トランプ・アベ非立憲政権の「国難」――兵器ビジネス突出の果てに
2017年11月20日

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ランプが大統領に当選して1年がたった。ドイツの週刊誌『シュピーゲル』は「その後1年のワシントン」という特集を組んだ。トランプ現象がアメリカ政治・社会はどう変えていったのかをレポートしている(Der Spiegel, Nr.45 vom 4.11.2017, S.10-22)。「トランプの遊園地」ワシントンは恒常的な興奮のなかにある。政治任用の連邦政府高官ポストのかなりの部分がまだ上院の承認を得ていない(7月段階で1割程度)。これはトランプ政権がまともな政府の体をなしていないことを意味している。「マフィアの家長のように、ビジネスと家族を結びつけている」。権力の私物化は著しい。気まぐれと恣意が支配し、米国におけるすべての政策が見直されている。Alt Right(もう一つの右翼)で白人至上主義者のスティーブン・バノン首席戦略官が影響力を行使して、中東諸国からの入国禁止措置やパリ協定からの離脱を主導したが、この危ない政権のなかで、一定の変化も生まれていることに『シュピーゲル』誌は注目する。8月にバノンが失脚したのが重要である。ポイントになるのは「3人の将軍たち」(マティス国防長官、ケリー首席補佐官、マクマスター安全保障担当補佐官)で、バノンの支持者は「将軍たちのクーデター」と呼んでいるという。北朝鮮対応についても、トランプの言動の揺れの背後に、軍事的合理性の権化たちの意志が作用していることがうかがえる。

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ワシントンはこの1年で根本的に変わった。あるジャーナリストはトランプを「ゴジラの報復」と呼ぶ。ゴジラはその心情をツイッターにぶちまける。『シュピーゲル』はゴジラ政権の1年を、ワシントンの象徴的な「場所」を軸に描いていくが、最後はホワイトハウス・西ウィングのプレスセンターである。トランプ政権になって、メディアとの関係はそれまでの政権とは一変した。当初のスパイサー報道官のひどい会見は印象に残るが、彼も7月に辞任した。いまは傲慢キャラのサンダース補佐官。『シュピーゲル』は彼女の写真を載せて、その口癖、「それは大統領とは何も関係ない」をキャプションに使っている。記者会見で、「全く問題ない」を繰り返す菅義偉官房長官と実によく似ている。

「ベルリンの壁」崩壊の27年後に再び「壁」を建設する大統領が誕生し、米国社会は大きく分断されている。物理的な壁の建設は費用等の事情で早急には進んでいないが、人々の心の内側の「壁」は高く、堅固なものになりつつある。人種差別と対立が先鋭化し、民主党と共和党の党派間の亀裂にとどまらず、与党・共和党内にも分断が生まれている(「トランプの時代」『朝日新聞』11月8日付)。権力は人事である。例えば、トランプがやった合衆国最高裁裁判官人事も徐々にその影響が出始めている。

トランプ政権の発足は、米国にとっての「国難」であるだけでなく、世界の国々のそれぞれの「国難」にもさまざまな形で連動している。パリ協定からの離脱の効果を考えれば、トランプ政権は世界各国の「国難」の集積を超えた、グローバルな危機の根源(「地球難」)をなしているのではないか。そのトランプと「蜜月」を突出して演じているのが安倍晋三首相である。

トランプの当選直後の昨年11月17日夕(日本時間18日朝)、安倍首相はニューヨークの「トランプタワー」58階のトランプ宅に駆け込んで当選の祝意を表した。54万円(税込み)のドライバーを手土産に。しかし、現職のオバマ大統領を差し置いて次期大統領と会談することは、外交の禁じ手だった。側近がさすがにまずいと進言し、トランプも「会談が適切なタイミングでないと知って安倍首相に電話したが、すでに機上だったため断れなかった」と、迎賓館での晩餐会(11月6日夕)の挨拶のなかで明らかにしている。トランプは安倍が電話で「早く会いたい」というので、就任後の1月20日以降という意味で「いつでもいい」と答えたので、2~4月頃と思っていたという(『朝日新聞』11月7日付)。このエピソードは、安倍首相の軽薄さと熟慮の欠如を象徴する出来事である。昨年12月のプーチン・ロシア大統領訪日時の、「温泉一緒に」長門ドタバタ歓迎を想起させる(直言「安倍政権の「媚態外交」、その壮大なる負債」)。

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安倍首相の「トランプ詣で」は各国首脳のなかでは群を抜いており、欧米のメディアは嫌悪感を示すものが少なくない。ドイツの保守系紙のサイトは、安倍首相の間抜けな顔を10カ月近く固定画面にして使っている。とりわけ11月5~7日のトランプ初来日の最初に行われた安倍式「ゴルフ外交」については、一段と冷やかな扱いをしている。当然だろう。「前座」の娘イヴァンカ補佐官の来日に際して、一国の首相が、たかが補佐官の到着を寒風のなかで待つ姿は、めまいを覚えるほどの驚きであった。

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5日午前、トランプを乗せた大統領専用機「エアフォース・ワン」は米軍横田基地に降り立った。歴代大統領は基本的に羽田空港など民間機が離発着する空港を使用している。日米安保条約6条により提供された施設・区域である米軍基地を離発着に使い、基地から日本国内に入るという方法を用いたのは、いかにもトランプらしい。日本を対等な主権国家と見なしていない証拠である。安全上の緊急の必要性もないのに、米国のトップが米軍基地から出入国することは考えられない。随行員はパスポートチェックなしに出入国したわけである。占領下に連合国軍総司令部(GHQ)マッカーサー最高司令官・元帥が、コーンパイプをくゆらせて厚木基地に降り立ったことを想起させる。『東京新聞』8日付「ニュースの追跡」欄がこれを問題にしたのが目立ったほかは、多くのメディアはスルーした。

11月16日発売の週刊文春・新潮(写真)は、「親分、どうぞ」のお得意のポーズで、忠実なる臣下の如き姿を描きだしている。肝心の「ゴルフ外交」は冒頭の写真にあるようなゴルフキャップをトランプに送って「親密ぶり」を演出してみせた。“DONALD & SHINZO MAKE ALLIANCE EVEN GREATER”(ドナルドと晋三は同盟をさらに偉大に)という刺繍が入っている(写真)。このキャップは4つ作られ、1つは松山英樹プロに、1つはゴルフ場に寄贈されたという(産経新聞デジタル版11月5日)。特注品で、これは安倍首相のポケットマネーというわけではないだろう。『ワシントンポスト』紙6日付は、「日本の指導者である安倍晋三はトランプの忠実な相棒を演じた」と報じたが、“sidekick”というのは「グル」「共謀者」という意味もあり、「忠実な」が付けば「パシリ」に近いニュアンスではないか。英国BBCは、「安倍首相がバンカーに落ちたとき、トランプはゴルフを続けた」と報じた。なぜかこの転落シーンはサイト上で削除が相次いだが、BBCニュースにはしっかり保存されている(CMをしばらく待てばみられる)。

この「ゴルフ外交」について、日本の多くのメディアは実況中継を交えた、批判的視点抜きの垂れ流し報道に終始した。特にNHKはひどかった(岩田明子解説委員の仕切り)。北朝鮮の核・ミサイル脅威が強まっている以上、それに対する抑止力を保つためには、安倍首相のトランプ対応はやむを得ない支出ないし負担と考える向きがある。しかし、これは間違いである。

そもそもトランプは安倍を圧倒的に軽くみている。トランプの12日間にわたるアジア歴訪の最大の狙いは武器の売り込み(米国内の雇用拡大)である。北朝鮮問題の解決ではない。安倍首相は勘違いしているが、トランプは拉致問題など、ほとんど関心の外である。歴代大統領、特にクリントンやオバマのように「人権外交」を説くならば、それなりに真剣な対応のそぶりをみせるが、トランプにはそれはまったくない。拉致された家族をとりもどすのに、先制攻撃という選択肢はあり得ないのに、その選択肢をチラつかせるトランプを拉致被害者に会わせて期待を抱かせる安倍首相の姿勢は、官房副長官時代から一貫している拉致問題の政治利用でしかない。

トランプの本音は11月6日の共同記者会見でおおらかに表明された。いわく「非常に重要なのは、日本が膨大な兵器を追加で買うことだ。我々は世界最高の兵器をつくっている。完全なステルス機能を持つF35戦闘機も、多様なミサイルもある。米国に雇用、日本に安全をもたらす」と。米合衆国大統領が兵器セールスマンよろしく、ロッキード・マーチン社の製品を売り込むのは異様である。日本の首相が外国訪問先で、「トヨタの車を買いましょう」というのに等しい。

これに対する安倍首相の記者会見での発言がこれまたすごい。「アジア太平洋地域の安全保障環境が厳しくなる中、日本の防衛力を質的、量的に拡充していかなければならない。イージス艦の量・質を拡充していくため、米国からさらに購入していく。ミサイル防衛システムは日米で協力して対処するもの。迎撃の必要があるものについては迎撃していく」(『東京新聞』11月7日付)。イージス艦の「量」にまで言及したことは、防衛計画にない追加の装備を米国の軍需産業から買う約束をしたことを意味する。安倍首相はトランプに「防衛計画の大綱」と中期防衛力整備計画(中期防)を前倒しで改定するという考えを示したともいわれている(『朝日新聞』8月19日付)。これにより陸上イージス(2基で1600億円)をなし崩し的に導入したとされている。どんな脅威に対して、どんな装備が適切かという議論も経ないで、ひたすらトランプの要求に先回りでこたえる安倍の姿勢は、もう「忖度」を超えている。「後年度負担」という「リボ払い」を活用して、高額の兵器をたくさん買い、5兆円以上の借金を追加していく。こういう首相が財政再建や少子化時代の社会・福祉政策を語るのはもはや「笑止」でしかないだろう。

なお、安倍首相の記者会見で出てきた「迎撃」という概念は、日本を直接目標とせず、グァムに向かうミサイルも日本が打ち落とすことまで含む概念として使われているようである。安倍首相は、「2日間にわたる話合いを通じ、改めて日米が100%共にあることを力強く確認しました」と胸をはるが、100%のなかには核先制攻撃も含まれるのである。

憲法90条は独立した機関として会計検査院について定める。毎年、この時期、会計検査院は決算検査報告書を提出する。会計検査院は先頃、米国から調達した防衛装備品の是正要求が遅すぎて、4585万円分が是正却下になったと指摘している。米政府との物品提供協定に基づき、装備品を調達する場合、代金を前払いして受けとる。品物に不具合があった場合や、米政府から送られる明細に誤りが見つかると、原則して出荷日から1年以内に米政府に是正を求めることになっている。2012~16年度の米政府への報告を会計検査院が調べたところ、破損品や旧型が届くなどしたため是正を求めたところ、出荷日から1年を超えたものが12件3194万円にのぼったという。また、明細にあるが実際には届いていなかったもので、是正要求が1年を超えたため結局、調達できなかったものが19件1391万円あった。例えば、海自の輸送機の整備用器材は16年3月に届いた直後に損傷があることが判明したが、防衛装備庁が問い合わせに手間取ったりして、正式の是正を求めたのが出荷日から1年1カ月後だったために交換されなかったという。結局、計31件の是正要求は期限の1年を超えたため米国政府に却下され、自衛隊では装備品が使えないまま終わったり、届いた旧型品の使用を余儀なくされたりしたという(『朝日新聞』11月7日付)。「1年以内」という日本に不利な条件のもとで、これからも米国から兵器を買っていく。ほとんどの納税者はこのことを知らない。

トランプと金正恩は「チキンゲーム」を繰り返しているが、実は二人は「グル」(相棒“sidekick”)かもしれない(「奇妙な同盟」(strange alliance))。核とミサイル脅威で日本や韓国の納税者を脅かし、「イージス・アショア」などを売り込んだあとに、二人で「ハンバーガーを食べながら」(トランプの大統領選挙中の発言)会談して、朝鮮君主主義臣民共和国の「國體護持」を保証する。不要となった山口と秋田の陸上イージスは、税金の無駄遣いランキング入りすることだろう。これが日本にとっては最悪のシナリオ(トランプにとっては最良のシナリオ)である。

日米関係を、漫画ドラえもんの「ジャイアン」と「スネ夫」の関係に例えたのは、16年前の直言「ジャイアンとスネ夫の関係」だった。私はそこでこう指摘した。「「日米同盟」というのは何とも不可思議な関係である。金持ちのスネ夫は常に「ジャイアンの威をかるキツネ」であり、そのくせジャイアンには反感を持ち、心から信頼しているわけではない。この屈折した関係は、まさに日米関係とよく似ている。」と。いま、安倍首相は、当時とは比較にならないほどの規模と内容でトランプの米国に迎合している。危機を煽り、国民の税金を大量投入して借金大国日本の基盤をさらに危うくする安倍首相こそ、最大の「国難」であろう。彼はもはや「スネ夫」ですらない。

《付記》読者から情報の提供があり、本文中でトランプ以外の米国大統領は基本的に基地を利用していないと書いたが、オバマ大統領は2016年の広島訪問の際、横田基地と岩国基地を使っていた。具体的には、ベトナム訪問に伴い、5月22日にエアフォース・ワンは燃料給油のため横田基地に立ち寄りハノイに向かった。5月27日、エアフォース・ワンは中部国際空港に着陸してから移動し、アメリカ海兵隊岩国航空基地に15時30分すぎに到着。岩国基地からマリーン・ワンに搭乗し、広島市の中心部に移動。広島での日程を終えたのち、同日岩国基地から帰国の途についた。
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