ミヤムラの企業内保育 白石真澄(元気がでる経営)
朝日新聞2002年4月20日be週末
精密機器・部品メーカーのミヤムラは1年前、熊本市の本社工場に「さくら保育園」を開いた。バブル景気の崩壊で、生産を縮小した工場の空きスペースで始めた無認可保育園だ。
行政の補助は一切ない。働く母親のニーズにあわせて、午前7時から午後9時まで。保育士や看護師も常駐し、病児保育も受け付ける。「既存の保育園にないサービス」が売りもので、口コミで社内外の子ども240人が集まるまでになった。
創業67年。いまは社員120人だが、最盛期の90年ごろには、700人を数えた。生産縮小に追い込まれた00年、宮村宜司(たかし)社長が、米国のジョンソン&ジョンソンやIBMなどの企業内保育所を視察したことがきっかけだった。
時間の融通が利かないいまの保育制度に矛盾を感じ、「女性が働き続けることが難しい」と感じていた。若い労働力が不足する少子高齢化時代だからこそ、高齢者や女性の活用が重要だと考える。「女性のワーカーも、企画、営業までひと通りの仕事をこなせる戦力にしなければならない」(宮村社長)
園児の昼食も、「もっとおいしく、安全で安いもの」をめざして、外注をやめた。
給食事業に乗り出し、300円の弁当を、1日に300食つくっている。園庭の遊具の市場価格が高いことに驚き、本業の技術力を生かして、10分の1の価格で生産し、ほかの保育園にも売っている。
地域住民向けのダンスホールやカルチャーセンターも工場内に設けた。レストランを併設した高齢者のデイサービスセンターや、障害児保育も予定している。女性社員が出産や育児と並行して働き、将来の女性労働力の確保につながるか。企業内保育園から、地域密着型の保育・高齢者サービスが軌道に乗り始めている。
(東洋大助教授)