「新世界無秩序2.0」へ?――「9.11」から18年
2019年9月9日

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後日、9月11日は、「9.11同時多発テロ」の18周年である。左の写真はこの間に、米国を訪れた知人やゼミ生などから届いたものである。この写真の右下は、倒壊したビルの「破片」として売られていたものという。これを研究室に送ってくれた人によれば、間違いなくオリジナルとのことだった。その左は貿易センタービルを模したライターで、ボタンを押すと穴から火が出る。炎上するツインタワーというのは、あまり趣味がいいとは思わない。「9.11メモリアル・ミュージアム」で入手したボールペンやワッペンなどもあるが、普通の土産物なのでここには並べなかった。

むしろ、この写真をご覧いただきたい。「9.11」の新聞号外である。『岩手日報』『福島民報』『デーリー東北』(青森県八戸)。それと『The Daily Yomiuri』と『スポーツ報知』の号外である。2011年2月、某古書店がネットオークションに「9.11」関係の号外を多数出品した。全国紙、ブロック紙、地方紙の号外が多数あったが、なぜか「東北3紙」というのが気になって、6650円で落札した。落札と同時に、「号外 米国同時多発テロ デーリー東北・岩手3紙 平13.9.12 Z29を落札しました。Yahoo!オークション:2011年2月22日(火)21時46分54秒送信」というメールが届いた。数日後に現物が届くと、「死者1万人の情報も」という『デーリー東北』を一番上にして研究室の資料机に置いた。そのまま仕事場に向かった。そして3月11日、東日本大震災により研究室の書棚から本が崩れ落ち、これら号外は本の下敷きになっていた。幸い、破れたりはしていなかった。同じ写真のなかに見えるプレートは、米国に行った知人からもらったものだ。「9.11は内部犯行」「テロとの戦争は嘘だ(でっちあげだ)」。「もし歴史が繰り返すなら…」として、1933年2月27日のドイツ国会議事堂放火事件を想起させる構図になっている。世界史にはいろいろとなぞが多いが、私にとっては「1985年8月12日事件」と並んで、「9.11」は疑問と疑惑の宝庫である。

その「9.11」発生の1週間後に、興奮と揺れる心で書いたのが直言「最悪の行為に最悪の対応」である。いまからみれば、文章の量こそ少ないが、そこでは、「力の行使は、新たなテロに「栄養」を与え、テロの連鎖を生む。「『文明世界』が『野蛮』に対する戦争を遂行すれば、文明化された国家は、このたたかいにおいて、自らが『野蛮化』する危険が生ずる」」という視点を打ち出していた。そして、8年前に直言「「9.11」10周年から見えてくるもの」では、「“9.11”で誰が得をしたのか」という視点から、「「9.11」は二つの戦争の根拠に使われ、基本権を制約する法律の理由ともなった。国防予算は2倍に増えた。「テロへの不安」で利益を享受した者はいろいろいる。冷戦が終わり、大規模な国家間紛争に備える装備を売るのが困難になるなか、「テロとの戦争」は無限の需要創出装置として機能した。軍事産業にとって追い風となったことは間違いないだろう。」と書いている。その意味で、「世界を変えた」のは「9.11」ではなく、「ブッシュ大統領が世界を戦争に導く意図を宣言した「9.12」である」とも。

「9.11」は誰が起こしたのか。私は、「真実は、ビン・ラディン+アルカイダ犯行説と息子ブッシュ自作自演説という両極の間にあるだろう」として、結論を保留にしている。

ブックレット『暴力の連鎖を超えて』

その後の国際社会は、まさに「テロとの戦争」から「イラク戦争」、「イスラム国」へと、「9.11」への最初の対応の誤り(アフガン戦争)が「暴力の連鎖」を生んでいった。その意味で、「9.11」の4カ月後に出版した、憲法再生フォーラムの加藤周一・井上ひさし・樋口陽一・水島朝穂『暴力の連鎖を超えて』(岩波ブックレット、2002年)は、すでに絶版ながら、問題提起を含むものだった。図書館などで見つけてお読みいただけると幸いである。

4年前、直言「「テロとの戦い」の陥穽―「暴力の連鎖を超えて」再び」をアップしたが、そのなかで、イタリアの哲学者ジョルジョ・アガンベンの見解に注目した。安全保障がテロとの密かな「共犯」関係にあるというものである。アガンベンによれば、安全保障が「例外状態」に不断に依拠することにより社会の脱政治化をうみ、長期的にはこれが民主主義と相いれなくなる。そして、緊急事態を作り出すため方向に密かに動いていく。民主的な政治の任務は、憎悪やテロ、破壊が起きてからそれをコントロールしようとすることに限定されず、テロなどにつながる諸条件の発生を予防することであるという視点は今日なお、重要といえよう。

「9.11」の18年目の世界の風景はどうか。端的にいえば、むきだしの憎悪の感情が強調され、世界中でさまざまな対立が激化していることだろう。トランプの登場によって、「新世界無秩序」が始まったと書いた。とりわけトランプは再選をめざして、「票のためには手段を選ばず」の行動をとっている。政治も経済もすべてのことが、「トランプ取り引き」に振り回されている。世界は「新世界無秩序2.0」にむかっているのかもしれない。

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先月、直言「わが歴史グッズの話(45)「自国ファースト」時代の指導者たち」を出したが、一つだけ紹介し忘れていた。それは、「イスラム国とのたたかい」というミッションである。それを記念するTシャツを、国際関係の機関で働いているゼミ15期生が現地から送ってくれた。「生来の決意作戦」(Operation Inherent Resolve)。2014年8月に開始された、アメリカおよび有志国連合軍による、過激派組織「イスラム国」(ISIL)に対する軍事作戦である。Tシャツを拡大すると、日の丸も入っている(右側の写真参照)。湾岸戦争の後に「日の丸」がないと騒いだ人たちからすれば、満足というところだろうか。

このTシャツは、バグダッドの一般市民が住んでいる区画(団地)にある店で購入したものだそうである。この団地は、もともとイラクの中高級役人の庁舎だったようで、戦後の混乱期、バース党員が逃げ、かつ米軍がコントロールするわずかなスキをついて住み着いた人たちで、米軍も追い出すわけにはいかずそのままになっているという。このTシャツは主に外国人向けにイラク人が作ったもののようである

なお、「ISが絶対悪の人類共通の敵」という点は、イラクの人々の大方の世論と言って差し支えないとTシャツを提供してくれた元ゼミ生はいう。イラクの人々が、反米感情はありつつも、「生来の決意作戦」のTシャツをつくったのも、そういう心象風景を反映しているようである。かなり限定的な参加にも関わらず、しっかりと日本が参戦国として認識されていると彼はいう。だから、日本はしっかりとISから敵と認識され、宣戦布告されていることは周知の通りである。なお、元ゼミ生によると、イスラム男性の格好をしたトランプが“Make Iraq Great Again”と叫んでいるキーホルダーもあって、これが在バグダッド・米国大使館の売店で売られていたそうである。これは「わが歴史グッズの話(45)」の補足である。

ここで、日韓関係も最悪の状況についても補足しておこう。メディアは隣国に対する敵意を煽り続けている。ついに先週、『週刊ポスト』(小学館)が「断韓」を煽る特集を組むところまできた。「北海道時代は『週刊ポスト』が創刊号から書庫にびっしり揃っていた」というくらい、昔は政治や社会批評には読むべきものがあった。かつては何度か取材され、コメントを出したこともある雑誌だが、近年は後期高齢者のための雑誌(病気・薬、年金・相続、「死ぬまでSex」の三題噺)と化している。久しぶりに読んだが、むきだしの韓国敵視の言葉の暴力に、ここまできたかの感がある。

テレビ欄を見ると、韓国大統領が法務大臣に任命しようとする人物が、身内のスキャンダルを追及されるのを延々と伝えている。その際、タイトルとして「タマネギ男」という言葉が使われている。日本のメディアは自ら裏もとっていないのに、ここまでおとしめるのは異様である。それをいうなら、安倍首相こそ、「モリ・カケ・ヤマ・アサ」をはじめとする疑惑まみれの「タマネギ首相」ではないのか。この半年あまり、日本のメディアは日本の疑惑をほとんど追及しない。

少し話がずれたが、日韓関係のみならず、世界中で対立が激化し、言葉を含む暴力の応酬がとどまるところをしらない。本家本元のテロリストの影がこのところ薄い。「ベルリンの壁」崩壊30年を前にして、新たな壁は世界各地に築かれている。2019年秋は、世界各地で対立がさらに激化して、一触即発の事態も随所で生まれてくるだろう。いま求められているのは、立ち止まって考えることである。

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