なぜ、加計学園獣医学部にこだわるか——忘れてはならないこと
2019年4月22日

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週木曜日(4月25日)、沖縄県の玉城デニー知事が早大を訪れて講演する。シンポジウムのパネラーに私もなる。一般の方にも開かれているので、どうぞ参加ください(詳しくはチラシ参照)。

さて、加計学園擁護のツイートを繰り返している女性(みやびmama@)が、昨年、私の直言「ゆがめられた行政」の現場へ—獣医学部新設の「魔法」」に対して、次のようにツイートした。 「水島朝穂さんは、早稲田大学法学学術院教授ですが、何故、他校の批判をされるのでしょうか。岡山理科大学の蔵書数は、47万冊。今治キャンパスでも、借りることは可能。10万冊の予定で、順次、購入している。1年次は、専門課程も少ないので獣医学部関連が少なくても問題はない」と。

「加計グループ卒業生の保護者」で、安倍政権支持の立場から、加計学園批判の人々を非難する言説を流している、いわゆるネトウヨに属する方だが、たまたま私も俎上に乗せられたので、かなり時間はたってしまったが、ここで応答することにしたい。改めて加計学園問題とは何なのかについて、私の原点をまじえて語っておこう。

図書館の蔵書数の問題は後述するとして、まず「何故、他校の批判をされるのでしょうか」という点について。もちろん、大学教員として、他大学の批判を好きでやっているわけではない。私は「加計学園獣医学部」とあえて呼んできたことにご注意いただきたい。本来ならば、学校法人加計学園・岡山理科大学獣医学部とすべきだが、岡山理科大で教える教員やそこで学ぶ学生たちのことを念頭において、「魔法をかけられて出産した獣医学部」のことだけを批判しているのである。森友学園の問題と同様、この学部は、安倍首相による権力私物化のあらわれである。加計理事長の学校法人と獣医学部を結びつけて語っているのである。そのことをまずご理解いただきたいと思う。

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新年度が始まり、新1年生を加えて、あの今治キャンパスは2学年になっているのだろう。正門前と体育館前の市道に横断歩道はできただろうか。昨年6月25日、冒頭の写真にあるように、遠藤泰弘・松山大学教授のお世話で加計獣医を取材したが、授業が始まっているのに大講義棟が土台だけだったことや、図書館に本がほとんどなかったことなどに衝撃を受けた。これは、7月9日付直言「「ゆがめられた行政」の現場へ—獣医学部新設の「魔法」」で書いた通りである。この「直言」は非常に反響が大きかった。『日刊ゲンダイ』で詳しく紹介され、同紙の高野孟氏のコラムでも取り上げられた。テレビ朝日のワイドショーでも紹介された(私のコメントは3分50秒と8分33秒あたりから)。

昨年10月中旬に今治に行って、加計問題に取り組んでいる今治市民ネットワークの活動を取材し、中心メンバーの村上治さんの文章を掲載した(直言「「総理が「平成30年4月開学」とおしりを切った」から—歪められた行政の現場へ(その2)」)。今治市民ネットワークは、情報公開請求や行政不服審査、住民監査請求など、市民が使えるあらゆる手段を使って、行政に対して情報の開示などを求めている(「加計獣医学部・取組一覧表」参照)。関心のある方は、今治市民ネットワークが公開している行政文書の数々に直接あたってみることをおすすめする。とりわけ「4.2復命書」は国会でも取り上げられ、世に知られるようになった。

文科省は、2017年6月20日、萩生田光一官房副長官(当時)が2016年10月、文科省幹部に対して、「総理は『平成30年4月開学』とおしりを切っていた。」など、早期開学を迫ったことを記した文書を公表した(『毎日新聞』2017年6月21日付)。加計獣医の新設をめぐる疑惑について、加計孝太郎理事長は何も答えていない。

ところで、私には次の3つの事情が重なる。(1) 獣医の家系に生まれ、幼少期から祖父の書斎で獣医学の本をみていたのに法学部に進学し、水島獣医の4代目を継がなかったという事情、(2) 息子が獣医学部卒の獣医師で、6年間高い学費を負担したという「獣医学部学生の親」の立場、そして、(3) 初めて就職した北海道の大学で法学部新設に関わり、教室、図書館、教員組織に関する大学設置審議会の審査を肌で感じた経験、である。この3つを同時にもつ人は、なかなかいないだろう。

幼児期から祖父の書斎に入り込み、分厚い獣医専門書がびっしり天井まで並んでいるのを見て育った。小学校の高学年の時に、馬の生殖に関する専門書を見ていた「ませた少年」だった。高校に入った頃だったと思う。祖父が亡くなり、祖母が書斎に私を連れていって、近々、本を全部処分するから、好きな本は全部持っていきなさいと言われた。私の家は、祖父の敷地と隣接していたから、書斎から大量の本を、庭にあった私の勉強部屋のプレハブに運んだ。だから、高校時代に馬の生殖の本を含めて、3000冊以上の本に囲まれて過ごしていた。最近、2万冊以上になった書庫から、8000冊以上の古本・古雑誌を資源ゴミとして処分した(直言「雑談(119)「守破離」と「終活」」参照)。だから、加計獣医を訪れた時、図書館に8000冊しか本がなかったのをみて、私の家の方がまだ多いなと思ったほどである。学部図書館とはいえ、大学設置審の審査を通るには、学部開設前に図書館に専門書が揃っていることが求められる(後述)。「みやびmama」が言うように、岡山の図書館に47万冊あり、それを借りられるというのでは、大学設置審の審査は通らないのである。しかも、専門学部である以上、学部開設時から専門書がきちんと揃っていることが前提となる。1年生でも背伸びして専門書に触れることができるのは当然だろう。加計獣医は、明らかに特別に甘い審査をやったとしか思えない。

獣医学部生の親として高い学費を負担した立場からすれば、自分の息子がこんな貧困な施設や図書館しかないところで勉強していれば、「金返せ」の世界である。もう4月なので、私が昨年行った時に土台だけだった講義棟は完成しているだろうか。この1年、教養課程の多人数科目はいったいどこで授業していたのだろうか。親の立場からすれば相当不満が出てきても不思議はないと思う。

私は30歳で、学部新設により校名も変更された札幌学院大学法学部の「開設準備要員」として半年早く着任した。当時の名刺は「札幌商科大学商学部助教授」。大学院生から突然、助教授になって、入試巡回として道内の高校まわりをやった。まさに営業である。私自身も開設メンバーとして、大学設置審議会で業績を審査された。現地視察もあって、図書館などが整っているかも詳しく調べられた。すごい緊張感だった。図書館に法律雑誌や専門書が揃っているかをチェックされるので、どういう本が必要かなどをアドバイスする仕事もした。まだ開設前で入試もやる前から、専門書が揃っていることをしっかり審査されたのである。だから、加計獣医の図書館で、授業が始まっているのに本がないことに仰天したわけである。普通の大学ならば絶対に認可されていない、と改めて現地で確信した次第である。「総理が〔2018年〕4月開学におしりを切った」という特別の事情がなければ。

加計獣医の問題は、安倍首相が南カリフォルニア大学「留学」時代(1978年)に知り合った加計孝太郎氏を「腹心の友」として公の場で語るほどに親しい関係が背景にある。安倍首相は語学学校に通い、大学の単位はとっていないので、党幹事長になる時に問題になったことがある。留学期間や留学先、留学の形態などについて、政治家の経歴のあら捜しが盛んに行われた時期である(直言「小さな嘘と大きな嘘」)。その米国「留学」時に知り合った加計氏が理事長を務める大学だからと、文科省も設置審も一斉にハードルを低くして、2018年4月に開学に持ち込んだのだろうか。

無理を重ねた結果、たった1年で、文科省から改善要求を出されるに至ったのである。『毎日新聞』と『朝日新聞』の2019年3月29日付が、総合面のあまり大きくない記事でそれを伝えた。『毎日』の見出しは「文科省:「加計」獣医学部に改善要求」。「文科省は、大学の設置計画通りに運営されているかを有識者が確認する2018年度の「設置計画履行状況調査」の結果を公表した。442校のうち118校が指摘を受けた。学校法人「加計学園」(岡山市)が愛媛県今治市に昨春開設した岡山理科大獣医学部は、高齢の専任教員の割合が高いとして「改善が望まれる」との指摘を1件受けた。岡山理科大獣医学部は設置認可の際に改善を要する留意事項が8件付けられ、専任教員の年齢についても指摘されていた。文科省によると、岡山理科大獣医学部は当初の計画では初年度に34人が専任教員に就任し、1∼6年生がそろう2023年度に14人(41.1%)が定年の65歳を迎える予定だった。だが、実際には28人が就任し、23年度に65歳になるのは12人(42.8%)だった。」

『朝日』によれば、442校のうち、早急に改善を求める「是正意見」が18校、充実や改善を要望する「改善意見」は108校に出された。加計獣医は、「獣医保健看護学科が大幅な定員割れをした点や、獣医学科で規定の退職年齢を超える専任教員の割合が高い点などを改善するよう求め」られたという。教員の高齢化の問題は、ずっと以前から指摘されていた。設置審の委員からは、新設を認める答申を出したあと、「みんな納得していない。忸怩たる思いだ」などと不満が噴出したという。開設に向けて改善の展望を出すこともなく、「総理が4月開学におしりを切った」ということで見切り発車してしまったことのツケと言えよう。

というわけで、同じ大学教員なのに他校批判するのはおかしいという趣旨の指摘に対して、なぜ、私が加計獣医の問題にこだわるのかを率直に書いてきた。これからも、「ゆがめられた行政」の象徴としての加計獣医と、それを告発し続けている今治市民ネットワークの活動に注目していきたい。

《付記》 『毎日新聞』4月14日付は一面トップで「公文書クライシス」として、同紙記者が情報公開請求を行ったところ、安倍首相と省庁幹部の面談に関連する説明資料や議事録約1年分について、すべて「不存在」と回答された事実を伝えている(『毎日新聞』2019年4月14日付)。この記事は、官邸が、モリ・カケ問題を受けて「公文書ガイドライン」を改定して、記録の保存期間を裁量で廃棄できる1年未満に設定していることも明らかにした。1年未満ということは、記録した翌日でも廃棄できるということである。この国はもはや「健全な民主主義」の国ではなくなっている証である(直言「公文書は「民主主義を支える知的資源」—公文書管理法1条」参照)。

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