去年、義母が亡くなったため、新年の挨拶は控えさせていただきます。喪中の葉書を出さなかったため、たくさんの方から年賀状を頂戴しました。昨年冒頭にも書いたように、私は年賀状の「一方的廃止」を宣言しています。年賀状をお出しいただいた方々には、昨年から不義理をしておりますが、改めてお詫び申し上げます。本年も、どうぞよろしくお願い致します。
さて、いずれの国でも、年末に「今年の流行語」や「今年の人」が選ばれる。ドイツでは、2003年の「今年の言葉」に「古いヨーロッパ」(Das
alte Europa) が選ばれた(die
tageszeitung vom 20.12.2003)。ラムズフェルド米国防長官がイラク戦争に反発するフランスとドイツを念頭において発した言葉だが、ヨーロッパの人々に深い失望と幻滅を与えたのは承知の通りである。昨年2月14日の国連安保理において、フランス外相がこの言葉を巧みに用いて演説。異例の拍手喝采を浴びたのは記憶に新しい。米国の孤立を象徴する瞬間であった。
その米国の雑誌『タイム』12月22日号は、恒例の「年の人」に「ザ・アメリカン・ソルジャー」(米軍人)を選んだ。アフガニスタンからジンバブエまで世界146カ国において活動する140万の米軍人(男女)。外交政策の立案者たちではなく、国家政策を実行するため実際に手榴弾や銃撃に身をさらした米軍人だとしている。『タイム』は朝鮮戦争が起きた1950年にも、「年の人」に米軍人を選んでいる。米軍は国境を守る国防軍ではない。世界中に米軍基地があり、計146カ国に軍人を派遣している。こんな国はほかにない。今年も、この米軍と取り巻きの「有志連合」諸国による「テロ支援国家」のレジーム・チェンジ(民主的転換)ならぬ「民主的転覆」を軸に、国際情勢が展開していくのだろうか。昨年12月、リビアが「全面降伏」をした。昨年末の大地震でイランは「それどころではない」状態にある。とすれば北朝鮮ということになるが、そこを「先読み」したのか、北朝鮮は、拉致被害者の帰国について微妙な動きを始めている。
ところで、ブッシュ政権にとっての最大の誤算は、イラクの「無法状態」の長期化だろう。米国人にとっての悪夢は「ベトナム化」である。そのような泥沼に陥る前に、日本などに負担を肩代わりさせる。♪カネ出せ、ヒト出せ、血も流せ♪
「でんでん虫の歌」の歌詞のように、「有志連合」への「誘い」は続く。そして今月、自衛隊本隊の派遣が始まる。「でんでん虫の歌」の三つ目のフレーズが現実化する可能性はきわめて高い。
そのキナ臭い幕開けにふさわしく、今年のキーワードは「武器」になるだろう。武器とは何か。『広辞苑』には、「戦争に用いる諸種の器具」とある。自衛隊法上の武器とは、「火器、火薬類、刀剣その他直接人を殺傷し、又は武力闘争の手段として物を破壊することを目的とする機械、器具、装置等」と定義され、護衛艦、戦闘機、戦車などが例示されている(1976年1
月27日政府統一見解)。徴兵制違憲解釈や集団的自衛権行使の違憲解釈と並んで「戦後の枠組み」の柱の一つをなしてきた「武器輸出三原則等」がいま、正面から崩されようとしている。これについては、次回以降に論ずることにして、今回は「わが歴史グッズの話」と重なるが、武器そのものについて語ろう。
今月、イラクに向けて出発する陸上自衛隊の部隊は、かつてない破壊力をもった武器を持っていく。ある軍事評論家は、「何ら問題ない。普通科連隊の標準装備ではないか」とテレビで述べていたが、この発想は逆転している。そもそも陸自の普通科〔歩兵〕連隊は「国土防衛戦」(これ自体を私は認めないが)のために組織・編成されてきたもので、その標準装備は「わが国を防衛するために必要な最小限度」という基準で選定されてきた。海外での武力行使を想定したものではない。だが、派遣国の状況の緊迫度と相手方の武器の水準に合わせて、今回かなりの重装備を送る。これは「普通の軍隊」には当然だが、「自衛隊」には許されない。「いずれ必要ならば戦車も送る」ということにはならないのである。
武器といっても多種多様である。小銃や機関銃とともに、自衛隊隊員がイラクに当然携行するであろう手榴弾についてはすでに紹介した。そこでまず、注目の84ミリ無反動砲からみていこう。正確には、84ミリ携行式無反動砲「カール・グスタフ」という。スウェーデンFFV社が開発したものである。従来、無反動砲の欠点として、巨大な後方焔があった。射撃に対しては、味方の後方に常に注意を要する。しかも、この後方に噴出する火炎は隠蔽が難しく、命中しない場合は相手方の恰好の餌食となる。そこで、「目立ちにくい」という要請と、確実性、使いやすさという観点から、自衛隊にスウェーデン製「カール・グスタフ」が導入されたという経緯がある(防衛研修所一課講義資料73LO科-23『陸上兵器(1973)』77頁)。 この写真は、米軍のM136 AT4対戦車ロケットランチャーである。M72の後継として米軍が現在も使用している。口径84ミリで、250メートルの距離から発射して400ミリの装甲貫徹力をもつ。発射口にゴムのピラピラが付いているのが意外だった。本体は使い捨て。写真は数年前に入手したものだが、発射後の「ゴミ」と化したものであり、いわば「刀身の入っていない鞘」である。
イラクに持っていく武器で注目されるものの2つ目は、「パンツァーファウスト3」である。ドイツ製で、これも使い捨ての肩撃ち式対戦車ロケットである。Heat弾(成形炸薬弾)を使用し、化学エネルギーで戦車の装甲に高熱・高圧の爆風をあて、穴を開けて内部を破壊する。300メートルの距離から700ミリ以上の装甲板を貫通することができる。
3つ目は「ライトアーマー」といわれる軽装甲機動車。最高速度100キロ。高機動車よりも装甲が厚い。対戦車ロケットなどの車上発射も可能である。
4つ目は、「クーガー」と呼ばれる96式装輪装甲車である。12.7ミリ重機関銃、96式40ミリ擲弾銃が車載できる。最高時速100
キロ。通常は四輪駆動だが、オフロードでは八輪駆動への切り替えが可能だ。コンバットタイヤを使用しており、火力脅威のもとでも高速で人員を輸送できる。陸自普通科連隊の主力だった60式や73式の装甲車のような無限軌道(キャタビラ)は速度も遅く、今後は装輪装甲車が主流になるだろう。
イラクに持っていくこれらの武器・装備の特徴は何か。端的にいえば、機動力と火力の大幅アップだろう。PKOや人道的国際救援活動と異なり、今回は、戦闘状態が継続している地域への派遣であるから、戦闘行動を想定した派遣といえる。明らかに「戦闘出動」(Kampfeinsatz)である。自衛隊の最高司令官殿は、「どこが非戦闘地域でどこが戦闘地域かと今この私に聞かれたって、わかるわけないじゃないですか」(2003年7月23日、党首討論)と叫んでしまったが、持っていく武器を見れば、そこが戦闘地域であることは明らかだろう。無反動砲などで「武装した部隊を」、正当防衛で武器を使用することもありうるという形で実質的には「武力行使の目的をもって」、「他国〔イラク〕の領土・領海・領空に派遣する」のであるから、これは「海外派遣」ではなく、政府解釈の立場からしても初めての「海外派兵」となる。
なお、「安全性」という観点から、今回特別の装備を持っていくことはあまり知られていない。昨年12月20日、旭川の第2師団で、イラク派遣隊員の家族に対する説明会が開かれたが、その質疑のなかで、隊員に「新型線量計」を携行させる方針であることがわかった。これは『読売新聞』2003年12月21日付がベタで報じたものだ。この点は、昨年末のNHKラジオ第一放送「新聞を読んで」でも言及した(この直言の下の方を見よ)。『読売新聞』によれば、「放射能が確認された場合は隊員は現場から退去することになる」。だが、劣化ウラン弾は、ウラン238が10の13乗分の1という細かい微粒子になって飛散するから、汚染地帯は拡大する。線量計で危険が感知されたときは、すでにその隊員は体内被曝している可能性もある。たまたま米軍の放射線測定器(線量計)を入手した。腕時計型のRadiac Detector DT236/PDR-75である。袋には英文で放射線測定器と書いてある。これは、米軍は核・生物・化学兵器の戦場を想定した装備のなかにある。1990年からの10年間で、湾岸戦争に従軍した米軍の元兵士のなかで22万人もが障害者の認定を受けている。他国に侵攻し、破壊の限りをつくした外征軍の構成員自身が被害者になっている。こうした戦争を開始し、遂行し、新たな戦争を準備する者の罪は重い。
(この項続く)