雑談(113)「直言」20年のこと――管理人の視点から
2017年2月6日

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の1月3日、「直言」は20周年を迎えた。私は1996年4月に広島大学から早大に着任したが、その年の12月、私の著書の読者で、ホームページ制作会社で働いているという方が研究室を訪れ、ホームページの開設をすすめてくださった。私はインターネットのテクニカルな面についてはまったく知識がなかったので、にわかに判断しかねていると、「試しに何か書いたものをください」と言われた。400字詰め原稿用紙1枚程度の走り書きをつくってメールで送ると、しばらくしてインターネットで読めるようになった。それが直言「ペルー大使公邸人質事件について」である。ルーズリーフの穴と罫線の模様、「平和憲法のメッセージ」のカバーページも同時に出来た。そこに掲げた言葉は、1995年9月に東京で開催された「国際憲法学会世界大会」における青島幸男東京都知事(当時)の挨拶の一部である。次の週も同じような試し書きメモを要求され、以来、今日まで毎週1回書き続けた。200回目あたりから1600字程度になり、いまは平均5000字前後になっている。

2002年10月に300回、2006年に500回(「人生のVSOP」)を経て、2015年12月14日に1000回となった。その時は『東京新聞』2015年12月29日付(PDFファイル)や『北海道新聞』2016年1月12日付「ひと」欄(PDFファイル)でも紹介された。私の研究室の関係者からは「祝1000回」の色紙をもらった。各人一人ひとりの「私の直言、この1本」が添えられていて、これが何よりうれしかった

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「直言」を始めたのは、1996年4月にYahooが誕生して9カ月後だった(当時のYahoo! Japanのデザイン)。当時、検索の窓に「憲法」と打ち込むと、憲法条文を集めたサイトと私の「平和憲法のメッセージ」のほかいくつかがヒットするだけだった。いま、「憲法」と打ち込むと2900万以上ヒットするから隔世の感がある。ドイツに滞在した1999年3月~2000年3月も、2016年3月~9月も、「ドイツからの直言」として休まずに更新を続けた。ちなみに20年の間の総理大臣は、第2次橋本内閣から第3次安倍内閣まで延べ11人になる(右の写真は、国会見学の休憩所で売られている首相グッズ)。

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「直言」を始めてまもなく、1997年4月26日の17回目の「直言」について、『琉球新報』1997年4月30日付コラム「あしゃぎ」に取り上げられた。これがその写真である。この人質事件では、投降したゲリラを射殺するなどした容疑で、2001年にペルーの司法長官が当時の大統領のフジモリ氏を殺人罪で起訴した。なお、フジモリ氏は大統領当時、3選を狙って憲法改正を企て、うまくいかずに失脚した。「人気があっても任期で辞める」という憲法の3選禁止条項に手をつけて、自分のために憲法改正を狙う権力者にまともな人物はいない。

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1997年から2003年までの「直言」を整理して単行本にしたのが、『同時代からの直言――周辺事態法から有事法制まで』(高文研、2003年)である。

ホームページの運営という面で言えば、私はパソコンやネットのテクニカル面はまったくだめなので、この20年間、延べ11人の管理人の方々にお世話になった。この機会にお礼申し上げる。またこのホームページを支えてくれているスタッフの皆さんにも、この機会にありがとうと言いたいと思う。

ところで、よく「水島朝穂のブログ」という言い方をされることがあるが、私は「ブログ」とも「ツイッター」とも距離をとっている。「水島朝穂のホームページ(ウェブサイト)」と正確に言っていただきたい。私のようによくしゃべる人間は、思いついたらすぐに「ブログ」に書き込み、「ツイッター」でつぶやく可能性がある。「ブログ」の特徴の第1は匿名性ないし半匿名性、第2に簡易性と速報性、即時性である。その特徴をさらに押し進めた「ツイッター」は、140字の「言葉の短機関銃」にもなり得る(トランプ新大統領の異様な「ツイッター的国政運営」を見よ)。確かに相当たくさんのことを発信できるだろうが、私は自らを抑制して、原稿をワープロで書いて、紙にプリントアウトして赤字を入れ、推敲スタッフが一字一句チェックして、それを技術担当スタッフに送ってアップしている。この手作業とアナログ的手法を今後とも続けていきたい(「更新のお知らせ」のみ、管理人が「ツイッター」を使っている)。

この20年の間に、さまざまな妨害行為や嫌がらせもあった。大きいものとして、15年前、私のサイトがディレクトリごと削除され、まったく読めなくなったことがあった。それまでも嫌がらせはあったが、まさかホームページごと読めなくなるのは初めてだった。何者かがDos攻撃を行った疑いがある。きっかけは安倍晋三官房副長官(当時)が、早大の全学共通科目(「大隈塾」)の1コマ分の授業のゲストとして招かれて、いわゆる「核武装発言」をしたことである。この授業の内容が週刊誌で書かれ、物議をかもした。私は「直言」で、これが公の場での講演ではなく、大学の授業の一環として行われたものであることを指摘し、授業を密かに録音したものを使った週刊誌の記事を、「大学の授業への「介入」」として批判した。すると、まもなくして、「安倍発言を擁護する水島朝穂教授」「進軍ラッパを吹く権力者を免罪」「反権力なき知性の限りない堕落」といった非難が寄せられ、同時期にホームページがディレクトリごと削除されるという事態に陥ったのである。その事実を知った時は顔が青ざめた。幸い、管理人が十分にバックアップをとっていたため、1週間程度で再び読めるようになった。当時の管理人の奮闘に、いまも感謝の気持ちを忘れたことはない。

最近も奇妙な事態が起きた。昨年12月、霞ヶ関方面のある官庁で働く読者からメールがきた。その官庁のどの部署でも、私のHPに「閲覧できません」という表示が出るというのだ。セキュリティ担当に問い合わせると、「フィッシング詐欺サイト」として登録されている可能性があるという。この時期に何者かが侵入してスパムファイルを埋め込んだ可能性がある。早速、霞ヶ関方面の官庁で働く知り合いにメールを送って「アンケート」をとってみた。すると、いろいろなことがわかった。もともとセキュリティが厳しい官庁は別にして、比較的「ゆるい」と思われた官庁でも、カーソルを私の「直言」(バックナンバーを含む、asaho.comを含むURL)にあてただけで、「危害サイト」の表示が出ることがわかった。詳しく書くと支障があるので、官庁ごとの「結果」についてはここでは書かないでおく。いずれにしても、私のホームページは昨年半ばから「フィッシングサイト」の疑いを意図的にかけられている。その結果、ネット環境のセキュリティの度合に応じて、私のホームページが読めなくなっている(させられている)。世界の独裁国家では、政府に批判的なサイトが閉鎖されたり、真っ黒になって見られなくなったりしているが、日本では同じことはできない。ちなみに、中国では3億3100万人のインターネットユーザーへの監視を強化し、国内のインターネットサイトを封鎖できる特殊なソフトを使っている。私のサイトにスパムファイルを埋め込んで、「詐欺サイト」に仕立て上げ、信用を落としにかかったとすれば、何とも卑怯なやり方である。故意にasaho.comを詐欺サイトだとする「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて」業務を妨害しているとすれば、「偽計業務妨害罪」(刑法233条後段)が成立するのではないか。この国は、メディア規制やネット規制でも、中国・北朝鮮などと何となく似てきたようである

さて、この事態に対応してくれている現管理人の望月穂貴君(博士課程後期2年)に、管理人としての「レポート」を書いてもらったので、以下掲載する。彼は第9代管理人で、2013年10月から毎週の更新をやってもらっている。


管理人からみた「直言」――運営の難しさと課題
望月穂貴

私は2013年度の途中から「直言」の管理人を務めており、中断期間を除き3年にわたって「直言」というプロジェクトにかかわらせていただいてきている。今回は管理人の立場からみた「直言」というテーマをいただいたので、私からみた「直言」の印象や管理上の苦労話を3点書いてみたいと思う。なお、私自身は、1998年頃にダイヤルアップ接続でインターネットの世界にふれ、家庭用光ファイバーサービスの最初期から光ファイバー接続を使ってきた家庭環境で育ったが、あくまで趣味で触っていたというだけで、私は通信技術やプログラミングに関しては素人である。

第1は、このウェブサイトの歴史の長さにかかわる話である。私が管理人になる以前、はじめてこのウェブサイトを閲覧した時に、デザインに妙に昔懐かしい印象を受けたのだが、1997年の開設と知って得心がいった。この「直言」はその当時の個人運営の「ホームページ」のスタイルを今に至るまで引き継いでいるというわけである。こうしたタイプの「ホームページ」は、法学者でいうとたとえば南野森氏(九州大学教授)や長尾龍一氏(東京大学名誉教授)、高山佳奈子氏(京都大学教授)らが長く運営しているから、これらを見ておくと往時の「ホームページ」のスタイルを思い出し、あるいはこのようなものだったのかと知ることができるだろう(南野氏のホームページのリンクコーナーにはさらに多くの法学者の運営するサイトが紹介されている)。そのなかでも1週間に1回必ず3,000字~5,000字程度の評論、随筆をアップしてきたこの「直言」はそのなかでもかなり手間がかかっているのではないだろうか。

毎週そのような文章を書く水島先生の苦労も大変なものだと推察しているが、管理人の仕事もそれだけ多くなる。とくに、2000年代後半に入って、文章の量が増大し、凝ったスタイルの文章も増え、また画像の使用量・品質が飛躍的に高まり、編集の手間も多くなっている。バックナンバーを辿ればわかるが、初期の「直言」は現在よりもずっと分量が少なく、画像も使っていない。現在も編集方法は(おそらくは)かつてと変わっておらず、htmlファイルを手打ちで作成している。カテゴリーやバックナンバーの一覧のファイルも更新し、あわせてサーバーにアップロードする。ツイッターのようなSNS、あるいはブログサービスでは、文章をただ打ち込むだけで、ブラウザ上で表示すべきHTML形式の文章が自動的に作られる。カテゴリーやバックナンバーの通覧も簡単にできてしまう。しかし、「直言」はそうはいかない。

水島先生の原稿は、推敲担当スタッフのチェックを終えたものがワードファイルで送られてくる。基本的な作業は、段落を整形し、原稿の指定通りにリンクや画像を整えていくものである(もっともその数が昔に比べて格段に増えたのは先述の通り。特に「ドイツからの直言」では凄かった)。単純作業とはいっても、執筆活動にとって文章のレイアウトやスタイルというのもとても大切なものだから、頑張って対応していきたい。

ところで、先程SNSについて言及したが、SNSでの発信を行っている憲法研究者も結構いるのである。先程の南野森氏もそうだし、同じ早稲田大学教授では西原博史氏もツイッターを利用している。SNSの利点は発信のフットワークが軽くなることで、多くの人に(あまり好きな言葉ではないが)「拡散」されてより意見を広める可能性を持っている。「直言」プロジェクトも新しい媒体を利用することはできないか。そういったところから、私は2015年、安保関連法案の審議が行われていた時、ツイッターでお知らせを出したらどうかと水島先生に提案した。先生がツイッターでの発信から距離を取る意向であるということは知っていたが、何らかの形でうまく利用できれば、より当時の議論に寄与できるのではないかと考えたからである(なお、ご自身は「発信」からは距離をとっているが、「受信」はバッチリ行っているという)。そこで、私は菅直人元首相(@NaotoKan)の運用方法に注目した。菅氏は、今でこそしばしば本人がツイッターに出入りしているが、当時は自らのブログの更新のお知らせにツイッターを使っていたので、それに習って、管理人による更新のお知らせとして使えば、短文投稿でも言葉足らずになることはなく、言葉の応報になるような事態も避けられると考えたのである。こうして、水島先生本人がツイッターに「降臨」することはないものの、その発信がツイッターに及ぶことになった。このように、「直言」自体は昔ながらの「ホームページ」のスタイルではあるが、新たな媒体にもうまく対応していきたいと考えている。

第2に、今も昔もウェブサイトの管理者の頭を悩ませる厄介な仕事、セキュリティ上の問題について述べたい。たかが個人のサイトと思うかもしれないが、このサイトは何度か攻撃を受けている。たとえば、かなり昔の話であるが、DoS攻撃を受けてサーバーがダウンしたことがある。また、このホームページを狙ったものではないが、昨年夏には、ドイツ滞在中の水島先生自身のパソコンがランサムウェアに感染し、使用不能になっている。

私自身は2014年と16年にこうした問題にぶち当たった。まず2014年には、サーバー上にスパムファイルを追加され、一時はGoogleのサーチエンジンに、疑わしいサイトとされたこともあった。ただちに管理会社に連絡してスパムファイルを削除したが、こういう評価をつけられるとホームページの信頼性がガタ落ちになってしまうし、検索エンジンで見る人が不安に思ってアクセスを控える可能性がある。意図的な攻撃だとすれば、直接ホームページをDoS攻撃などの手口でダウンさせるよりも悪辣な手口といえる。

ほぼ同様の手口が、昨年にも使われ、この時はデータがパンクして一時更新に支障をきたした。この時もすぐさま削除などの対応をとったが、おそらくこれが原因でいくつかのウェブサイトの信頼性評価サービスにマイナス評価を付けられてしまった(対処したので既に評価は戻っている)。これとの関連があるかどうかは断定できないが、昨年から官公庁のネットワークから「直言」の閲覧が出来なくなっているという問題がいまも続いている。官公庁のネットワークは大幅にセキュリティが強化されたようで、かなり多くの一般のウェブサイトが閲覧できなくなっていると聞いた。2000年頃に様々な官庁のページがハッキングされていたのをリアルタイムで見聞していた私からみると隔世の感があるが、「直言」もセキュリティ対策をぬかりなく進めていきたいと考えている。

第3に、ホームページの信頼性に関連した話題をもう一つ。ここ数ヶ月、「ポスト真実」(post-truth)という言葉が話題になっている。かつて「直言」では「戦争における「嘘」」について論じているが、ここでは私なりにみたpost-truthのことについて述べてみたい。そもそも、この言葉がもっとも典型的に当てはまるのは、2016年アメリカ大統領選挙のなか、SNSで拡散された嘘(フェイク)のニュースである。もっとも分かりやすく荒唐無稽な例として、ヒラリー・クリントンの選対陣営がピザレストランを拠点にして児童売春組織とかかわっているというデマ(いわゆるピザゲート陰謀論)が挙げられる。どう考えても荒唐無稽な作り話だが、これを信じた者が銃撃事件を起こしてさえいる。また、これと同レベルのフェイクニュースが、小遣い稼ぎを目的としたマケドニアの少年らによって大量に作られていたということがBuzzfeedの取材で明らかにされた。左派勢力をターゲットにしたサイトが収益を生まなかったのでドナルド・トランプ支持者をターゲットにした少年らは、捏造ニュースでアクセスを集め、お金を稼いでいた。さらに、こうした嘘ニュースは、SNSにおいて従来のメディアによる報道よりも高い関心を集めた。日本に置き換えれば、SNS上で朝日、毎日、読売といったメディアの報道が話題になるのではなく、「××速報」「××まとめ」のようないわゆるキュレーションサイト(まとめサイトと言われることが多い)の記事が多く流されるということである。

そして残念ながら、まったく同じ問題が日本でも起きている。DeNAのような大きな企業がアルバイトの学生に一記事いくらでキュレーションサイトの記事を書かせていい加減な医療情報を拡散していたという問題が明らかになったのは記憶に新しい(朝日新聞2016年12月9日付電子版)。つい最近では、Buzzfeed日本版の記者が、嘘ニュースを拡散した嘘ニュースサイトの管理人を取材している。嘘ニュースの管理人は、マケドニアの少年と同じで、金目当てで嘘をばら撒き、差別を煽っていた。こうしたサイトが厄介なのは、私たちが誰でも抱えている偏見や差別感情を煽るので、きわめて訴求力が強く、したがって拡散されやすいという点にある。もちろん、このような問題は今にはじまったことではまったくない。「直言」のバックナンバーでは掲示板「2ちゃんねる」のことが何度も話題になっているが、そういった煽動を行う人は「2ちゃんねる」などで昔からいた。いまになって従来のメディアの報道よりも注目を集めることができたのは、キュレーションサイトやSNSといったより強い媒体を手に入れたからに他ならない。

「直言」の管理人としての悩みの種は、大学教授が執筆しスタッフの推敲・校閲を経て掲載される「直言」の情報よりもキュレーションサイトに書かれている出鱈目なニュースの方が広まり、信憑性を持って受け止められてしまうことである。新聞のような「直言」とは比較にならない力を持っているメディアでさえ負けてしまうことがあるのだから、「直言」の力は推して知るべしということになる。

それではこのような状況にどう立ち向かうか。post-truthにどう対抗するか。本稿は「直言」管理人としてのものであるから、受け手である一般市民への注意喚起や啓発といったことではなく、あくまで技術的な側面に限定して述べてみると、たとえばGoogleは嘘ニュースを検索上位に表示しないように検索アルゴリズムの改良を進めているというが、それだけではなく、憲法にかかわる問題についてGoogleの検索上位に「直言」が出るような工夫ができないか。また、SNSでの発信に距離を置くという水島先生の戦術は、「炎上」でアクセス数を稼いで広告料金を稼ぐキュレーションサイトの餌食にならないための技術といえる。まともなサイトが注目度で嘘ニュースの上にたち、かつ嘘ニュースサイトの資金源になってしまうことを避けるという積極消極両面からの対策が必要だろう。

以上、3点にわたって管理人としての苦労話を述べてみた。第1はホームページのスタイルの古さと編集に関わる苦労。第2はサイバー攻撃対策の問題。そして第3は現在話題になっているpost-truthの政治に対抗し、ホームページへの関心度を向上させるという新たな課題であった。とりわけ3点目の問題は厄介で頭が痛いが、多くの人に「直言」を読んでもらえるようにこれからも管理人として微力を尽くしたいと思う。

(早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程)
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