ物にならなかった。相手がどんな装備を持っているか、どう攻撃してくるかなどについてトコトン調べあげていた。そして、得た情報を微細・詳細なハンドブックやマニュアルにしていた。それはすごいものである。

今回は、私が所持している第二次大戦中のハンドブックやマニュアルのなかから若干のものを紹介しよう。

写真10

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 まず最初は、米軍諜報部が1943年9月に発行したHandbook on German Military Forcesである。ドイツ陸軍について総合的な知識が得られるように配慮したもので、組織、各種装備の性能諸元、戦術などが徹底的に調べあげられていた。ここまで知っていたのか、という感慨さえ覚える。Handbook on Japanese Military Forcesも実に徹底している。米軍諜報部が1944年9月に作成したもので、全401頁の分厚いもの(TM-E 30-480) 。日本軍のあらゆる装備が徹底的に分析されている。例えば、95式戦車。戦車の命である前面装甲はたった12ミリしかない。比喩的にいえば、ボール紙程度の薄っぺらさである。日本軍将兵の服装も冬服、夏服までカラーで出ている。『汝の敵を知れザ・ジャップ・アーミー』(1942年)。部隊名や階級を示す日本語表記も載っている。

各種マニュアルもよく出来ている。例えば、爆撃機の機関銃手用マニュアル『あの戦闘機を落とせ』(海軍作戦部編、1944年2月)。むずかしい数式などはなく、原理の解説も皆無。敵機が突っ込んでくる方向と機影のサイズ(距離)だけをもとにして、見込みで射撃する簡単なものだ。十分な訓練なしに戦場に送られてきた兵士でも理解できるようビジュアルにしてあり、簡単明瞭である。

最近のものでは、1988年に米陸軍が発行したSoldier's Manual and Trainer's Guideがある。全700頁の大分なもので、歩兵がマスターすべき課題を網羅している。各種火器の取り扱い、例えば、拳銃の扱い方から、地雷の敷設・除去、通信、市街戦での行動など多岐にわたる。NBC、すなわち核・生物・化学兵器を使用した状況下での対処の仕方も叙述されている。

 これらハンドブックやマニュアルの類を見ていると、「敵を知り己を知らば、百戦危うからず」の孫子の兵法を思い出す。旧日本軍(特に陸軍)は精神主義にどっぷり浸っていたので、「敵を知らず己を知らずば、百戦危うし」の類だった。『汝の敵を知れ』などを見ると、相手の言葉の向こう側にある風習やメンタリティまで知ろうとしていることがわかる。日本が「鬼畜米英」という憎しみだけをたたき込んだのとは異なり、冷静に「敵」を知ろうしている。この一事をもってしても、すでに勝負はついていたといえよう。

不定期連載の「わが歴史グッズ」の4回目では、空襲前に米軍が日本各地に蒔いた宣伝チラシを紹介する。この12月に米国在住の人からまとめて入手したものである。お楽しみに。

★注★
米国のシンクタンクLovenstein Instituteが8月に「ブッシュ大統領のIQは過去50年における歴代大統領のなかで最も低い」と報告した。IQが最も高いのはクリントンで182点、次がカーターで175点、ケネディ174点、ニクソン155点と続く。歴代ワースト3は、レーガンの105点と、親父のブッシュの98点、そしてブッシュ・ジュニアの91点である。ブッシュ親子は過去50年のIQ最下位を争っている。ブッシュ・ジュニアの語彙の貧困もすさまじい。これまでの大統領の平均語彙数が11000ワードだったのに対して、ブッシュ・ジュニアは6500ワードしかない。Acts of Warとか、America's most wanted man--Dead or Alive(アメリカ最大のおたずね者、生死にかかわらず)、Crusaders(十字軍)といった「とんでも発言」が飛び出すのも無理からぬところだろう。「これらは極秘事項だ」という時、本来ならばIt's strictly confidential.という改まった表現を使うべきなのに、わが愛すべきブッシュは、I can't tell you. なんてざっくばらんにいってしまう。以上の情報は、飯田恭子「医療英語アラカルト」連載119回「IQ」を参考にした(「ストレスニュース」2001年11月号)。