毎週書き下ろしをアップするのはかなり大変である。1997年1月3日の第1回から毎週一度も休まずに更新し、今回は939回目になる。何の節目にも境目にも潮目にもならないが、来年12月末の1000回をめざして淡々と更新を続けたいと思う。
という言い訳で始まった今回の直言は、取材などで撮りためてきた写真のなかから、憲法や政治、軍事などとは一見関係がなさそうでいて、実は関係のないものをみつくろって、アトランダムに紹介することにしよう。「閑話本題」の写真バージョンである。
まずは10月8日の皆既月食の写真である。私の息子は小さい頃から天体観測が好きで、月食、日食、金環食から獅子座流星群にいたるまで、昔から「天体のイベント」になると、親の知らぬ間に出かけて写真を撮ってくる。学生時代、私の在外研究中の1999年夏、ボンに1カ月遊びにきて、8月11日の皆既日食を見にカールスルーエまで行った。冬に1カ月来たときは、12月25日にアイスランドにオーロラを見に行くといってでかけ、吹雪にみまわれたことも。いま、近県で獣医をやっている。そんな彼が突然、こんな写真をメールで送ってきた。「10月8日19時20分に品川埠頭に到着し、21時30分まで撮影を続けた」とメールにある。金環食のときは、スカイツリーを入れた写真を送ってきた。それに比べると、今回のものは少し腕をあげたかな、と思った。親馬鹿で失礼。
2枚目からは、私が山歩きの途中で思わず撮影したものである。散歩中なので、携帯電話のカメラで撮ったものが多い。見にくい画像もあることをご容赦いただきたい。というわけで、右の写真は今年の4月、仕事場のある八ヶ岳南麓を散歩中、鹿の大群に接近遭遇して、あわてて携帯のカメラで撮影したものである。30頭はいた。仕事場からたいして離れていない。ここは海抜1030メートルだが、彼らが生息するあたりの食べ物が乏しくなって、下の方におりてきたのだろう。何年か前、庭に鹿の足跡を見つけた。防災無線で、「銃器による有害鳥獣の駆除が行われます。山林等に入るときは十分注意してください」という放送が流れることも。遠くで「ドーン」「ドーン」という発砲音がする。近隣の住人の方が血の滴る鹿肉を持ってきたこともあるが、私は遠慮しておいた。
左の写真は、山のなかで狩をするハンターたちに向けた標識である。「銃猟禁止区域」というのは古い標識で、その下に「特定猟具使用禁止区域」という比較的新しいものが並べて掲げてある。「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」(平成14年法律第88号)の改正により、「銃猟禁止区域」が2007年4月16日から、「特定猟具使用禁止区域」に名称変更された。改正前の標識を撤去せず、改正後の名称と並べて表示することで、ハンターに周知しようという配慮だろうが、そのままになっている。昨年12月にこの近くを通ったときは、「特定秘密保護法」の成立が近づいていたこともあり、この「特定猟具」という言葉にこだわって、あれこれ思考をめぐらしていた。「特定猟具」とは「銃器」のことなので、罠などは含まれないということらしい。「銃猟禁止」と同じならば、「特定猟具使用禁止」というぼかした表現にする狙いがよくわからない。
右の写真は、2月8日から9日にかけての大雪で、中央自動車道が通行止めとなった際の、調布インター入口近くの案内表示板である。「高井戸-諏訪 ユキ通行止」。これが意味するところは、高井戸インターから諏訪インターまでの、1都3県にわたる182キロが完全閉鎖ということである。これまでなかったことである。レアものなので、車から携帯のカメラを操作していた。そのまま関越自動車道の練馬インターに向かった。関越道、上信越道は除雪が完璧で、普通に走れた。越後の田中角栄のすごさを改めて思った。上信越道を経由して佐久インターから国道141号を使って八ヶ岳南麓まで行った。夜遅く着いたが、仕事場周辺には60センチの雪が積もっていた。夜の雪かきをやって、ようやくなかに入れた。入学試験があったため、原稿書きを切り上げ、13日朝早くには東京に戻った。ところが、この日午後にかけて雪が降り始め、14日からものすごいことになった。各地で1メートルの積雪。15日の法学部の入学試験が行われたが、交通機関があちこちで麻痺したため、受験者の12%が欠席。再試験という初めての事態になった。山梨県の被害が大きく、私の仕事場近くでも、車に閉じ込められて男性が凍死したという。内閣府の「平成24年豪雪について」(PDFファイル)を見ると、山梨県が死者5人など、被害が最もひどかったことがわかる。除雪車が十分でない山梨県は、この大雪に苦慮していた。国の対応は遅く、県内には孤立した地域が続出していた。私も入試で東京にもどらなければ、雪に閉じ込められていただろう。 除雪が進まないなか、新潟県が除雪車の大規模派遣を実施した。山梨では「450年後も新潟に助けられた」と、孤立した武田信玄に塩を送った上杉謙信に例える声があちこちで聞かれた。2014年は台風、ゲリラ豪雨、土砂災害、竜巻、火山噴火の夏だったが、冬の豪雪も忘れられない。
さて、山歩きをしていると、ときおり奇妙な立て札に出会う。「ゴミを捨てた人は死刑です。山の神(?)」。穏やかではない。廃棄物の不法投棄は「何人」でも処罰される。罰則は5年以下の懲役または1000万円以下の罰金またはその併科である(廃棄物の処理及び清掃に関する法律25条14号)。これでもけっこう厳しい。この立て札を作った人は、「イスラム国」なみのさらに厳しいルールを他人に求めているのだろうか。この立て札よりは、「ゴミは持ちかえりましょう」という看板に、一言書き加えた人の方が粋ではないか。
田舎道や山の中には、けっこう過去のポスターがそのまま放置され、ひどい状態になっているのを見かけることがある。長期間放置されているから、顔が半分なかったりして、気の毒なものもある。「まずは景気だ」というポスターが傾いて、埋もれているのを見かけたことがある。財務大臣として再登板したこの人物のもとで、いま、景気は傾きかかっている。
もう一枚のポスターは、内閣を放り出してから1年近く、どこか寂しげな表情で農道の横に立っていた。これを見つけたときに直言で書いたのが6年ほど前である。雨に濡れ、雪に半分顔が隠れた日もあった。しかし、ある日、突然、ビリビリに破れた状態になっていた。まさかこの人物が再び総理大臣として復活するとは夢にも思わなかった。だが、いま、農水大臣が3人続けて辞任した7年前のような空気が漂ってきている。それは・・・。
と、ここまで書いてきて、政治や憲法に関係ない写真の話ということだったのに、生々しくも政治の話になってしまった。そこで、冒頭が息子の皆既月食の写真だったので、孫の写真で終わりにしよう。2年前の晩秋、落ち葉の山をつくって、そこにもぐって顔を出した「お月さま」のつもりである。