雑談(99)雑談についての雑談 2013年4月8日


の「雑談」シリーズもけっこうな数になった。次回は16年間で100回目の「雑談」になる。「音楽よもや話」が20回、「『食』の話」17回、大学教員・学生論14回、IT関連が13回、映画評5回、「それりゃないぜ」シリーズが3回、あとは人生論や健康法、世相論などである。99回目は、60歳になっての個人的雑談である。

10年前、「『人間50年』からの出発」を出した。織田信長が好んだ敦盛の一節、「人間五十年、化(下)天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり」を意識していた。その時の心境は「50にして迷わず」で、「やれないできたこと」「やりたかったこと」を後悔することはやめにして、「やれることをやる」ことにしたと書いている。当時はまだ肩に力が入っていたようだ。

元旦の「直言」でも書いたように、先週の4月3日、私は還暦を迎えた。「60にして…」の心境は、「やりたいことをやる」である。そのために無理をしない。自然体でいく。そして、自然との関わりを重視して、「土」を大事にしていきたい。7年前から、「歩くことが『土との対話』であることに気づいた。歩くことが楽しみになると、気づかないうちに、周囲の自然が語りかけてくる」という心の持ちようになった。「地に足をつけて生きてこそ、初めて人間らしく生きていることになる。…人もまた土のなかに根を張って生きている」という言葉を大切にしていこうと思う。

振り返れば、30年前に初就職して以来、3つの大学に勤めた。引越しは、東京→北海道(同一町内引越し1回)→広島→東京と4回やり、研究室の引越しも5回やった。山野井敦徳『大学教員の移動研究』(東信堂、1990年)という 579頁の分厚い研究書を見ると、大学教員の移動には一定の法則や傾向があって、移動頻度の高い教員も少なくない。私は平均的な方だろう。自宅と研究室の最低2つの引越しをするので、けっこうエネルギーを使う。そのつど、書物を段ボールに詰めて移動する。この30年間で、一度も使わなかった(読まなかった、観なかった、聴かなかった)ものが何と多いことか。

 1996年に今の職場に赴任する時、広島から送ったまま自宅書庫に収納せず、一度も開けていない段ボール(文献)が30個以上ある。ツン読(積んでおく)にも限度がある。そこで一度も読まない、二度と読まないだろう、という本は処分することにした。
かつては新聞の切り抜きもたくさん保存していて、引越しの際、かなりの個数の段ボールに詰めて運んでいた。でも、近年は膨大な切り抜きのなかから、黄色く変色した貴重なものをほんの数枚保存し、あとはすべて捨てるようにしている。「無駄は無だ」と言わずに、「無意味の有意味」として続けているが、これもそろそろ「戦線縮小」に向かっている
「社会の裏をみるビデオ」(水島裏ビデオ)もたくさんあるが、DVDの登場とともにビデオデッキで見ることがほとんどなくなり、年に数回、授業やゼミで上映する程度になった。それでも、ビデオデッキとビデオは保存しておこうと思う。レコードやカセットテープと同じように

1985年にワープロ(親指シフトキーボードを使いはじめ、1990年にパソコンを導入したが、IT分野のこの15年の急展開、急更新(バージョンアップ)はすさまじいものがある。「スマホ」の普及で「携帯電話」も死語になりそうだ。私は15年前に携帯不保持を宣言したが、それでも限定的に持つようになって、いまはかなり活用している(ゼミ合宿時の「指導」)。
 原稿執筆にはパソコンは使わず、未だに親指シフトキーボードのワープロ専用機で書いている。これも最近少し光があたってきたので、このこだわりの道をそのまま続けようと思っている。ブログ、ツイッター、フェイスブックなどはすべてやらないことにしている。だから、このホームページのことを、「水島朝穂のブログ」と決して言わないで下さい!)。
ただ、携帯から「スマホ」へは移行しない、たぶん移行しない、移行しないんじゃないかな、ま、いつかは修正の直言を書くかもしれない(さだまさし『関白宣言』のメロディで♪♪)、というところか。

 この「雑談」シリーズで、「音楽」に次いで多いのが「食」である。飲食という言葉があるが、一般には「お酒を飲んで、食事をする」ということが含意されている。料理屋やレストラン、居酒屋などに入って、「お飲み物は?」と聞かれれば、「とりあえずビール」というところだろう。だが、私はアルコール分解酵素が少ない体質のため、酒は一切飲まない。ドイツでの在外研究中は、ミュンヘンのオクトーバーフェスト(ビール祭り)でも、ライン河畔のワインの名所リューデスハイムでも、アール河畔のバート・ノイエンアール(ドイツでは珍しい赤ワインの産地)でも、もっぱら“Mineralwasser ”(炭酸入りの水)を飲んでいた。広島時代は西条の酒(賀茂泉や賀茂鶴)を贈られても人にあげていたし、いまの職場に来てから、ある方に新潟の酒「久保田」萬寿4升を贈られた時でも、ゼミ合宿の際に学生たちに飲んでもらっていた(7、8期生は舌で覚えているよね?)。 煙草は息子が生まれた26歳の時にやめている。他方、コーヒーは大好物なので、これからも美味しい珈琲店は開拓していきたい。

 普通の人が楽しみにしていること、嗜(たしな)みとしていること、趣味や娯楽としていることを、私は60年間やらないできたように思う。例えば、スポーツ観戦。テレビのニュースをみていても、スポーツコーナーになるとすぐにチャンネルをかえてしまう(朝と夕方の特定時間帯は、NHKから全民放までスポーツコーナーになるのでテレビを消す)ため、家人に顰蹙をかってきた。オリンピックはもちろん、野球やサッカーも観戦しない。早大生で早慶戦に一度も行かなかったのは希有な部類に属するだろう。
 東京競馬場の近くに生まれ育ち、今も住み、競馬関係者を親戚に持ちながら、馬券(農水省所管)を一度も買ったことがない。歩いて15分くらいのところに競艇場(国土交通省所管)があり、隣の調布市には競輪場(経済産業省所管)もあるが、まったく縁がない。宝くじ(総務省所管)もサッカーくじ(文科省所管)も買ったことがない。ゴルフ、マージャン、囲碁、将棋、花札、トランプ、パチンコなどもすべてやらないできた。

一体、何を楽しみに生きてきたのかと言う人もいるだろう。こんな奴、話題が合わないから付き合いたくない、と言われる一番嫌なタイプかもしれない。でも、上記のことは、私的な世界で静かに貫いてきたので、飲み会は主催するし、参加もする。楽しく酒場で時間を過ごす。かつてはスナックにボトルを入れて、人に飲ませていた。人々の関心の高いスポーツ関連の事象(WBC 、ワールドカップ、オリンピック等)については、社会現象として観察して「直言」でも書いてきた。つまり話題にはできるし、関心も向けるが、自分から日常的に熱中しないというだけである。IT関係についても、ツイッター上の橋下大阪市長の乱雑な呟きから、「水島憲法ナウ」なんて呟きまでキャッチしている。決してIT拒否でないことは、16年前にホームページを開設し、読者の方々に「直言ニュース」というメルマガを配信していることからもご理解いただけると思う。

人生の限られた時間は、それぞれの使い方がある。それだけ時間が貴重ということである。古稀まであと10年。最近、40代の時よりも、50代前半よりも元気で、健康になったように感じている。だから、今年の憲法記念日は、4月29日に福島、5月2日に札幌、3日岡山、4日水戸と4連続講演を行う。周囲に大丈夫かと心配されるが、無理はしていないつもりだ。むしろ楽しんでいる。ちなみに、2007年の安倍内閣の時、5月2日札幌、3日水戸の連続講演だった。

この「直言」については、あと10年たって早大を定年退職した後も、管理人が、「事情により前回の『直言』をもって終了となりました。長年のご愛読どうもありがとうございました」と画面に通知するまで続けるつもりである。
 今後とも「直言」をどうぞよろしくお願い致します。


《付記》冒頭の写真は、中央自動車道笹子トンネル内。12月2日に崩落事故(9人死亡)があったが、私は3時間遅く出発したため、事故に巻き込まれなかった。2012年は41回笹子トンネルを使ったが、42回目の通過直前に事故は起きた。12月29日から片側交互通行が始まり、写真は1月7日にトンネル内で撮影したもので、速度の早いところではセンターポールが消えて見える。なお、2月8日に全面開通したので、この写真は「最初で最後」になってほしい。

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