「直言」19年、1000回――さまざまな反響
2016年1月18日

院生・OBからの色紙

1997年1月3日に第1回の「直言」を出してちょうど19年。昨年12月14日に連続更新1000回になったのを契機に、読者の皆さんからは励ましのメール、友人からは花束、研究室の大学院生とOBたちからは記念の色紙をもらった。色紙には、各人一人ひとりの「私の直言、この1本」も添えられていた。うれしかった。人生のそれぞれの局面で「直言」と出会い、自分の1本として大事にしてくれていた。その一例。「それぞれの「記念日」」「「しかたない」と「しょうがない」」「出ないと会えない」「死刑で日中「友好」はやめよう――韓国の途」「ハンバッハと天安門」「これは真正の非常事態だ」(あの時にともに苦労したという思いで)「「1000分の1程度の解釈改憲」と憲法学」等々である。なお、この色紙に参加できなかったあるOBは、昨今の安倍政権の「もし万一攻められたらどうする?」という物言いに関連して、15年前の「もし万一攻めてしまったら」のリアリティと、「わが歴史グッズの話(34)警察予備隊63周年」を「私の直言」に挙げる。

ホームページのアクセス状態をみることのできるサイト(Usage Statistics)で調べると、「直言」のバックナンバーで年間を通じてヒット数が多い「御三家」がある。トップは「靖国神社には行かないよ―ある特攻隊員の遺書」である。次は、「日航123便はなぜ墜落したのか」と、昨年の「30周年」のもの。 第3位は「ある交通事故のこと―さだまさし「償い」」である。この三つは、安保関連法や憲法の話題を除いて、年間を通じてアクセスがある。試しに「上原良司」と検索すると、Wikipedia の次に「直言」がヒットする。「日航123」でも、「さだまさし 償い」もほぼこれに近い。

私は講演で、こう語るようにしている。「ご質問があれば、ホームページの「サイト内検索」を使ってください。例えば、「ナチス」「ベルリンの壁」「ブルックナー」などと入力すれば、歴史グッズを含めて「水島朝穂ワールド」が広がります。「チャーハン」と入れれば、私が超おすすめの小さな中華料理店が出てきます(笑)」と。

安倍晋三の1000回答弁

ところで、安倍首相は1月10日のNHK「日曜討論」に登場して、「寿司友司会者」と、「討論」というタイトルになじまない「対談」を行った際、「与党だけで3分の2というのは大変難しい。(野党にも)おおさか維新など改憲に前向きな党もある。未来に向かって責任感の強い人たちと3分の2を構成していきたい」と語った。明文改憲に向けた突撃ラッパである。この「直言」も批判を強めていかねばならない。

安倍首相による度重なる「壊憲」行為に新たに加わったのは、憲法53条違反である。53条後段に基づいて野党が臨時国会の召集を求めたのに対して、安倍首相は「外交日程」など、理由にならない理由をあげてこれを実質的に拒否した。詳しくは、直言「臨時国会のない秋――安倍内閣の憲法53条違反」をお読みいただきたい。

小泉内閣のときに臨時国会を開かなかったのは、野党の召集要求が11月27日だったこともあって、通常国会開催が近いと言い逃れる余地があったからで、今回は10月21日要求だから、年末まで71日間も空白をつくることになった。そのマイナス効果は、会計検査官などの国会同意人事が宙に浮いたことを含めて、国政全般にわたった。国会職員の正月休みを実質奪って、1月4日という史上最も早い通常国会召集で誤魔化そうとした。最初の本格論戦となった1月8日の衆議院予算委員会で、安倍首相は、「平和安全法制について1000回答弁した」と述べた。1000回も「丁寧に」説明したのに、なぜ国民の8割が法案に納得しなかったのか。この首相には、自省も自制もないから、ひたすら居直りと強弁が続く。そのなかで「1000回」という象徴的な言葉が出てきたので、私も、「直言1000回」をいうことをやめようと思う。「回数ではない。中身だ」という指摘は私の身近なところからも聞こえているので、今回でこの話題は打ち止めとする。

というわけで、「直言1000回」を取り上げてくれた『東京新聞』2015年12月29日付第2社会面「憲法や政権、直言重ね 早大・水島教授HPのエッセー1000回」と、『北海道新聞』2016年1月12日付総合面「人」欄を、「記録」のため以下掲載する。 下記の紙面をクリックするとPDFファイルが開いて読むことができる。

東京新聞[クリックするとPDFファイルで開きます]

  憲法学者の水島朝穂・早稲田大教授(62)が毎週一回する憲法を読み解くエッセー「直言」が今月14日で1000回に達した。開始から約19年。集団的自衛権の行使が容認されるなど平和憲法の土台が揺らぐ中、今後も憲法をめぐる動きに警鐘を鳴らし続ける。(関口克己)

 安保法制に反対する「立憲デモクラシーの会」の呼び掛け人などを務める水島氏。自身のHP「平和憲法のメッセージ」で毎週月曜日に更新しているのが、エッセー「直言」だ。
 1997年1月3日。知人から「HPというものがある。先生の名前で作るから、文章を書いてほしい」と誘われ、軽い気持ちで応じた。
 初回のテーマは、発生直後のペルー日本大使公邸人質事件。海外でテロに遭った邦人救出に関し「自衛隊の特殊部隊をつくれという世論を煽ることはやめるべきだ」と冷静な議論を呼び掛けた。
 まだHPが珍しい時代。ネット上に自分の考えが載り「おもしろいですね」。すると知人は「では、来週も」。続けるつもりはなかったが、評判も高まり止められなくなった。
 当時の首相は故橋本龍太郎氏。現在の安倍晋三氏までのべ9人も代わったが、水島氏は1年間のドイツ在外研究中も休まず政権と憲法を定時観測してきた。
 水島氏のHPの閲覧者は1日、1000~2000人程度。それが、安保法制が成立した今年は5000人を超える日もあった。「直言」は、野党議員が国会で質問する材料としてたびたび引用された。国会審議が進むにつれ、多くの矛盾が明らかになった安保法制は、与党などの賛成多数で9月19日に成立。それでも、水島氏は2日後には「直言」で「『廃止法案』を直ちに国会に」と呼び掛けた。
 「直言」開始から19年。今は多くの人がツイッターやブログを通じ、分秒刻みでメッセージを発信する。
 だが、水島氏は「瞬時のつぶやきは、主張が前のめりになる。自分にはHPがいい」と話す。とはいえ、講義や講演の合間を縫って、毎週更新のために数千字を書くには気力と体力を消耗する。家族は「隔週にしたら」と言うが、本人は「そうした途端に感覚は鈍り、書けなくなる」と、今のスタイルにこだわる。
 今月14日の1000回目はこう結んだ。「これからも、安倍政権の『壊憲』と対峙して、批判的な言論空間を創出していきたい」
 「直言」は、初回分から全て公開している。28日現在は1002回。HPのアドレスはhttps://www.asaho.com/

北海道新聞[クリックするとPDFファイルで開きます]

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