北海道取材合宿へ
今週は水島ゼミの北海道取材合宿である。昨年12月、最後の沖縄取材合宿を実施したが、今回は水島ゼミの最終期、25期生による北海道取材合宿である。前回は2017年だったので5年ぶり、通算6回目になる。第1回は2003年だった。2007年は「食」と「農業」に関心が強かった。2009年は「「片山事件」と北海道――自衛隊「事業仕分け」」のなかで触れ、2013年は長沼ナイキ基地訴訟一審判決40周年のなかで書いた。
ところで、明日から「アイヌ班」のゼミ生は平取町まで取材に行くが、実はその先の静内町には、陸上自衛隊第7師団(唯一の機甲師団)の隷下部隊、第7高射特科連隊の静内駐屯地がある。かつて私は北海道に住んでいたが、国道235号線を使って日高路をドライブした際、海に向かって射撃訓練をしているところに遭遇した。Googleマップの検索エンジンに、42.30644638435531,142.44193248433908をコピペすると、87式自走高射機関砲が35ミリ弾を海に向かって射撃している写真が出てきた。緯度経度で場所を特定できるGoogleマップの機能とその情報量に驚いた。
ドイツの兵器供与の象徴「ゲパルト対空機関砲」
「35ミリ」で思い出したのが、ドイツ政府が4月26日、35ミリ自走対空機関砲「ゲパルト」(Gepard) 50両をウクライナに供与すると表明したことである。これについては直言「ユルゲン・ハーバーマス「戦争と憤激」──ドイツがヒョウでなくチーターを送る時代に」ですでに書いた。ウクライナはドイツに対して、戦車(レオパルトⅡ) の供与を強く求めてきたが、ドイツはこれに応じていない。79年前の1943年7月、ウクライナのハリコフ(ハリキウ)北方のクルスクで、独ソ両軍合わせて約6000両による「史上最大の戦車戦」が行われたという歴史的経緯もあってか、ドイツ政府は戦車供与に慎重な態度を崩していない。とはいえ、「大砲ではない、35ミリ機関砲ならば」と供与を決めたものの、50両のうちの15両しかウクライナに届いていない。しかも、弾の在庫が6万発しかないことも判明。苦慮したあげくに、ノルウェーが35ミリ弾を新たに製造することになったのだが、せっかくの新品も規格外で運用できず、この冷戦時代の中古品は、ウクライナで無用の長物になりつつあるようである(7月31日段階の情報)。
冒頭右の写真は、『南ドイツ新聞』8月25日デジタル版に載った、オラフ・ショルツ独首相(社民党(SPD))が連邦軍の駐屯地を訪れて、この「ゲパルト」に乗り込むところを撮影したものである。安倍晋三首相(当時)や河野太郎防衛相(同)も、10式戦車に乗り込むパフォーマンスを演じたことを思い出すが、この時期、このタイミングにおけるショルツのそれは、ウクライナを苛立たせる以外の結果をもたらさなかった。
侵攻後半年の兵器供与の状況
RND(Redaktions Netwerk Deutschland)8月25日は、ロシア侵攻から半年の時点で、ウクライナに対して、どこの国が、どのくらい武器供与をしているかをまとめた記事を載せた。
ドイツは、戦車は供与していないものの、前述の対空機関砲のほか、PzH2000自走榴弾砲もウクライナに送っている。戦車がだめで、なぜ自走榴弾砲ならいいのか理解できないが、戦車がもつ象徴的機能を重視しているのかもしれない。記事によると、ドイツは対戦車兵器や対空ミサイルなどのほか、機関銃や手榴弾、弾薬などの軽火器、ヘルメット、衣類、自動車、テント、野戦病院のセットも提供している。8 月 8 日までで、総額は7 億ユーロという。
記事によれば、兵器供与は各国それぞれで、米国は約98億ドル相当の兵器と装備を供与している。8月24日、米国は約30億ドルの追加長期支援を行うことを表明した。英国も米国と並ぶ最大の兵器供与国である。対戦車兵器や短距離ミサイルなどのほか、M109自走榴弾砲なども送っている。それらを使いこなせるように、ウクライナ兵が英国軍の専門家により訓練されている。フランスも1億ユーロ相当の供与を行い、イタリアも1億5000万ユーロで対空ミサイルなどを供与している。カナダが送った重火器はM777榴弾砲で、ロケットランチャーなどを合わせて2億ユーロ相当がウクライナに流入した。スペインは当初、武器の直接引き渡しをしぶったが、軽火器を中心に供与を始めた。ドイツ製のレオパルトⅡ戦車を供与するという情報も流れたが、スペインは結局戦車の引き渡しを拒否した。
この記事にはスカンジナビア諸国、バルト三国、オランダ、ベルギー、チェコの武器供与の状況が書かれているが、ここでは省略する。記事によれば、各国とも武器供与に関するすべての情報を出しているわけではなく、イタリアやフランスなどは武器供与の細目を控えめにする傾向がある一方で、ドイツは供与する武器の公開リストを出している。武器供与に「温度差」が出てくるのも、それぞれの国がロシアとの関係でさまざまな事情(特に冬に向けての天然ガス供給)を抱えていることがある。
武器供与をめぐる各国の微妙な「温度差」
8月30日にチェコのプラハで開催されたEU国防相会議でも、各国の足並みは微妙に異なった。フランクフルター・アルゲマイネ紙8月31日付によれば(写真はFAZによる)、供与した武器の運用をウクライナ兵が行うための訓練任務にEUが関わることについて、特にオーストリア、ハンガリー、イタリアが批判的態度をとったという。全体としては、ウクライナへの軍事支援を強めることについては合意したものの、まだ決定は出されていない。武器供与を超えて、それを操作する兵員を訓練するところまでいけば、戦争への直接関与の度合いは高まる。自らの国の戦闘部隊をウクライナ領土に入れれば、ロシアからすれば攻撃目標となる。ウクライナ兵を自国の基地で訓練して、武器を操作する要員として送り返すのも同様である。「訓練だけでなく、一般的な支援についても、より大きな調整が必要であること」が確認された。「調整」が入ることで、訓練任務についての共通の対応は先延ばしされたとみていい。すでに英国がウクライナ兵の訓練を継続的に行っており、他国もこれに続くことが期待されているが、そう簡単ではないだろう。
ドイツの場合は政権内でも統一がとれていない。RNDの8月31日付によれば、クリスティーン・ランブレヒト国防相(SPD)は、軍の備蓄からウクライナに対するさらなる武器供与を行うことに疑問を呈しつつ、「ドイツ連邦軍から引き渡せるものの限界に達しつつある」と述べた。他方、8月30日にプラハでインタビューに応じたアンナレーナ・ベーアボック外相(緑の党)は、ウクライナに対して、「あなた方が私たちを必要とする限り、私たちはあなた方の側に立ち、ドイツの有権者がどう思おうと、私はそれを実行します」といってのけた。この写真は、『南ドイツ新聞』9月2日付の記事中にはめ込まれた動画のなかから、外相が問題発言をした部分をスクリーンショットしたものである。外相は英語で話したが、ドイツ語の字幕が付いていて、ドイツの有権者はしっかりこれを読み取ったわけである。SNS上にこの動画が拡散し、「炎上」した。
ロシアからヨーロッパに向けての天然ガス供給はこの50年間、何の問題もなく続けられてきた。ところが、2月のロシア侵攻後、EU諸国が経済・金融制裁、さらには武器供与に踏み込むに従って、ロシアは天然ガス供給を停止するというカードを切ってきた(Nord Stream 1)。ヨーロッパが必要とする天然ガスの40%がロシアからきており、ロシアが産出する原油の50%はヨーロッパ向けである。ロシア産原油の価格は高騰し、冬に向けてヨーロッパの事情は深刻である。特にドイツの天然ガス依存は高く、冬に向けての市民の不安を背景に、武器供与が鈍る背景にもなっている。ベーアボック外相の威勢のいい語りが、ドイツ国民を軽視するものととられたのである。
NATO加盟の「火遊び」に前のめりの36歳のフィンランド女性首相にせよ、41歳のベーアボック外相にせよ、しっかり歴史を踏まえた発言をすることが期待される。平和運動、環境保護から生まれた「緑の党」や社民党も、政権担当の度に保守政党よりも、時に過激に軍事に前のめりになる傾きがある。23年前もそうだった(直言「元反戦活動家による戦争」)。ベーアボックも同様であろう。
ボンに事務所を置く平和ネットワークの機関誌『平和フォーラム』(FriedensForum) を20年ほど購読しているが、最新号の付録に、「核戦争防止国際医師会議」(IPPNW)のドイツ支部のチラシが入っていた。冒頭左の写真がそれである。わかりやすいイラスト入りで問題を提示している。タイトルは「(ウクライナへの)武器供与のリスクと副作用――なぜ武器は(紛争)解決に寄与しないか」である。
「ウクライナ戦争」の半年が経過して、武器供与を叫ぶゼレンスキーにためらう西側諸国も出てくるなかで、この戦争をいかにして終わらせるかという課題が重要になってきている。私なりの問題指摘は、共同通信文化部が配信した拙稿(『山梨日日新聞』6月10日付など)や、『週刊金曜日』特集「戦争を止めるためにいま考えること」の巻頭論文「武器供与ではなく、即時停戦求める声を! 」で行っている。もちろん、2年前の憲法改正によりさらに権力を強め、特にそこで条文化した愛国教育や歴史の押しつけ(67.1条)が8月に入って「効果」を発揮している。冬を前にした「天然ガス戦略」も巧妙である。「プーチンの戦争」をどう終わらせるかというのは難題である。しかし、武器供与の強化という手法にこだわることはやめるべきだろう。それについての一つの視点として、以下、IPPNWドイツ支部の視点を紹介しよう。
「核戦争防止国際医師会議は、武器供与が制御不能なリスクにつながり得ることを警告する。武器供与は紛争解決の手段として適していない。ウクライナに対するロシアの侵略戦争を終わらせるには、交渉と外交に基づく他の手段が求められる。」として、次の6つの点を警告する。
《付記》 ロイター 9月9日によれば、ウクライナ大統領のゼレンスキーは、9月21日に、米国の軍事産業協会(NDIA)の会議にオンラインで参加し、米国の軍事産業に直接、武器の提供を訴えるという。NDIAにはレイセオン社やロッキード・マーチン社などが加盟している。武器供与には米国政府や議会の決定が必要であり、軍事産業界に対する直接行動はきわめて異例である。1. 武器は紛争をかき立て、長引かせる
武器と軍隊は紛争を解決しない。むしろ状況を悪化させ、戦争を長引かせる。それは、とりわけシリアやイエメンの戦争に劇的な仕方であらわれている。何十万もの犠牲者、破壊された都市、そして、国家機関も伝統的なそれも、人々に安全を保障しないような権力の真空をもたらす。
2. 武器供与は中立性を妨げる
国連憲章51条によれば、国際法上許されるのは、被侵略国に対して、集団防衛の枠組みのなかで加勢することである。しかして各国は、被侵略国に武器を供給して、それにより自らが戦争当事者になろうとするのか、それとも中立を保ちたいのかを決定することができる。3. 武器供与は武器輸出の統制を困難にする
武器輸出の議会統制は、長きにわたりその不透明さを批判された。先の政権はただ単に危機地域だけでなく、戦争を遂行している諸国家にも提供してきた。新しい連邦政府は、「制限的な武器輸出政策」を追求し、かつ「原則として緊迫地域や危機地域には武器を輸出しない」という目標を設定した。ウクライナへの武器供与は、危険な先例を作り出す。
4. 武器は防衛のためだけに役立つのではない
いわゆる防禦用武器はどれ一つとっても例外なく、攻撃用武器としても使用しうる。これは、2019年に連邦議会科学サービス(WD)によって確認された。それゆえ、安んじて供与しうる防禦用の武器というものは存在しない。
5. 武器の移転が続く
ひとたび輸出されると、政府は、誰が武器を使うかについてのコントロールを失う。武器は敵対的当事者によって鹵獲され得る。かくして、ドイツからクルド人勢力ペシュメルガ [イラク領クルディスタン自治政府が保有する軍事組織]に供与されたミラン対戦車ミサイルは、2014年にIS(イスラム国)の所有物となった。
6. 武器供与はエスカレートしていく
武器の要求は、暴力と侵略に対する頻繁な反射反応であるが、暴力は対抗暴力に通ずる。武器供与による暴力も、さらなる暴力を誘発し、エスカレーションの連鎖につながるだろう。その連鎖は現在の状況では、核戦争で終わりかねない。