コロナ感染拡大と米軍基地
新型コロナウイルスのオミクロン株の感染拡大がすさまじい勢いで進んでいる。沖縄県と山口県、広島県における半端ではない感染者数の背景に、米軍基地との関係があることが強く疑われている。山口県の岩国基地には、本土で唯一、海兵隊の主要な航空部隊(第12海兵航空群)が常駐する。岩国は広島県大竹市まで山陽本線で2駅。広島は通勤圏である。コロナ特措法により、この3県にいわゆる「マンボウ」(「まん延防止等重点措置」(コロナ特措法31条の4、6)が適用された。しかし、コロナ禍が3年目に入るのを前に、政治は憲法改正への動きを強めている。憲法改正の問題は落ち着いて冷静に議論すべきであるのに、なぜいつもこうもせわしいのか。どさくさ紛れの「惨事便乗型」には要注意である。2年前もそうだった(直言「新型コロナウイルス感染症と緊急事態条項――またも「惨事便乗型改憲」」参照)。沖縄と山口の感染拡大が示していることは、日米地位協定と関連国内法の改正ではないのか。岸田文雄首相が、地位協定の見直しをかたくなに拒否しながら、憲法改正に前のめりというのは何とも不思議である。この問題については、またの機会に論ずることにしよう。
コロナ禍のコンサート
さて、新春2回目の「直言」では、雑談シリーズ「音楽よもやま話」をアップする。世界中で、コロナ禍における芸術活動が大変な困難に直面している。私が会長を務める学生オーケストラ、早稲田大学フィルハーモニー管絃楽団も同様である。2021年新年2回目の「直言」は、「雑談(125)音楽よもやま話(27)コロナ禍のコンサート――早稲フィル第83回定期演奏会のこと」として、学生たちが、コロナ禍でどのように練習を続け、コンサートの実施方法などにどのような工夫を加えていったかに焦点をしぼって書いた。あれからちょうど1年が経過して、コンサートの開催の仕方にも変化が生まれてきた。そこで、2週間前の第85回定期演奏会について、「コロナ禍のコンサート(その2)」として書き残しておきたいと思う。
実は昨年5月の春の定期演奏会(第84回定期)は、3度目の緊急事態宣言が出されたため、本番を目前にして中止した。その決断は断腸の思いだった。その後、学生たちは苦労を重ねながら、12月28日の演奏会当日を目指して練習を重ねていった。そして、1年ぶりに演奏会を成功させることができた。感染者は一人も出ていないとの報告を受けている。
曲目は、ブラームス「大学祝典序曲」作品80、ワーグナーの歌劇《タンホイザー》序曲、ブラームスの交響曲第4番ホ短調作品98というコテコテのドイツものである。指揮者は、初めて依頼させていただいた川瀬賢太郎さん。演奏会翌日に37歳の誕生日を迎えられた若手指揮者である。会場は、すみだトリフォニーホール。大ホールは1801席を有するが、大学のイベント基準に従って700人にしぼった。この会場は、2005年12月25日の第53回定期演奏会で使ったことがある。飯守泰次郎さんの指揮で、ベートーヴェンの交響曲第9番ニ短調「合唱付」を演奏した。この時は1801席の大ホールが満席になったのを、ついこの間のように覚えている。
異常時のオーケストラ─大震災とコロナ
演奏会当日は、ゲネプロから参加した。その最後の打合せのところで、会長としての挨拶を求められた。全員を前にして、10年前の東日本大震災の時のことを語った。1、2年生は小学校低学年のころでイメージしにくいと思ったため、やや具体的に語った。例えば、余震や「計画節電」などで、大震災後、しばらくの間、大学から、練習や演奏会の中止を求められ、実際、卒業演奏会を中止したことなどを話した。tutti(総奏)の時、大きな余震がきたら危険だという発想である。だが、いま思えば、地震よりもコロナの方が、より深刻かもしれない。感染防止の施策は、人と人とのつながりという人間存在の本質にかかわる制限を伴う。人が「集まる」こと自体が規制される。しかも、個々の奏者をただ人数だけ集めるのみでは音楽にならない。オーケストラとしての有機体となるには、セク練とtuttiの積み重ねが求められる。ソーシャル・ディスタンスをやりすぎたら、オーケストラの音にはならない。このジレンマとのたたかいの意味を1、2年生にも知ってほしかったので、挨拶では、大学の学生課に、練習の許可を事細かく得てやってきたこと、異常時に何とか本番までもってこれたことそれ自体が、どれだけ貴重なことなのかを知ってほしいと語った。
ちなみに、OBとして参加していた酒井義人君(2011年のコンサートマスター)が、震災ボランティアで訪れた陸前高田病院などで、お年寄りのアンコールにこたえて、「北国の春」(地元出身の千昌夫の歌を弾ききった「裏話」も披露した(直言「早稲フィル(WPO) in 陸前高田&閖上」参照)。前列に座り照れ隠しで顔をおおっているのが、その元コンマスである(笑)。
大学の課外活動の規制について
学生のサークル活動の基準となるのは、「新型コロナウイルス感染拡大防止のための早稲田大学行動制限指針」改訂(2021年11月15日)である。学生部長名の「課外活動の段階的な再開について(第11報)」では、次のようになっている。
「…明日[11月15日]以降、各サークルにおいても集客を伴うイベント等が実施できるよう、以下のとおり制限を緩和します。ただし、感染防止の観点から、引き続きマスクの着用、手指の消毒、黙食等を徹底してください。
①感染予防策を徹底することで、オンライン配信だけでなく、集客を伴うイベント等の実施を認めます。イベント等実施には事前申請による大学の承認が必要です。
②集客を伴うイベント等を実施する際には、出演者・来場者ともにマスクを着用することを原則とします。楽器を演奏する等、物理的にマスクを着用することが難しい活動や、成果発表内容の演出等の都合により出演者のマスク着用が難しい場合は、新型コロナウイルスワクチン接種の有無にかかわらず、マスク非着用者全員が、イベント実施日4日~2日前までの間に、PCR検査あるいは抗原検査による陰性確認を行うことで、本番中のマスク非着用を認めます。陰性確認の結果については、必ず大学に事前報告を行ってください(事務所開室時間を厳守)。なお、本番終了後は、速やかにマスクを着用してください。
③イベント中の食事は、水分補給は除き、原則禁止とします。ただし、運営上やむを得ず食事が必要な場合は、黙食を徹底し、短時間で食べるようにしてください。また、片付けの際は感染予防を徹底してください。
④「練習」活動においても、マスクの着用を徹底してください。物理的にマスクを着用することが難しい等の理由でやむを得ずマスクを外す場合も、練習終了後は速やかにマスクを着用してください。
⑤布・ウレタン製等のマスクでは十分な予防効果が得られないという報告もあることから、密が発生する活動については、練習、イベントを問わず、不織布マスクを着用するようにしてください。…以下、略…」
通常時でも、キャンパス外で練習をするときには、学生課に「合宿・遠征届け」(兼・学生傷害補償)を出すことが求められる。それに私の署名と印鑑が必須である。この17年間、歴代の幹事長(早稲フィルではインスペクターという)には、書類に署名・押印するため、急ぎの場合は自宅近くまできてもらったこともある。コロナ禍のため、この2年ほど、練習や演奏会について「特別措置」と表記した届けが厳格に求められてきた。幹事長に直接会わないで押印した書類を提出できるよう、スキャナーを追加購入して、自宅にいても仕事場にいても対応できるようにしていた。
オミクロン株の急速な感染拡大による「第6波」の急襲のなか、春の第86回定期演奏会に向けた練習や準備をどのようにしていくか。課題は多いが、この2年間で学んだことは決して無駄にはならないだろう。感染対策をしながら音楽で自己実現するということを、今年もしっかり追求していってほしいと願う。