集団的自衛権行使を憲法上可能とする閣議決定(7月1日)から2週間が経とうとしている。防衛関係法案の提出に向けてすぐにでも動き出すと思いきや、安倍首相は法案を一括して来年の通常国会に提出することを決めた。内閣支持率に陰りが見られたため、統一地方選挙への影響を避けて先送りしたものだ。あれだけ「私(わーくし)は国民の命と暮しを守ります」と力んで語っていたのに、何とも切迫感の薄い対応である。本来なら、閣議決定について与党支持者を含めて説得や調整に努力すべき時期にもかかわらず、安倍首相は7日間の「外遊」に出かけてしまった。
会談の相手は最も話し合いが必要な中国、韓国の首脳ではなく、オセアニア3カ国の首脳たちである。オーストラリア首相は4月に来日して会談したばかり。わずか3カ月でこちらから出かけていくのは異例である。欧州で圧倒的に嫌われているエルドアン・トルコ首相と8カ月に3回も会った異様な蜜月を想起させる。貧しい安倍式人間関係のつくり方(オトモダチ主義)が、日本外交に不幸をもたらしている。
しかも、オーストラリアとは防衛装備品移転に関する協定まで結んできた。「武器輸出三原則」撤廃後、本格的な武器取引関係が生まれたわけである。また、防衛大臣を米国に送り、「日米同盟の革新的強化」を約束させられてきた(『読売新聞』7月12日付夕刊)。日米安保条約の本文は一切変えないで、日米の軍事的協力関係は質的に転換していく。かつて共編著で出した『グローバル安保体制が動き出す』(日本評論社、1998年)は新ガイドライン(日米防衛協力の指針)と周辺事態法の分析だったが、16年たって、真性の「グローバル安保」に踏み出したわけである。さらに、12日付『東京新聞』1面トップには、「武器『攻撃型』シフト」として、強襲揚陸艦の導入や、オスプレイ17機購入を含め、自衛隊の装備が「先制攻撃」力を保持する方向であると伝えている。加えて、政府は「国家安全保障宇宙戦略」(日本版NSSS)を策定する方針を固めたというリーク記事も注目される(『読売新聞』7月8日付一面トップ)。「日本版NSC」をはじめ、この「日本版」+英文略語が曲者である。知らぬ間に、宇宙空間の軍事化まで進んでいる。
7月1日の閣議決定は、あらゆる意味でこの国の平和と安全保障の方向を大きく変えるものとなる。強引な進め方からも、知らない間でどんどん決まっていくという「勝手に決められる政治」の弊害を加速していくことになるだろう。
こうした現状に危機感をもって、一昨日(7月12日)、全国憲法研究会の公開緊急研究会が開かれた。国際法研究者をゲストに迎えて、そもそも集団的自衛権とは何かから、集団的自衛権行使容認の閣議決定の背景や今後の課題などについて検討した。その様子は、NHKニュース(7月12日午後8時45分)でも紹介された(ウェブサイト上記事)。だが、「法案の慎重審議を求める」という温和な形にまとめられ、私のところには「憲法学者は閣議決定に対する危機感がない」という趣旨の批判も届いた。少なくとも私の冒頭の問題提起では、相当激しい安倍内閣批判をやったつもりなのだが。誤解を呼ぶ「温和な報道」になってしまっていた。
それにしても、最近のNHKの報道には政権への忖度・迎合が目立つようになった。例外は、7月3日の「クローズアップ現代」である。国谷裕子キャスターがゲストの菅義偉官房長官に、集団的自衛権行使について鋭く迫っていた。近年のNHKの番組ではついぞ見られなかった、切れ味のいい質問だった。ところが、官邸がこの国谷キャスターの質問や番組の構成に不快感を示し、NHK会長などが謝罪したということが、『フライデー』7月25日号(11日発売)で明らかにされた。政府を批判し、チェックするのが報道機関の使命なのに、NHK会長は「政府が『右』と言っているものを、 われわれが『左』と言うわけにはいかない」とのたまうとんでもない人物である。これがもし本当ならば由々しき事態である。NHKのなかでがんばる良心的な人々と連帯して、「安倍さまのNHK」となることを阻止しなければならない。
ここで改めて思う。安倍首相は7月1日に、閣議決定でこれまでの政府の憲法解釈を本当に変更したと言えるだろうか。12日の全国憲法研究会の緊急研究会で報告した小澤隆一氏(慈恵医大教授)は、「普通、憲法解釈を政府が示すのは、国会で追及されて苦し紛れに出してくるものだ。それを自分たち自ら出してくるのはおかしい」と指摘。パネラーの蟻川恒正氏(日本大学教授)は、「これは憲法解釈の変更などではない」と断言していた。7月1日は、まともに記者の質問も受けつけない、安倍首相の「記者会見ショー」(『毎日新聞』7月11日付夕刊「週刊テレビ評」)だった。あれは「新しい憲法解釈の政府発表」などでは断じてなく、「安倍内閣は憲法違反をします宣言」にほかならなかった、ということを明確にしておく必要があるだろう。
7月1日の「閣議決定」なるものについて、本日(14日)以降の衆参両院予算委員会の閉会中審査のなかで、徹底的に追及してほしいと思う。メディアにも、いま、ほんとうに必要な報道を期待する。
《付記》前回の末尾で予告した公明党の「転進」について書いた「直言」は、都合により次週アップすることにしたい。