今日は朝鮮戦争の開戦68周年である。かつてソウルの戦争記念館や38度線にも行った(2002年11月の直言「変わる38度線・韓国レポート(1)」と、2004年6月の直言「38度線の「いま」を診る」参照)。第一次世界大戦の激戦地ヴェルダン、第二次世界大戦の転換点となったスターリングラード。戦争の現場に行くとどこでも膨大な死者の数が強調されているが、一人ひとりに家族がいて、人生があったことへの想像力を忘れてはならない。研究室にあるソ連兵の水筒には、飲み口近くに銃弾の貫通痕があって痛々しい。
68年前に始まった朝鮮戦争はとりわけ悲惨な戦争だった。同じ民族同士の殺戮、身近な住民同士の殺し合いも多く(済州島「4・3事件」はその前触れ)、通常の国家間戦争とは違う残虐性を帯びたことはよく知られている。そして、いまだに「休戦」状態にあって、戦争が終わってはいないことを忘れてはならない。
9カ月くらい前まで、米朝は戦争再開の一歩手前の空気だった。右にある写真は、2月12日のケルンのカーニバルに登場したトランプと金正恩のすさまじい山車である。安倍政権による「Jアラート」への悪のりの結果は目を覆うばかりで、子どもたちをダシにして、ことさらに不安と恐怖があおられた。
そうしたなかで開催された米朝首脳会談は、朝鮮戦争の当事者が直接会って、平和のための交渉をするという画期的な場となった。「共同声明」の原文は、ホワイトハウスのウェブサイトで確認することができる。英文は次の通りである。
President Trump committed to provide security guarantees to the DPRK, and Chairman Kim Jong Un reaffirmed his firm and unwavering commitment to complete denuclearization of the Korean Peninsula.
他方、「直言」スタッフの調査によると、「共同声明」の正文である朝鮮語は、北朝鮮の朝鮮労働党機関紙である『労働新聞』6月13日付4面に次のように掲載された(紙面PDFファイル)。
트럼프대통령은 조선민주주의인민공화국에 안전담보를 제공할것을 확언하였으며 김정은위원장은 조선반도의 완전한 비핵화에 대한 확고부동한 의지를 재확인하였다.
朝鮮総連系の『朝鮮新報』は、これを次のように翻訳しており、朝鮮語の原文に忠実である。
トランプ大統領は、朝鮮民主主義人民共和国に安全の保証を提供することを確言し、金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化に対する揺るぎない意志を再確認した。
朝鮮語は日本語と極めて類似しており、ともに同じ漢字文化圏に属しているため、英語よりもむしろ朝鮮語を分析した方が日本語話者にとっては北朝鮮の真意を正確に測りやすい。朝鮮語は、以前は日本語と同じように漢字も併用していたが、北朝鮮は漢字を廃止したので、朝鮮語の文章は本来漢字にすべき箇所もハングル(北朝鮮ではチョソングルという。)にしており、日本語でいえば文章が全てひらがなで書かれているようなものである。そこで、「共同声明」の文意を少しでも正確に把握するため、あえてチョソングルを漢字にそのまま戻して、直訳するとこうなる。
トランプ大統領は、朝鮮民主主義人民共和国に安全担保を提供することを確言し、金正恩委員長は、朝鮮半島の完全な非核化に対する確固不動の意志を再確認した。
日本のメディアやそこでコメントする人たちの多くは、米国は「共同声明」で北朝鮮の「体制の保証」を認めたと解説し、あるいは批判している。だが、「共同声明」の正文にはどこにも「体制の保証」という文言はない。多くの者は「共同声明」の「security guarantees」という文言を「体制の保証」と理解しているが、彼らは「共同声明」の正文は英語と朝鮮語であることを忘れている。正確な理解のためには、朝鮮語正文も読むのが必須である。
朝鮮語は「안전담보(安全担保)」という文言を用いているが、朝鮮語の「담보(担保)」とは、北朝鮮で出版された『朝日小辞典』(外国文図書出版社、1994年)によれば、日本語の「担保」、「保証」、「裏付け」の意味であるとされている(該当ページPDF)から、『朝鮮新報』のように「安全の保証」と翻訳することが適当だろう。
「直言」スタッフの調査によれば、北朝鮮のサイト「ネナラ」では、北朝鮮の情報が数か国語で発信されている。北朝鮮が「共同声明」の「security guarantees」を例えば日本語、中国語、ドイツ語、フランス語でどのように翻訳しているかを比較すると、次のようになる(下線・強調は引用者)。
日本語 | 中国語 | ドイツ語 | フランス語 |
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トランプ大統領は朝鮮民主主義人民共和国に安全保障を提供することを確言し、金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化に対する確固不動の意志を再確認した。 ※「ネナラ」の日本語訳は「保障」となっているが、朝鮮語でも日本語と同様に「保障」と「保証」は異なる(『日朝小辞典』〔1992年〕該当ページPDF)ので、『朝鮮新報』や『朝日小辞典』にあるように「保証」とする方が適当だろう。 |
特朗普总统承诺将对朝鲜提供安全保证,金正恩委员长重申关于朝鲜半岛完全无核化的坚意志。 | Präsident Trump sicherte zu, der DVRK Sicherheitsgarantie zu gewähren, und Vorsitzender Kim Jong Un bestätigte wieder den unverrückbaren Willen zur völligen Denuklearisierung der Koreanischen Halbinsel. | Le Président Trump a affirmé qu'il fournira une garantie de sécurité à la RPDC, et le Président Kim Jong Un a réaffirmé sa volonté inébranlable d'obtenir une dénucléarisation complète de la péninsule coréenne. |
いずれも、「安全の保証」あるいは「安全の保障」である。「体制の保証」ではないことを北朝鮮が複数の言語で明確に語っている。とりわけ、金正恩が3回も連続訪問して気をつかっている中国政府向けには、中国語で「安全保証」としており、実に分かり易い。
このように、「共同声明」には、「朝鮮民主主義人民共和国に安全の保証を提供」としか書かれておらず、日本のメディアやそこでコメントする人たちの多くがいう「体制の保証」はどこにも書かれていない。「安全の保証」であるから、まずは米国が北朝鮮を武力攻撃しないという意味に解釈するのが自然だろう。それ以上に「体制の保証」という含意があると主張するのであれば、その証拠を示す必要がある。
前回の直言「米朝首脳会談の先に見えるもの―東アジアの歴史的転換」で引用した韓国の『ハンギョレ新聞』6月13日付社説でも、「共同声明という形で「完全な非核化と体制安全保証」の約束を盛り込み」と書き、朝鮮語の原文にない「体制安全保証」としてしまっている。実は、韓国のメディアが報道している「共同声明」には、朝鮮語の正文と文言が違う箇所が何か所もある。なかには、「英語からの翻訳」と注記しているものがあるので、どうやら韓国では、正文である北朝鮮の朝鮮語ではなく、英語を韓国語に翻訳した「共同声明」の代用品が出回っているようである。いずれにせよ、英文には「体制」(regime)の文字はないので、不適切である。
日本のメディアでは、例えば、NHK(「米朝共同声明(全文和訳)」NHKオンラインが「体制の保証」としている。朝鮮語の原文を確認していないことが明らかで、議論の混乱を引き起こす原因の一端となったものである。なお、この翻訳の問題を提起している専門家は、管見の限りでは、北朝鮮を専門とする研究者の宮本悟氏である(ツイート)。
次に、「共同声明」で批判の対象となっている「朝鮮半島の完全な非核化」という文言をどう診るべきか。メディアや専門家の批判は、おおむね、「共同声明では、「北朝鮮の非核化」ではなく、北朝鮮が従来から繰り返し主張している「朝鮮半島の非核化」という文言になっているが、これは、北朝鮮の従来からの主張である在韓米軍の撤退や朝鮮半島における米軍の核抑止力の拒否を含意している。在韓米軍の撤退や核抑止力の低下は危険だ。北朝鮮にアメを与えすぎではないか。」というものである。だが、このような主張は妥当だろうか。北朝鮮が「朝鮮半島の非核化」という表現で、どのあたりまでを考えているのかは、過去の北朝鮮の主張を丁寧に検証する必要がある。
まず確認すべきことは、現在、在韓米軍は韓国に戦術核兵器を配備していない。米国が韓国に提供している核の傘は、B2、B52の戦略爆撃機(核搭載巡航ミサイルALCM)、原潜(潜水艦発射弾道ミサイルSLBM)、ミニットマンⅢ(核搭載大陸間弾道ミサイルICBM)で、いずれも、戦略核兵器である。在韓米軍の戦術核兵器は、盧泰愚政権当時の1991年12月に韓国から完全撤去されている。1992年7月2日、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領は、1992年7月2日のStatement on the United States Nuclear Weapons Initiativeで、1991年9月27日のブッシュ・イニシアティブで表明した全世界の米軍基地からの地上発射戦術核兵器と海軍の戦術核兵器の米本土への撤去が終了したことを公表した(PDFファイル)。
2016年10月、朴槿恵政権は「戦術核配備」を米国に要請したが、オバマ政権により拒否されたと報道された。2017年9月、文在寅大統領はCNNとのインタビューで、「北朝鮮の核に対応して韓国が自主的に核開発をしなければならないとか、戦術核を再び搬入しなければならないという考えに同意しない」と述べた。
このように、現在、韓国には戦術核兵器は配備されていない。米国が韓国から核兵器を撤去したのには朝鮮半島固有の経緯もある。1991年11月25日、北朝鮮は、米国が核兵器の撤去を始めれば、IAEAの求める保障措置協定に署名するという声明を発表。12月18日、盧泰愚大統領は、韓国には核兵器は存在しないと宣言。22日、北朝鮮は、保障措置協定に署名。31日、韓国と北朝鮮の間で、「朝鮮半島の非核化に関する共同宣言」が合意され、1992年2月に発効したという事情がある。
それでは、韓国に戦術核兵器が存在しないのに、韓国と米国を念頭に置いた「朝鮮半島」の非核化を北朝鮮が主張している趣旨は何だろうか。多くの論者は、「朝鮮半島の非核化」は、在韓米軍の撤退や米軍による核抑止力の拒否を意味していると主張している。だが、そうだとすれば、なぜ米国は自らに不利になる「朝鮮半島の非核化」という文言を受け入れたのか。「トランプが北朝鮮にしてやられただけだ」という向きが多いようだが、それでは答えになっていない。金日成、金正日の遺訓であると北朝鮮が主張する「朝鮮半島の非核化」の意味は、前述の「朝鮮半島の非核化に関する共同宣言」の意味の検証からスタートすべきである。というのも、ここで初めて「朝鮮半島の非核化」という文言が使われ、南北でその内容について合意がされたからである。
この点については、韓国の保守系の峨山政策研究所のチョン・ソンフン研究員が今年の3月30日に発表した文書に詳しい。チョン・ソンフン氏は、「北朝鮮の「非核地帯化」に対抗するために作った米韓の「非核化」」と解説している。つまり、日本では、「朝鮮半島の非核化」は在韓米軍の撤退や米軍による核抑止力の拒否を含意する北朝鮮のお決まりの文句のように言われているがそうではなく、在韓米軍の撤退や米軍による核抑止力の拒否を含意する「朝鮮半島の非核地帯化」が北朝鮮のお決まりの文句であり、韓国がそれを拒否して、韓国が新たに提案し、北朝鮮が合意したのが「朝鮮半島の非核化に関する共同宣言」における「朝鮮半島の非核化」という概念だというのである。
このような歴史を踏まえれば、「朝鮮半島の非核化」の意味は、まずは「朝鮮半島の非核化に関する共同宣言」の意味の理解からスタートするのが筋だろう。その作業をしないまま、日本のメディアは、「朝鮮半島の非核地帯化」と「朝鮮半島の非核化」の両概念を混同して論じているということになる。
北朝鮮は、1990年5月31日、「朝鮮半島の平和のための軍縮提案」を平壌で採択し、「朝鮮半島の非核地帯化」について述べている。その内容は、北朝鮮で出版された『国際法事典』(社会科学出版社、2002年)に掲載されている。一部を翻訳して抜粋する。
7.北と南は、朝鮮半島を非核地帯にする。
①南朝鮮に配備された全ての核兵器を即時撤収させるため共同して努力する。
②核兵器を生産、購入してはならない。
③核兵器を積載した外国飛行機、艦船の朝鮮域内への出入りと通過を禁止する。
1991年10月、第4次南北高位級会談で、北朝鮮は、「朝鮮半島の非核地帯化に関する宣言」案を提案し、その中で次の7項目を要求した。
①核兵器の実験生産・搬入・保有・使用禁止
②核兵器搭載が可能な飛行機艦船の朝鮮半島出入り・通過・訪問禁止
③核の傘を保障する条約と核兵器の貯蔵配置禁止
④核兵器が動員される軍事訓練禁止
⑤在韓米軍と核兵器の撤収
⑥IAEAの北朝鮮核施設に対する査察と北朝鮮による南韓内軍事基地査察の同時実施
⑦核保有国に対する核脅威禁止及び非核地帯地位尊重要求。
韓国の盧泰愚政権は、これに反論し、1991年11月8日には、在韓米軍、核の傘の保護と米航空機、艦船の着陸・通過の許可を含む「朝鮮半島の非核化と平和政策に関する宣言」を発表した。12月31日、北朝鮮の金日成は、「朝鮮半島の非核化に関する共同宣言」に合意し、1992年2月19日、「朝鮮半島の非核化に関する共同宣言」が発効した。なお、2013年1月25日、北朝鮮の「祖国平和統一委員会」は、「朝鮮半島の非核化に関する共同宣言」の「白紙化」を宣言した。今年の3月28日、金正恩は習近平国家主席と会談し、「金日成主席と金正日総書記の遺訓に従い朝鮮半島の非核化の実現に力を尽くすことは、われわれの変わらない立場だ」と述べたと報道されている。金日成が韓国と合意し(1991年)、金正日(2011年12月死亡)が継承した「朝鮮半島の非核化」の概念は、2013年に北朝鮮の「祖国平和統一委員会」が「白紙化」宣言をしたとしても、まずもって「朝鮮半島の非核化に関する共同宣言」における「朝鮮半島の非核化」である。
朝鮮半島の非核化に関する共同宣言
南と北は、朝鮮半島を非核化することで、核戦争の脅威を除去し、わが国の平和と平和統一に有利な条件と環境を造成し、アジアと世界の平和と安全に貢献するため、次のように宣言する。
1. 南と北は、核兵器の試験、製造、生産、受付、保有、貯蔵、配備、使用を行わない。
2.南と北は、核エネルギーを、ただ平和的な目的にのみ利用する。
3.南と北は核再処理施設とウラン濃縮施設を保有しない。
4.南と北は、朝鮮半島の非核化を検証するため、相手側が選定し、双方が合意する対象に対し、南北核統制共同委員会が規定する手続きと方法で査察を実施する。
5.南と北は、この共同宣言の履行のため、共同宣言が発効した後一か月の間、南北核統制共同委員会を構成・運営する。
6.この共同宣言は、南と北がそれぞれ、発効に必要な手続きを経て、その文本を交換した日から効力が発生する。
このように、北朝鮮の主張する「朝鮮半島の非核地帯化」は、在韓米軍撤退、米軍による核の傘と米航空機、艦船の着陸・通過の拒否も内容とするが、韓国が提案した概念である「朝鮮半島の非核化」は、これらを内容とせず、「朝鮮半島の非核化」の概念を採用した「朝鮮半島の非核化に関する共同宣言」にも、これらは盛り込まれていない。北朝鮮は韓国の主張に譲歩し、韓国の提案する「朝鮮半島の非核化」という文言に同意したわけである。
このような経緯からすれば、「共同声明」の「朝鮮半島の非核化」の文言には在韓米軍の撤退や米軍による核抑止力の拒否が含意されているとは即断できない。現に、文在寅大統領は、4月19日に次のように発言しており、北朝鮮が「朝鮮半島の非核化」の文言で在韓米軍の撤退や米軍による核抑止力の拒否を求めていないことが推察される。
「北朝鮮は、完全な非核化意志を表明している」、「在韓米軍撤収とか、アメリカが受け入れることができないそんな条件を提示することもしない」、「専ら北朝鮮に対する敵対政策の終息、その次に自身に対する安全保障、それを言うだけ」、「その点に対して確認されたから、今、米朝間で (首脳)会談をしようということだ」、「非核化の概念で差があるとは考えない」
韓国の報道を見ると、「非核化の概念で差があるとは考えない」という文在寅大統領の発言については、韓国・北朝鮮間で差がないという解釈と、韓国・北朝鮮・米国間で差がないという解釈があるようであるが、いずれにせよ、今回北朝鮮の主張する「朝鮮半島の非核化」は、北朝鮮の従来からの主張である「朝鮮半島の非核地帯化」の意味ではないことが推察される。
そして、トランプ大統領は、米朝首脳会談後の米ABCテレビとのインタビューで、「「共同声明」の「朝鮮半島の完全な非核化」という文言は、韓国に対するアメリカの核の傘も交渉のテーブルに上がるという意味か」という質問に対し、「そうではない。それは北朝鮮が彼らの核兵器を除去するということを意味する。」と述べた(リンク先動画55秒から)。
この文在寅大統領とトランプ大統領の発言は、「「共同声明」の「朝鮮半島の非核化」の文言には、在韓米軍の撤退や米軍による核抑止力の拒否が含意されている」という多くのメディアや専門家の解釈の妥当性を疑わせるものである。
なお、逢坂誠二衆議院議員は、今年4月に提出した「北朝鮮の非核化の定義に関する質問主意書」で、「北朝鮮の金正恩委員長のいう非核化とは「金日成主席と金正日総書記の遺訓に基づ」いた「朝鮮半島の非核化に関する共同宣言」の立場に立つもので、「朝鮮半島の非核化」であるとの理解でよいか。」と安倍内閣に質問をしている。安倍内閣は4月の答弁書で、「北朝鮮の意図については、政府としてお答えする立場にない。」と答弁した。安倍政権下の日本は「蚊帳(かや)の外」どころか、外交ゲームの「土俵」下に追いやられ、交渉の「圏外」で、当事者性を失っていることは、「朝鮮半島の非核化」の意味すら分析しようとしない姿勢に如実にあらわれている。北朝鮮が「朝鮮半島の非核化」に込めた意味は、これまで述べてきたような経緯を踏まえた上で、北朝鮮だからと決めつけないで、客観的かつ多角的に分析すべきであろう。
繰り返しになるがここで確認しておきたい。「あの二人」が国家を代表して、国家間の合意文書を作成して、世界に公表したのである。これによって、米国は北朝鮮を武力攻撃しないという「安全の保証」を明確にした、つまり北朝鮮を「攻めない」と約束した。このことの意義は限りなく大きい。このことの影響はさすがの安倍政権も否定できず、菅官房長官は6月21日の閣議後の記者会見で、米朝首脳会談で日本の安全保障をめぐる緊迫した状況は緩和されたとして、弾道ミサイルの発射などを想定して、今年度9つの県で予定していた住民参加型の避難訓練の実施を当面、見合わせると表明した(『東京新聞』2018年6月22日付)。
次回の「直言」では、米朝首脳会談を受けて、日本と沖縄の問題を考えてみよう。何度もいうが、トランプと金正恩という「あの二人」が会って合意した文書だからといって過小評価せず、冷静に日本と東アジアの平和と安全保障の問題について考えていく必要があろう。