有事法制関連3法案は6日の参院本会議で可決・成立する見通しだ。しかし、国民保護法制のあり方をはじめ残された問題点は多い。安全保障政策に詳しい有識者や行政の現場で有事法制にかかわる知事らに、評価と今後の課題を聞いた。
○地方の「安全力」高めよ 早大教授・水島朝穂氏
――有事法案は与党3党に加え、民主、自由両党も賛成に回りました。
今回の法案は政府の言う「専守防衛」の枠を超えて発動される可能性があります。武力攻撃予測事態という概念は極めてあいまいで、国会の関与も明確に規定されていません。民主党はこうした問題点を追及していたのに、矛を収めて賛成した。野党が役割を放棄した姿に、議会制民主主義の危機を感じます。
――与党と民主党の修正案については。
例えば基本的人権の保障は憲法に明記されていることです。法案に書き加えたところで、人権侵害の歯止めにはなりません。もし本気で改めるなら、予測事態でも国民に協力を強制する物資保管命令違反の罰則規定などを見直すべきでした。
――小泉首相は一貫して「備えあれば憂いなし」と言ってきました。
確かに多くの国が緊急事態法制を持っている。ただ冷戦後は見直す動きがあるのも事実。乱用された苦い経験や、冷戦が終わって不必要になった点もある。冷戦時代の古い骨格を残したまま、テロなどの新しい脅威への対応までごっちゃにした法整備はおかしい。ブッシュ政権の狙いに応じてイラク戦争に参戦した英国のように、日本が極東アジアで役割を果たそうとしている気がします。
――次は国民保護法制の整備が始まります。
この法制は国民を保護するものでなく、戦争に協力させる狙いがある。到底賛成できません。国はむしろ、地方自治体に補助金を出して各地域の安全力を高めるべきだ。消防用ヘリコプターも十分に配備されていない。世界各国をみても、地方が緊急事態に対処する能力を高めていく流れです。
――安全保障政策は今後どうあるべきですか。
確かに北朝鮮は悪いことをやっているし、日本は他にも様々な危機を抱えています。でも、危機に軍事力で向き合わないのが日本国憲法の要請です。北東アジアで新しい集団安全保障の仕組みをつくり、その枠組みの中で、北朝鮮の問題も軟着陸を図るべきです。
本来、外交の要諦(ようてい)は「味方にできなくても、敵にはしない」であるはず。しかし有事法制の成立は逆に、外に向けて「日本は脅威だ」とのメッセージを出してしまうでしょう。