着上陸訓練の狙い――西部方面普通科連隊の普通でない訓練 2011年2月21日

型ボートで海から夜陰に乗じて秘かに上陸する自衛隊員。米カリフォルニア州のキャンプ・ペンデルトンで2月9日に始まった陸自西部方面普通科連隊と米第1海兵機動展開部隊との実動訓練の模様は、なぜかNHKが詳しく伝えた。 テレビニュースはもちろん 、14日昼にはラジオのニュースでもけっこう詳しく触れた。ちょうど車を運転していて、「海から密かに上陸する訓練…」という下りで、エッという違和感を覚えた。海兵隊と、どんな想定で訓練をやっているのか。防衛省ホームページの「報道発表」を見ると、 海兵隊との実動訓練の目的は「多様な事態に即応する能力を高めるため、効果的な訓練施設等を有する米国に部隊を派遣し、経験豊富な米軍から知識及び技能を吸収するとともに、相互連携要領を実行動により演練し、戦術・戦闘能力等の向上を図る」とある 。これだけでは何のことかわからない。

西部方面普通科連隊(WAiR)。2002年3月に新編された。普通科連隊は旧軍では歩兵連隊にあたり、1つの師団に3ないし4個連隊が配属されるが、この部隊は普通ではない。 中央即応集団 と同様、地域はりつけ部隊ではない。本来ならば第4師団(福岡)に属するのだが、西部方面総監直属で機動運用される。約2600ある九州の離島防衛用として、担任区域は対馬から与那国島までの南北1200キロ、東西900キロと何とも広大である。650人の隊員は、全国から集められた、大半がレンジャー徽章をもつ精鋭である。なお、この絵はがきの構図は、 レンジャー徽章と烏天狗が組み合わされているようだ 2001年9月に水島ゼミ長崎合宿のおり、基地班が佐世保の海自総監部などを取材したが 、その際、この部隊が置かれる相浦駐屯地近くにも行った。駐車場に他県ナンバーの車が多く駐車しているのを確認している。

私は発足時から、この部隊が従来の自衛隊の性格を変えるものを持っていると直観し、一貫して注目してきた。この部隊でベテラン陸曹が3人も相次いで自殺する事件が起きたときも、すぐに 「精鋭自衛官3人はなぜ自殺したのか」 という直言を出した。 自衛隊が米軍の後方支援部隊から、「槍の穂先」の部分も担う組織に変貌を遂げつつあることと無関係ではあるまい

2006年1月からこの部隊は毎年のように、カリフォルニア州のキャンプ・ペンドルトンなどで海兵隊と共同訓練を行ってきた。だが、今回は少し様子が違う。 新防衛計画大綱 が「専守防衛」と決別し、「動的防衛力」にシフトしたこともあって、離島防衛を前面に押し出しても批判されないと踏んだのだろうか。

冒頭の写真を見ればすぐ気づくように、CRRC(戦闘強襲偵察用舟艇)を使って、着上陸の訓練を米軍と行っているが、操縦しているのは米海兵隊員である。 演習の模様を撮影した映像 を見ると、海から上陸してくる隊員たちの背後に、米海軍の強襲揚陸艦が控えている。まさに着上陸作戦である。補給艦「おおすみ」などにも搭載されるエアクッション艇(LCAC)を使って、砂浜に突入する訓練もやったという(かつて ゼミ生はLCAC駐機場の写真を撮っている )。この部隊は海兵隊とともに、上陸後に橋頭堡を築くこともやっており、かなり積極的、攻勢的な作戦であると言えよう。

  米海兵隊との共同訓練の名称は「鉄の拳」(Iron Fist)という。First to Fightの「なぐり込み部隊」としての海兵隊から「知識及び技能を吸収」し、「相互連携要領を実行動により演練」する狙いは何か。

  在日米軍のホームページには、 訓練の様子が写真入りで出てくる 。米海兵隊のホームページの2月14日付ニュースには、「鉄の拳」が日米部隊間の「双務的な水陸両用訓練」であると書かれている。戦場の実際の側面を押し出した訓練という面も指摘されている。今回の訓練には 第1海兵戦車大隊も初めて参加したという 。日米の「軍事的な相互運用性(interoperability)」が増したとも書いてある(2月14日付)。自衛隊の一人の小隊長は「日本で我々は50年も60年も現実の戦闘を経験しないできた。…我々は海兵隊との訓練から経験を得ることができた」と語ったという(2月15日付)。

 西部方面普通科連隊がやっているのは普通の訓練ではない。離島が「敵」に占領されたとき、それを「奪還」する訓練である。だから着上陸作戦や橋頭堡の確保などが演練されているわけだ。だが、「奪還」作戦の訓練を積めば、その能力の応用は日本の離島防衛だけに限られないだろう。米海兵隊はいつでも、どこでも軍事介入する「なぐり込み部隊」である。その海兵隊と西部方面普通科連隊との「相互運用性」を高めていく狙いは、将来的にアジア・太平洋地域における米海兵隊の役割を徐々に日本に担わせていくことにあるのではないか。 中央即応集団 との本格的な「相互運用性」強化の布石とも言えよう。最終的には、西部方面普通科連隊は「日本海兵隊」になるのだろうか。

そもそも現在の段階で、誰が日本の離島を占領するだろうか。新防衛計画大綱では、 中国の軍事的脅威が強調されている 。離島「奪還」の訓練のように見えて、実は自衛隊が他国への着上陸作戦を実施できる能力をもつことが意図されているのではないか。日本が軍事力を普通に行使する「普通の国」になるためには、「普通科」を「歩兵」にしたいところだろうが、それができないのも憲法9条が存在する故である。

イラク「復興支援活動」に5つの方面隊から2回にわたり、10次の部隊を出したが、 その本当の狙いは実戦的な雰囲気のなかで海外派遣の体験を積むことにあった 。前述のように、共同訓練に参加した西部方面普通科連隊の一小隊長が「現実の戦闘の体験」を語っていることからも、いま、自衛隊が「戦える軍隊」になる途上にあることは間違いないだろう。

ところで、米国でやっている日米共同実動訓練に参加する法的根拠は何か。防衛省設置法4条9号である。「所掌事務の遂行に必要な教育訓練に関すること」。組織法たる防衛省設置法の所掌事務が列挙されているなかのこの地味な規定に基づき、米軍との実戦的訓練のレヴェルを上げている。組織や装備、訓練などが拡大・強化されても、法的根拠・権限を伴わないのが悩ましいところだろう。設置法4条〔以前は5条〕18号の「所掌事務の遂行に必要な調査及び研究を行なうこと」という歯の浮くような「根拠」が、護衛艦の海外派遣などのため、何度使われてきたことか。

「離島防衛」という名目で、「動的防衛力」は既成事実を積み重ねている。この国の平和と安全保障のあり方の根本が問われているときに、菅首相は政権維持のため、民主党議員の「離党防衛」しか頭にないようである。  

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