わが歴史グッズの話(45)「自国ファースト」時代の指導者たち
2019年8月5日

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1年ぶりに「わが歴史グッズの話」をアップする。恒例の「夏の祭典」(定期試験答案の採点)の真っ最中なので、衆院議長にまで手を出す「ワイルドな安倍改憲」の動きなどは別の機会に論ずることにしよう。昨年、この時期に同じ事情でアップしたのが、「わが歴史グッズの話(44)番外編・グッズの可能性とリスク」である。45回目の今回は、「自国ファースト」時代の指導者をめぐる歴史グッズである。

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冒頭の街角の写真は、今年2月27-28日、ベトナムのハノイで行われた第2回米朝首脳会談の際、トランプが宿泊した高級ホテルの前で撮影したものである。たまたま仕事でハノイにいた水島玲央氏(名古屋経済大学法学部准教授)から提供されたものである。ベトナム国旗を真ん中にして、米国と北朝鮮の旗。友好の握手を演出するプレートの上には監視カメラがついている。何とも象徴的な構図である。市内の大通りには、「朝米ハノイサミット」という大きな看板が。ベトナムがこの2日間のために、相当意気込んで準備したことがわかる。実際、ハノイでは記念切手まで売られていた。4000ベトナムドンは18.4円(執筆時)だから、彼が私へのお土産にくれたこの切手シートは184円ということになるが、先週、ネットオークションで30000円(即決)の高値がついていた。

右側の写真は、同じくハノイで売られていたTシャツである。トランプと金正恩の顔にPEACE(平和)という文字が重ねられている。そこに、米国留学から帰国した戸田恒君(公法研究会次期幹事長)のお土産、2020年大統領選挙キャップを重ねてみた。左側が2016年選挙のキャップである。"MAKE AMERICA GREAT AGAIN"から"KEEP AMERICA GREAT"になっている。この構図の写真は、地球上でおそらくこの私の一枚だけだろう(c)。よくご覧いただきたい。キャップのつばの部分に、ウィンクするプーチンのバッジを置いてみた。

実は、ベトナム側が周到な準備をして臨んだこの会談は、トランプの突然の日程キャンセルによって、共同声明も出せずに途中で終了させられてしまった。ベトナム側の失望感はいかばかりだっただろうか。3000キロもの列車の旅をしてハノイまでやってきた金正恩の失望も相当なものだったようである。なぜ、第2回会談が途中で終わったのか。それは、米国側の事情、何よりもトランプに対する「ロシア疑惑」が関係しているようだ。米朝会談と同じ頃、米下院ではトランプの元顧問弁護士、マイケル・コーエン氏の証言が行われていて、トランプにまつわる疑惑が明らかにされていた。トランプは、会談の間も、「心ここにあらず」の状況だった可能性がある。ただ、それだけで会談を打ち切るようなことをするか。トランプの判断の背後に何があるのかはわからない。いずれにしても、「ベトナム戦争終結44周年」を前に米合衆国大統領を迎えて、「朝鮮戦争終結宣言」を出せるかもしれないというベトナム側の思いと現実との壮大なズレが、これらのグッズとして残ることになった。なお、第1回米朝首脳会談については、直言「米朝「共同声明」をどう診るか―「体制の保証」か「安全の保証」か」参照。

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左の写真は、研究室の書棚にかけてあるさまざまな歴史グッズである。ダブリもあるが、こうやって並べると、国際情勢が見えてくるだろう。トランプと金正恩のTシャツのまわりに配されたグッズたち。例えば、左の方に、サダム・フセイン(イラク大統領)が絞首刑になっている人形がある。これは米国で売られていたもので、これを金正恩のすぐ横にぶらさげ、カンボジアで入手した地雷源の標識と並べて、トランプの気分しだいでは「いずれわが身」という金正恩の恐怖感を演出している。

右側の写真は、この5月に来日したトランプが安倍首相とゴルフした時の自撮り写真の前に、プーチンをさまざまな形で絡ませた写真である。トランプ・プーチンのマトリューシカは、ロシアを旅した水島ゼミ22期ゼミ長の中野一希君が入手してきたものである。トランプ・プーチンで始まり、最後はトランプで終わる。私が在外研究中の2016年7月にヴォルゴグラード(旧スターリングラード)を訪れた時は、土産物店でスターリンの方が人気だった。モスクワには、スターリン体制の傷跡をしっかり記録した歴史博物館もあるが、他方、民衆のなかには、かつてを懐かしむ「復古的」傾向もあり、複雑である。モスクワでも、ニューヨークでもプーチンとトランプのバッジが売られていて、「わが歴史グッズ」コーナーはこれからもにぎやかになるだろう。

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ところで、ロシアでは、毎年5月9日の「対独戦勝記念日」に、「不滅の連隊」という名の大デモンストレーションが行われる。今年の参加者は50万人。デモの先頭には、第二次世界大戦(「大祖国戦争」)で父親を亡くしたプーチンが、肖像写真を手に立つ。ナチス・ドイツに勝利した「大祖国戦争」の記憶はロシア国民を束ねる神聖な物語になっていて、プーチン政権は草の根で始まった運動に関与し、愛国心を高め、ナショナリズムを鼓舞している。

プーチンと26回も会談して、「個人的信頼関係」を築いたとされる安倍首相の「外交」は、このままでは、北方領土について「0島マイナスα」になるおそれすらある(直言「「外交の安倍」は「国難」――プーチンとトランプの玩具」)。粗雑な交渉(事務レベルの蓄積の軽視)、安易な譲歩、先を見ない妥協に特徴づけられる「場当たり的、甘い認識、右顧左眄、無節操に彩色された「媚態外交」」が安倍外交の本質といわざるを得ない(直言「安倍政権の「媚態外交」、その壮大なる負債」参照)。「地球儀を俯瞰する外交」どころか、「地球儀をもてあそぶ外交」になっていないか。

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いま、日本は「全周トラブル状況」にある、と「直言」で書いたのは7年前である。そこでは、韓国との竹島問題、中国との尖閣諸島問題を想定していたが、いま、韓国との関係は最悪である。一番の問題は、メディアも自治体も市民も、意固地になるあまり隣国の声が届かなくなっていることだろう。自治体間交流も中止され、市民レベルの交流すら後退している。しかも、今回明確になってきたのは、日本社会のなかに隣国への否定的な感情がむきだしになってきたこと、政府がそれに「便乗(もしくは悪のり)」している面があるということである。『夕刊フジ』は連日、大本営発表のように「日韓開戦」を煽っているかのようだ。そして、とうとう8月2日、安全保障関連物品の輸出管理手続きを優遇する「ホワイト国」から韓国を除外する政令改正が閣議決定された。この政令は8月7日に公布され、28日に施行される。「2019年8月2日」は日韓関係の悪化において質的な意味をもつ。それは2012年9月11日、野田佳彦内閣が尖閣諸島の国有化を閣議決定したことが日中関係悪化のターニングポイントとなったことに続く、アジアにおける日本の位置を大きく変える二つ目の閣議決定となるだろう。

日本という国はいつから、かくも冷たい国になったのだろうか。トランプ・プーチンには徹底的にベタベタ、文在寅と韓国に対しては徹底的に冷やかに、その反面、金正恩にはトランプ絡みで妙にやさしい。あれだけ「圧力」一辺倒だった安倍首相が、「私自身が金正恩委員長と条件をつけずに向き合わなければならない」と、5月6日に突然方向転換した。

それにしても、安倍首相の外交手法は恣意的である。北朝鮮から短距離ミサイルが飛んでも、かつてなら特別の記者会見までやって危機感をあおり、Jアラートをけたたましくならして、北朝鮮ミサイルと少子化の「国難突破」のための衆院解散までやった同じ人物が、ゴルフウェア姿で、「我が国の安全保障に影響を与える事態ではないことを確認した」といってゴルフを続行している。

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その間隙をぬって、7月23日、ロシア空軍と中国空軍が日本海と東シナ海上空で初の「合同長距離パトロール」を実施。その際、ロシア軍機が「計器の故障」で竹島周辺の領空に侵入し、韓国軍機が警告射撃を行うという事態も生まれている。竹島上空侵入には、北方領土問題をにらんだプーチンのしたたかな計算があるのではないか(手始めに8月2日、メドベージェフ首相を択捉島に「投入」)。「全周トラブル状況」のなかにあって、安倍首相とその政権は、「味方にできなくてもいいから、敵にしない」の逆をいく、「味方にできる人も、味方だった人までも敵にしてしまう」道を歩んでいる(直言「ホルムズ海峡の機雷掃海―安倍首相の「妄想」」参照)。「八方塞がり外交」は、安倍首相の在任中は続くだろう(直言「安倍首相は「平和を愛する諸国民」がお嫌い―「八方塞がり外交」」参照)。それによって失うものの大きさははかりしれない。

トランプと「完全に一致する」という安倍首相の自宅トイレには、このトイレットペーパーがセットしてある、ということまではないだろう(そもそも他国と「完全に一致する」ことなど外交ではなく、尻拭きする隷従ではないか)。なお、研究室の「わが歴史グッズ」コーナーには、ブッシュやフセインのトイレットペーパーもある。これも実際に使ったことはない。

というわけで、今回は、「夏の祭典」の時期の「埋め草」として、トランプ・プーチン・金正恩のグッズを中心に紹介した。早速、試験答案の採点に復帰することにしよう。

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