日米安保体制と「敵基地攻撃能力」
日本政府はこれまで繰り返し、日本は「敵基地攻撃能力」を保有するつもりはないので、実際の「敵基地攻撃」における「打撃力」は米国にゆだねるという「役割分担」を主張してきた(在韓米軍との関係での「戦時作戦統制権」の問題は、前回の直言連載「その1」参照)。
だが、2015年4月27日の「日米防衛協力のための指針」(いわゆる「ガイドライン」)には、「日本に対する武力攻撃が発生した場合」の箇所で、「米軍は、自衛隊を支援し及び補完するため、打撃力の使用を伴う作戦を実施することができる。米軍がそのような作戦を実施する場合、自衛隊は、必要に応じ、支援を行うことができる。これらの作戦は、適切な場合に、緊密な二国間調整に基づいて実施される。」という記述はあるものの、「敵基地攻撃」の場合に米国に「打撃力」をゆだねるということは、明記されていない。
実際、この7月9日の参議院外交防衛委員会で、自民党の佐藤正久参議院議員は次のように発言した。「実際に、今まで日本政府は、盾と矛の役割で敵基地攻撃は米軍に依存しているというふうに役割分担の中で言ってきておりますけれども、オバマ政権やトランプ政権で政府の高官から、あるいは米軍の高官から、拡大抑止という言葉は出たとしても、こういうケースで一〇〇%アメリカが日本のために敵基地を攻撃する、担うという発言はなかったということを昨日の外務省からの事前レクでもありました。今まで明確に、拡大抑止という言葉はあっても、このように日本政府が言っているように一〇〇%敵基地攻撃をアメリカがやるということはなかなか明確な発言としてはなかったと思います。」 つまり、米国は「敵基地攻撃」の場面で日本のかわりに「打撃力」を担うとは約束してはいないということを外務省は認めたというのである。日本政府は、「敵基地攻撃の法理」はあくまでも「法理」であって現実の政策ではないとしてきたので、当然といえば当然である。わけのわからない政治家たちに「敵基地攻撃」などという「お花畑」な教室事例を設定されてしまったものだから、政府としては、恐怖におびえる政治家と国民を納得させるために、「米国が「打撃力」を行使してくれるから大丈夫」と適当にごまかし続けてきたものの、実は、米国は、自らが「打撃力」を行使するなど聞いていない、ということである。めちゃくちゃな話である。「なんだ、米国は「打撃力」を行使してくれないのか」とがっかりするのは、「お花畑」政治家の術中にはまっている。そうではない。「敵基地攻撃」の状況設定自体が「お花畑」だったのであり、議論のスタートラインがおかしかったのである。そんな非現実的な土俵に乗ってはならない。
歴代防衛庁長官も、「敵基地攻撃」は、「現実の問題というよりも、むしろ法理的」(第24回参議院内閣委員会1956年3月6日船田中防衛庁長官)、「御質問がそういう論理的可能性の、論理学のような質問でありましたから、論理学的に返答したのがあの答弁」(第65回国会参議院予算委員会第二分科会1971年3月23日中曽根康弘防衛庁長官)と答弁してきた。だから、日本政府は、政治家から繰り返し主張される「敵基地攻撃能力保有」論を長年にわたり、賢明にも無視し続けてきたのである。
そもそも、外務省は、ガイドラインの「日本に対する武力攻撃が発生した場合」の箇所にある「Japan will maintain primary responsibility for defending the citizens and territory of Japan」という記述を「日本は、日本の国民及び領域の防衛を引き続き主体的に実施し」と訳し、「The Self-Defense Forces will have the primary responsibility to conduct defensive operations in Japan and its surrounding waters and airspace, as well as its air and maritime approaches.」という記述を「自衛隊は、日本及びその周辺海空域並びに海空域の接近経路における防勢作戦を主体的に実施する。」と訳した。「第一次的責任」を意味する「primary responsibility」を勝手に「主体的に実施」と意訳したのである。そして、「米軍は、日本を防衛するため、自衛隊を支援し及び補完する」だけである。米軍に日本の防衛の「責任」がないことがばれてしまうと、米軍を日本に駐留させる大義名分がなくなるからだろう。米国に日本の防衛の「責任」がないなかで、米国は自国の国益に合致すれば「打撃力」を行使するだろうし、国益に合致しなければ行使しない。日米安保条約5条にも「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宜言する。」と規定されている。米国が「自国の憲法上の規定及び手続に従つて」、「打撃力」行使を拒否することもあり得る。米国に「打撃力」をゆだねているというのは、日本の「片思い」でしかない。
集団的自衛権と「敵基地攻撃の法理」
政府は、「敵基地攻撃の法理」の考え方は、集団的自衛権の場合でも「そのまま当てはまる」(第189回参議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会2015年8月26日横畠裕介内閣法制局長官)としている。
2014年の憲法解釈変更前は、「我が国に対する武力行使の着手」がなければ日本は個別的自衛権の行使として武力の行使をすることができなかった。だが、憲法解釈変更により、「他国に対する武力の行使」を契機とする集団的自衛権行使が認められてしまったため、「我が国に対する武力行使の着手」前から集団的自衛権行使として武力の行使が可能となってしまった。
次の政府解釈を整理した図をご覧いただきたい。最も単純なケースを示したものである。従来は、時間的に⑤にならなければ武力の行使は認められなかったが、集団的自衛権行使を認めてしまったために、②の段階で武力の行使が認められることとなってしまった。日本の武力行使の時期が時間的にかなり前倒しになってしまったことは明らかである。
②の段階で、例えば、米国に対する北朝鮮の武力攻撃の着手が認定されれば、日本は集団的自衛権の行使として、北朝鮮に対して武力の行使をすることができる。これは、攻撃される北朝鮮からすれば、突然日本から先に攻撃を受けるわけである。北朝鮮は日本を攻撃するつもりはないのに、「日本の「存立危機事態」だから」という理由で日本から攻撃される。北朝鮮にとってはたまったものではない。立場を逆にして考えてみてもらいたい。日本が北朝鮮の同盟国のX国から武力攻撃を受けそうになっているので、日本がX国に対する「敵基地攻撃」のためにミサイルを発射しようとしていたら、日本は、突然、北朝鮮からミサイル攻撃を受けるのである。2014年の「7.1閣議決定」により安倍政権はこういう論理を認めた以上、このような北朝鮮の行為を非難する立場にはない。自分だけは良くて相手はだめというのは説得力がない。
「必要最小限度」とは
「敵基地攻撃の法理」では、「陸上自衛隊が敵の領土に入る場合には、自衛のためにと、広い意味では自衛のためと言えるかもしれませんけれども、少なくとも憲法の予想しておる必要最小限度の範囲をこえるおそれがたぶんあろうと思いますので、私はそれは必要最小限度外であろうと考えます」(第65回参議院予算委員会第二分科会1971年3月23日久保卓也防衛庁防衛局長)とされている。したがって、「朝鮮有事」でいえば、陸自は北朝鮮の領土に入ることは必要最小限の範囲をこえるし、北朝鮮のミサイル基地の位置を把握するために自衛隊が北朝鮮の領土に侵入することも、政府解釈からしても憲法違反である。
また、「敵基地」とは、ミサイル策源地のみではないだろう。ミサイル策源地に対する攻撃を軍事的に成功させるためには、相手の防空能力に対する攻撃も必要だから、ミサイル策源地に対する攻撃の前にレーダーサイトや他の空軍基地を破壊しておく必要がある。北朝鮮のミサイルについて、石破茂防衛庁長官は次のように答弁している。「その全部、例えばそのミサイル基地が北朝鮮全土に、仮に北朝鮮としましょう、全土に分散をしておった場合には、これは必要最小限なのかどうなのかということにかかってくるのだろうと思っています。ですから、まさしく委員御指摘のとおり、すべて、その二百全部に対して、自衛権の発動としての武力攻撃を我が方がなし得るかどうかというものはそのときの判断だと思いますが、必要最小限というところにかかってくる」(第156回衆議院武力攻撃事態への対処に関する特別委員会2003年5月12日)。
いわゆる「飽和攻撃」として、北朝鮮が200発のミサイルを同時に日本に撃ってきた場合には、軍事的にはその全部を破壊しておくしかないし、結局のところ、それは「必要最小限」と評価されるだろう。だが、もはやこのような事態は自衛隊による空爆であり、空襲であり、普通の戦争である。「北朝鮮が同時に200発のミサイルを日本に撃ってきたらどうする?」といった非現実的な妄想を言い始めると歯止めが効かなくなるゆえんである。だからこそ、そのような事態が起こらないように、外交努力をしなければならないのである。浜田靖一防衛大臣は、「我が国としての今現在の状況をお話をして、装備として持っていませんと。というのは、要するに、基本的には、そういう状況に陥らないようにやっていくんですということが重要であるという歯どめ、そしてまた、逆に言えば、本来であれば、こういったことを考えずに、外交努力等々によってこういったことがないようにすることが重要であろうと思っております。」(第171回衆議院安全保障委員会2009年4月9日)と答弁している。これがまっとうな感覚である。
武力攻撃の着手の時期と北朝鮮の「ミサイル」
政府の「敵基地攻撃の法理」によれば、日本が武力を行使して「敵基地」を攻撃できるのは、「敵」が武力攻撃に着手した時期であるとされている。その武力攻撃に着手した時期は、「そのときの国際情勢、相手国の明示された意図、攻撃の手段、態様等について総合的に勘案して判断されるものであるというのが政府の従来からの見解」(第145回衆議院安全保障委員会1999年3月3日野呂田防衛庁長官)である。
武力攻撃の着手の時期は、「攻撃の手段」を判断の要素とするので、北朝鮮の「ミサイル」について詳しく検討する。
防衛省の資料に「北朝鮮が保有・開発してきた弾道ミサイル」がある(次の資料の10頁)。
(1)防衛省によれば、スカッドBの射程は約300km、スカッドCの射程は約500kmである。これらは、韓国攻撃用と考えられており、日本に届かないミサイルであるから、「敵基地攻撃」の対象にはならないはずである。また、最近話題となっているロシアのミサイル「イスカンデル」に類似した北朝鮮のミサイルは、韓国国防部によれば、短距離弾道ミサイルであり、その飛行距離は約600㎞だったとしている。 北朝鮮がイスカンデル類似のミサイルを朝鮮半島の38度線ぎりぎりに配備すれば、日本も射程に入るが、そんな想定は非現実的である。日本攻撃用のミサイルではなく、日本への直接的な脅威とならない。したがって、「敵基地攻撃」の対象ではない。
(2)防衛省によれば、ムスダンの射程は約2,500~4,000km、IRBM級の火星12の射程は約5,000km、ICBM級の火星14の射程は5,500km以上、ICBM級の火星15の射程は10,000km以上、テポドン2派生型の射程は10,000km以上、KN-08及びKN-14の射程は5,500km以上である。これらは、日本を攻撃するにはオーバースペックであり、これらの発射準備がされていたとしても、「敵基地攻撃」の対象とならないのではないか。つまり、これらは、アメリカ本土、グアム、ハワイを標的としたものと考えられているから、これらの発射準備がされている場合に、日本が「敵基地攻撃」することは、集団的自衛権行使となる蓋然性が極めて高い。北朝鮮によるアメリカ本土、グアム、ハワイに対する攻撃をもって直ちに日本の「存立危機事態」と判断するのは無理がある。これらのミサイルに対する「敵基地攻撃」は、いわゆる「フルスペック」の集団的自衛権行使である。そして、アメリカを標的としたミサイル発射に対する「敵基地攻撃」を日本が行ったら、北朝鮮からすれば、日本が先に攻撃してきたことになる。当然、日本への報復攻撃が予想される。なお、弾道ミサイルを通常よりも角度を上げて高く打ち上げる「ロフテッド軌道」での発射があり得るとの反論もあろうが、大陸間弾道弾をわざわざ日本攻撃用に使わなければならない状況というのは、北朝鮮にミサイルの在庫がなくなったときぐらいだろう。この文脈で「あり得なくもない」などという主張に付き合う暇はない。それに、「ロフテッド軌道」で発射するかどうかをどうやって探知するのだろうか。
(3)防衛省によれば、ノドンとその改良型の射程は、それぞれ約1,300km、1,500km、スカッドERの射程は約1000 kmであるが、現在のところ、日本を射程に収めるのはノドン・改良型とスカッドERのみと考えられている。そこで、軍事的に議論の俎上に乗るのは、ノドン・改良型とスカッドERが発射準備されている場合ということになる。ただし、「北朝鮮の後方地域に配置されたノドンミサイルの場合、日本よりは韓国打撃を主任務にしているものと推定されている。特に中国国境に近いヨンジョドン基地に配置されているノドンミサイルが代表的だ。」(유용원,신범철,김진아『북한군 시크릿 리포트』(北朝鮮軍シークレットリポート)139頁(플래닛미디어, 2013))、「ヨンジョドン基地は、中国国境からわずか20キロしか離れておらず、地下発射台の入口が中国側を向いており、有事の際、韓米両国が空襲で精密爆撃することは、事実上不可能であるものと評価されてきた。」(同書140頁)という情報もある。北朝鮮の軍事情報は推測の域を出ないものが多いが、この情報が正しいとすると、アメリカと韓国でさえ「敵基地攻撃」は不可能なのだから、ましてや自衛隊は不可能である。いずれにしても、ノドンの実態は不明としかいいようがなく、実態が不明なミサイルに対してどのように「敵基地攻撃能力」を議論するというのだろうか。
「敵基地」の位置の把握
北朝鮮の東海衛星発射場(舞水端里)や西海衛星発射場(東倉里)のような固定の発射基地ならば、ミサイルの位置を把握できるが、発射台付き車両(TEL)又は地下式格納施設から発射されるノドン等の位置を自衛隊はどのように把握するのか。
事前に自衛隊員等を北朝鮮に上陸させるなどにより、情報を収集しておくことが考えらえるが、自衛隊の上陸のためには、前回の「直言」で述べたように、韓国との事前協議と同意が必要である。だが、アメリカや韓国でさえ、北朝鮮のミサイル基地の場所を把握しきれていないのに、自衛隊が基地の場所を把握できると考えるのは、楽観を通り越して、妄想に近い。それに、「陸上自衛隊が敵の領土に入る場合には、自衛のためにと、広い意味では自衛のためと言えるかもしれませんけれども、少なくとも憲法の予想しておる必要最小限度の範囲をこえるおそれがたぶんあろうと思いますので、私はそれは必要最小限度外であろうと考えます」(第65回参議院予算委員会第二分科会1971年3月23日久保卓也防衛庁防衛局長)という答弁からは、政府の立場に立ったとしても、陸上自衛隊の北朝鮮領土への侵入は憲法違反である。
そうすると、「偵察衛星で24時間監視すればよいではないか」という声があがる。しかし、日本の情報収集衛星については、次のことが分っている。「情報収集衛星は、飛行する地域の直下の地方時を常に一定に保ち、数日ごとに同じ地域の上空を通過する性質を持つ、極軌道に投入されている。光学衛星とレーダー衛星1基ずつが組みとなり、一組は直下地方時が午前10時30分、もう一組は午後1時30分の軌道に入っている。同じ地域の上空に戻ってくる回帰周期は、ともに4日であることが判明している。」(松浦晋也「情報収集衛星はスパイ衛星か」imidas 2007年4月20日) 。
日本の情報収集衛星は、午前10時30分頃と午後1時30分頃に北朝鮮上空を通過するとみられるが、撮影時間はせいぜい1、2分程度にすぎないだろう。北朝鮮も当然そのことを承知しているから、わざわざその時間帯にミサイルを地上に出しておくことなど考えられない。ましてや、地下式格納施設に配置されたノドンの位置は、米軍の偵察衛星でも発見困難である。アメリカが保有している静止衛星は、早期警戒衛星とよばれ、赤道約3万5900キロ上空の軌道にある。赤道上空だから「静止」していられるのであり、北朝鮮上空を24時間監視し続けることができる静止衛星など、技術的にも費用的にも非現実的な話である。また、米軍の早期警戒衛星は、ミサイル発射時の噴射による赤外線を探知するものであるから、ミサイルが噴射していなければ、ミサイルの位置は分からない。
冒頭の写真は、米宇宙開発庁が2020年代初頭にフィールドにしようとしている星座の概念的設計図である(Space Development Agency, Next-Generation Space Architecture, Request for Information, SDA-SN-19-0001より)。2019年から米国防総省は、複数の衛星を低軌道で何層にも軌道に乗せ、「衛星コンステレーション」を形成し、地上を監視するシステムの構築を検討しはじめた。日本でも「敵基地攻撃」の議論として「衛星コンステレーション」導入を主張する声が出てきた。北朝鮮に対する恐怖もここまでくると病的である。レーガン大統領の「戦略防衛構想(SDI)」(「スターウォーズ計画」)が頓挫した歴史に全く学んでいない。日本は、そんな金と時間があったら、早く北朝鮮と外交交渉をして、敵対関係を終わらせることに努力すべきではないか。それとも、北朝鮮との敵対関係を終わらせると政治家や軍人にとって何か不都合なことがあるのか。
「スカッドハント」の失敗――「敵基地攻撃」は困難
高橋杉雄・防衛研究所研究部第2研究室教官「専守防衛下の敵地攻撃能力をめぐって―弾道ミサイル脅威への1つの対応―」(防衛研究所紀要第88巻第1号(2005年10月)) は、湾岸戦争時、アメリカはイラク側の短距離弾道ミサイルであるスカッドミサイルを撃破するため、「スカッドハント」という空爆を行ったが、期待された成果を挙げなかったことを明らかにしている。これは、「敵基地攻撃」がアメリカにとってもいかに困難であるかを示す実例である。主要部分を引用しておく。
「湾岸戦争は米国側の圧倒的優勢のまま推移したが、イラク側の反撃としてもっとも大きなインパクトを持ったものが弾道ミサイル「スカッド」によるイスラエルやサウジアラビアに対する攻撃であった。そしてそれに対して、米国はパトリオット迎撃ミサイルを緊急配備するとともに、スカッドを地上で撃破するための大規模な空爆を展開した。これがいわゆる「スカッドハント」である。これは、湾岸戦争中のほぼ全期間にわたって展開された、移動式の弾道ミサイルランチャーを撃破するために行われた大規模軍事作戦だが、結局この中で、移動式ランチャーを捕捉し、撃破することがどれほど難しいかが証明されることになる。(略)スカッドハントによって破壊されたランチャーはきわめて限られた数であると考えられている。作戦に従事したパイロットたちは、100基程度のランチャーを破壊したと報告しているが、戦後に行われた調査では、そのほとんどがデコイやタンクローリーなどを誤認したものと結論づけられた。結局のところ、最大の問題はスカッドランチャーを発見することが予想以上に難しかったことであった。湾岸戦争では地上監視用の合成開口レーダーを搭載したJSTARS(統合監視目標攻撃レーダーシステム)も投入されているが、それにしてもタンクローリーなどの大型車両と本当のスカッドランチャーを区別することはできなかった。また、スカッド発射を探知し、発射地点を1平方マイルの精度で特定したケースがいくつかあるが、ほとんどのケースで攻撃機側でランチャーの位置を確認できず、攻撃には至らなかった。さらに、上空待機中の攻撃機からスカッドの発射が目撃されたケースが42回報告されているが、攻撃機が実際に攻撃ポジションについて投弾できたのはそのうちわずか8回で、そのいずれもランチャーの破壊を確認するには至らなかったとされている。このように、「スカッドハント」作戦は期待された成果を挙げることができなかった。」
第二回:「敵基地攻撃能力=抑止力」という妄想(その2)――法的、軍事技術的視点から
第三回:敵基地攻撃能力=抑止力」という妄想(その3・完)――過大評価と過剰対応