安倍首相が壊した「もう一つの第9条」——森友学園問題と財政法
2018年4月16日

写真1

写真2

年4月7日のシリア攻撃から1年たって、トランプは再びシリアに対する航空攻撃を行った。「化学兵器関連施設」への限定攻撃というが、シリアの内戦状態をさらに複雑化するだけではないか。安倍首相は直ちに、トランプのこの軍事行動を支持した。15年前の3月20日、米英軍によるイラク攻撃が始まった直後、小泉純一郎首相(当時)が記者たちに向かって、「ブッシュ大統領の行動を理解し、支持します」と言い切り、世界の首脳のなかで最速でこの侵略戦争を支持したことを思い出す。

世の中がいろいろと騒がしくなると、私の研究室所蔵の「歴史グッズ」も増える一方である。先週、二つが加わった。一つは奇妙なiPhoneとスマホのケースである(冒頭左の写真)。金正恩がマックシェイクとハンバーガーをもって、マクドナルドのコマーシャルに出てくるI’m lovin’ it.(アイムラヴィニット)という妙な英語を唱えている。ネットオークションで入手したが、出品者に問い合わせると、「香港製で、今は政治圧力で販売製造停止になっているらしいです」という回答が届いた。

トランプは、大統領選挙中、ジョージア州での演説(2016年6月15日)で、金正恩と会談する際には、会議用のテーブルでハンバーガーを食べると語っていた(『読売新聞』2016年6月16日付)。トランプは、5月末か6月初旬に行われる米朝首脳会談でこれを実践するだろう。昨年11月、安倍首相はトランプとのゴルフの前のランチに特製ハンバーガーを用意してご機嫌をとり、「ドナルド&シンゾー」のゴルフキャップを贈っている。あの「ゴルフ会談」から5カ月あまりで、明日(4月17日)、今度は安倍首相が米国に向かい、トランプとゴルフをやって会談するそうである。直言「「地球儀を俯瞰する外交」の終わり?トランプと「100%一致」の末に」でも書いたように、安倍外交は全方位で破綻している。「置き去り「安倍外交」?「米との揺るぎない絆」どこへ、情報不足で蚊帳の外」(『毎日新聞』4月10日付夕刊・特集ワイド)と皮肉られている。

国内的には、「モリ・カケ・ヤマ・アサ・スパ」の「安倍ゲート」のうち、「モリ」と「カケ」に関して、各省庁から続々と「不都合な真実」が飛び出し、安倍政権は最終コーナーをまわりつつある。そうしたなか、3月25日の自民党大会で代議員に配られた「記念品」を入手した。「書いて消せる!」とあるマグネットシート。早速、水性ペンで書き込んでみた。公文書も「書いて」(改ざん)、「消せる」(隠蔽)のか、と誰しも思うだろう。大会当日、党本部職員の一人は、「見た瞬間、「まずい」と思った」という。国会議員の秘書からは、「このタイミングでは冗談にならない」という声も(『朝日新聞』3月27日付)。弱り目に祟り目。安倍政権にとっての「不都合な真実」は、今週も新聞一面をにぎわすことだろう。

さて、今回は第9条の話をしよう。第9条といっても憲法9条の話ではない。12年前に直言「ふたつの第9条」をアップした。 「その2」から「その3」まである。憲法9条が国家権力の対外的作用を規制する一方で、国家権力の対内的作用である国家刑罰権を体系化したのが刑法典である。その第9条(刑罰の種類)には、生命刑としての死刑が定められている。対外的に武力行使を禁止しているにもかかわらず、対内的には人の命を奪う死刑を存置していることの問題性を論じた。刑法学者の團藤重光氏と伊東乾氏(作曲家)の対談『反骨のコツ』(朝日新書、2007年)186頁には、「平和憲法の遵守と死刑の廃止を二つの9条に絡めて議論」するものとしてこの「直言」が紹介されている。

ところで、今回はその刑法9条の問題ではなく、さらに「もう一つの第9条」の話である。財政法(1947年法律第34号)という法律がある。財政制度の骨格と財政運営の原則を定めた、財政に関する基本法である。その第9条にこうある。

1項:国の財産は、法律に基く場合を除く外、これを交換しその他支払手段として使用し、又は適正な対価なくしてこれを譲渡し若しくは貸し付けてはならない。
2項:国の財産は、常に良好の状態においてこれを管理し、その所有の目的に応じて、最も効率的に、これを運用しなければならない。

財務省の主要5局(主計局、主税局、関税局、理財局、国際局)のうち、理財局は、国庫、国債、財政投融資、国有財産などについて所掌している。国有財産については、国有財産企画課、同調整課、同業務課が実務を担っている。ここで仕事をする人たちは、財政法9条を知悉しているはずである。国有地をはじめとする「国の財産」については、「適正な対価」という文言を深く理解しているに違いない。国民の大切な財産を粗末に扱ってはならない。国有地も「常に良好な状態」で管理することが求められる。譲渡から貸し付けに至るまで、常に「適正な対価」のもとで行われる必要があり、不当な大幅値下げやダンピングは許されない。

ところが、森友学園については、財政法9条にいう「適正な対価」とはほど遠い金額で国有地が払い下げられた。当該国有地(8770平米)の鑑定評価額は9億5600万円。これが1億3400万円で払い下げられた。地中埋設物の撤去費用として国費から1億3176万円が支払われたので、森友学園側は差し引き200万円という破格の値段で国有地を取得できたわけである。しかも、地中のごみ撤去費用の積算額をもとにすべき値引き額が積算前に決められて、その額に合わせるために、地中にあるはずもないごみの増量を財務局が国土交通省大阪航空局に依頼していた事実も先週明らかになった(『朝日新聞』4月12日付)。財務省や国土交通省の至れり尽くせりの姿勢。すべてが森友学園に不当に安い価格で売却されるように収斂されていったかのようである。

写真3

なお、国有財産法(1948年法律第73号)22条は、特に公共性の高い用途に限って、無償または減額して売却もしくは貸し付けをすることを認めている。国有財産特別措置法2条では、国有財産の無償貸し付けができる施設として、生活保護法に規定する救護施設などの生活保護施設や、障害者自立支援法に規定する障害者自立支援施設などが挙げられている。だが、森友学園の場合、これらに該当せず、「適正な対価」をもって国有地の払い下げを受けるべき存在だった。2011年に大阪音楽大学が約7億円で近畿財務局と交渉したが、入札価格が鑑定価格の約9億円に満たずに、交渉は不成立となっていた。「適正な対価」は約9億円。ところが、森友学園に限っては、一気に値引きがされていった。籠池理事長の言葉を借りれば、「神風が吹いた」わけである(ちなみに、4月2日の加計学園入学式で来賓挨拶をした加戸守行・愛媛県前知事は、「魔法にかけられることで出産した獣医学部」と呼んだ(『朝日新聞』4月3日付))。

昨年11月、会計検査院が会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書「学校法人森友学園に対する国有地の売却等に関する会計検査の結果について」を公表した。その116頁以下の「所見」には、「国民共有の貴重な資産である国有財産は、適正に管理及び処分を行う必要があり、国有地の売却等に当たっては、財政法第9条第1項等の規定の趣旨を踏まえ、定められた手続を適正に実施して公平性、競争性、透明性等を確保し、かつ、十分な説明責任を果たすことが求められている。・・・今回、会計検査院が検査したところ、検査の結果に示したように、国有地の売却等に関し、合規性、経済性等の面から、必ずしも適切とは認められない事態や、より慎重な調査検討が必要であったと認められる事態等が見受けられた。」とある。もっと踏み込んで指摘すべきところだが、これが会計検査院の限界なのだろうか。報告書公表の直後のNHKニュース解説「時論公論」の「森友問題 会計検査院の報告は」(2017年11月24日、清永聡解説委員)は、会計検査院の限界を指摘しつつ、問題解明への方向と内容を的確に指摘している。

端的に言えば、首相夫人たる安倍昭恵氏が名誉校長となっていたからこそ、学校用地に対して、財務省近畿財務局は、会計検査院もびっくりという値引きを行ったのである。これが「神風」の本質である

国有財産は国民の貴重な資産である。安倍夫妻の負債は巨大である。行政はねじ曲げられ、歪められ、公務員は耐えがたい仕事をさせられ、ついには自殺者まで出した。安倍首相はやめるだけではすまない。議員辞職は当然である。韓国では権力の私物化に怒った国民が連日デモを行い、朴槿恵大統領は憲法裁判所の弾劾審判で罷免され、刑事被告人となって、ついには懲役24年の有罪判決を受けた。韓国では政治家(特に辞めたあとの大統領)に相当厳しいが、日本では逆に、政治家に「寛大」すぎるのか。竹下登内閣末期の支持率は4.4%で、私邸周辺でデモ活動も起きた。安倍内閣はついに3割を切り、26.7%である(NNN、4月15日)。4月14日、国会前には3万を超える人々が「安倍は辞めろ」と集まった。3年前の安保法制の時は12万人。世界各国のメディアがこれを伝えた。国民の怒りがこれ以上の運動に発展するか。国民を「なめたらいかんぜよ! !」

最後に一言。冒頭写真にある「書けば消せる」の感覚で公文書を改ざんしてきたこの政権に、「究極の歴史的公文書」である「憲法改ざん」をさせてはならない(『東京新聞』2018年3月31日付インタビュー参照)。

トップページへ