創刊77周年の南ドイツ新聞に、自公連立23周年の公明党代表インタビューが掲載
赤いのぼりには「第2戦車連隊」とある。『南ドイツ新聞』(Süddeutsche Zeitung: SZ)9月16日付の記事に使われた写真である。北海道・旭川市に司令部を置く陸上自衛隊第2師団の戦車連隊(上富良野駐屯地)の隊員たちが、北部方面隊の戦車射撃競技会(島松演習場)か、あるいは上富良野演習場における総合戦闘射撃訓練の際に、戦車に乗る同僚を応援している場面と推察される。ドイツ人読者には、日本の戦国時代の合戦における旗指物がけっこう知られているので(マニアもいる)、あえてこの写真を使用したのかもしれない(デジタル版9月16日13時10分は、習志野駐屯地のオスプレイの写真を使用)。
この写真の記事の見出しは「軍事大国にだけはならないで」(デジタル版は「日本の安全保障政策:日本が軍事大国にならないように注意しなければならない」)。公明党の山口那津男代表(70歳)に、同紙東京特派員がインタビューする7面(外国政治)の3分の2以上を使った本格的なものである。
1999年10月5日、小渕恵三第2次改造内閣で自公連立政権が誕生して23年。記者の問題意識は、公明党と自民党との微妙な距離感にある。インタビューのポイントは3つ。平和憲法[憲法9条]をめぐる議論、連立をくむ自民党の「ムードメーカー的存在」(Stimmungsmache)、新しいミサイルの必要性である(紙面の副題)。
10月6日に創刊77周年を迎えたミュンヘンの『南ドイツ新聞』は、「どんな権威に対しても強い自信と懐疑の念をもつ」というリベラルな姿勢を堅持し、各国に駐在する特派員には「本物であることが大切」として、「その国と人々についての知見と知識と経験を持っていること」が求められる(77 Jahre SZ: Das Wunder dieser Zeitung,5.10.2022)。同紙の東京特派員を30年近く務めたゲプハルト・ヒルシャーはよく知られている。私が「直言」でしばしば紹介するのは、現在の東京特派員トーマス・ハーン記者で、この記事は彼が担当したロングインタビューである。
連立23年の自信――自民党内の調整役?
ナショナリストの支配する自民党は憲法9条改正に熱意を示すが、その実現には公明党の承認が必要となる。その公明党はロシアのウクライナ侵攻後は態度を変えたのかという問題意識に立って、ハーン記者は、まず、公明党が「新宣言」(2006年)で「理念なき政治、哲学なき政治は混迷をもたらし、国を衰退させる」としているが、「どちらかというと非哲学的な日本政治のなかで、孤立感を感じないのか」という質問から始める。山口代表は慎重に言葉を選びながら、歴史的に見ると、戦後日本の安定した政党は3つしかなく、それは共産党と自民党と公明党であると、日本の記者にはおよそ語らないことをいう。「公明党は1964年、仏教から生まれた新宗教運動「創価学会」の当時の指導者、池田大作によって設立されました。私たちの政治的原理は、この組織の原理に由来しています。わが党の精神は、「大衆とともに語り、大衆とともに戦い、大衆の中に死んでいく」ことである。いわば、民主主義の基本精神を守るのです。」と、外国人記者に率直に語っている。
ハーン記者が日本政治の生々しい現実に触れ、連立参加に意欲的な「日本維新の会」に取って代わられる不安はないのかと突っ込む。山口代表はこの質問には直接答えずに、冷戦時代は日本の政治はどちらかというとリベラルで、当時は左翼政党が強かったこと、維新も今後どのように政策を変えていくか不明であることを指摘して、「一方で私たちは1999年から自民党と連立を組んでおり、他のどの政党よりも長い期間、連立を組んでいます。」と胸をはる。ハーンが自公の違いを指摘すると、山口代表は、自民党は多様で、穏健派から非常に右翼的な保守派までいて、公明党はその真ん中で両者を取り持ち、自民党との調整役を果たしていると語る。政治的スペクトル(配置)がかなり右にシフトしていることがわかる。
憲法9条改正と「敵基地攻撃能力」
ハーン記者が、2012年に安倍晋三第2次政権が誕生してから、自民党が著しく右傾化したことについて問題を感じなかったのかと迫ると、山口代表は、公明党は安倍の方に強く傾くのを反対方向に引き戻す役割を担っていたこと、自民党内の派閥間で行き詰まったときは仲介もやったと述べ、ある県知事の言葉として、「連立政権を車に例えると、自民党は強力なエンジンと車体、公明党はハンドルで、ブレーキとアクセルを操作して連立政権を正しい方向に導いている」と、自画自賛している。ハーン記者が、今後の連立政権の安全保障政策と憲法改正について質問すると、山口代表は、「日本の安全保障政策と憲法改正は切り離して考えなければなりません。第9条は、日本の自衛隊が、武力行使可能な海外での活動に参加しないことを確保している。いわゆる専守防衛の考え方です。公明党はこれを支持します。日本が軍事大国にならないように注意し、核兵器禁止の原則を守らなければなりません」と述べる。とはいえ、「日本が米国と同盟して自国を適切に保護できるように、憲法の下で自衛隊の出動可能性はいくらか拡大された」という。
ハーンが、「憲法改正は、日本の安全保障政策を変える前提ではないのですね」と聞くと、山口代表はこうかえす。「そうです。そして、はっきりさせなければならないことは、公明党は9条を守ろうとしていることです。もし、自民党が望むように、自衛隊のことを明確に条文化にしていたら、もはや自衛隊は防衛に限定されないと考えられるでしょう。日本は海外派遣を求められる可能性がある。例えば、アフガニスタンでは、NATO一員であるドイツが米国を援助しましたね。米国とは同盟国であっても、憲法で禁じられているので、ドイツのようなことはできないのです。私たちは、これからもそうであるべきだと考えています。」と。
ここでハーン記者が、「では、なぜ公明党は改憲勢力の一つにされているのでしょうか」と問うと、山口代表は、「自民党は今、憲法改正を実行に移せるようなムードを作っている。しかし、まだこの合意形成のプロセスを全く経ていない。自民党は今の憲法が悪いと思い、変えたいと思っている。私たち公明党は、良いものだと思っているので、修正したいだけなのです。つまり、私たちはすでに改正に賛成しているのですが、具体的に何を変えるかについては自民党と意見が一致していないのです。…合意の種すらありません。一定の方向に進むには、長い時間がかかると思います。」と述べて、世論調査で国民は、憲法改正よりも経済や社会保障に関心が高いと指摘する。
ハーン記者が、「右翼勢力が、憲法改正が迫っているような印象を与えているのに怒らないのか」と迫ると、「動揺しないように、いつも私の心に涼しい風を送り込んでいます」と、涼しい顔(おそらく)で答え、改憲状況について国会やメディア、過日の参院選について説明する。「国民の大多数は、日本の自衛隊が武装して外国に派遣されることを望んでいない。特に、第二次世界大戦では、中国や東南アジアに兵士を送り込み、多くの犠牲者を出した歴史があるから。日本には2つの原爆が投下され、多くの都市が爆撃されました。この歴史を二度と繰り返してはならない、そう人々は考えているのです。一方で、日本はアメリカとの同盟関係の中で、きちんとした役割を果たす必要があります。この20年で、中国と北朝鮮は劇的に軍拡をしてきました。アンバランスにならないように気をつけなければなりません」。
記者が、「法律上、日本はミサイルを保有できるのか、あるいは敵基地攻撃能力を導入して、緊急時には敵の司令部を攻撃することも許されるのか」と昨今の議論について切り込むと、山口代表は、「現在も議論が続いているが、憲法改正の必要性はないと思う。北朝鮮、中国、ロシアに対しては、もはや我が国の自衛力は十分ではありません。これは私たちの生命を危険にさらします。自国を攻撃するために発射されたミサイルを撃ち落とせば、それは防禦となります」と答えるにとどまった。ハーン記者が戦後補償問題について質問すると、「当時の軍国主義的な日本の行動により、多くの犠牲者を出した中国や韓国の人々の懸念は理解できます。だからこそ、公明党は9条の平和主義を貫くことが重要だと考えているのです。日本の中国への賠償は1972年、韓国への賠償は1965年、いずれも二国間で解決されています」との立場から、「とはいえ、痛みはなかなか癒えない。日本はこれらの悔恨を忘れることなく、人類の平和と繁栄に貢献する国づくりに励まなければならない。それが私たちの意見です。」と結ぶ。
政権のハンドルでもブレーキでもなく
ロングインタビューなので、やや冗漫になったが、ドイツ人読者を意識した説明の部分は興味深い。
安倍内閣による「7.1閣議決定」(2014年)や安全保障関連法(2015年)をめぐって、公明党は、ストッパーの役回りを支持者に見せようと懸命になっていた。しかし、安倍の暴走を止めることはしなかった。直言「公明党の「転進」を問う」では、公明党がもはや「平和の党」を自称できないところまできたことを厳しく指摘した。与党協議の当初は、公明党の原則的な態度に期待する向きもあったが、「新3要件」を自民と「合作」で作り上げ、集団的自衛権行使の合憲解釈への道を掃き清めたことは否定できない。ロングインタビューで山口代表が述べた「公明党はハンドルで、ブレーキとアクセルを操作して連立政権を正しい方向に導いている」には、“?”がいくつもつく。23年もの間、自民党政治を支え、国民の批判を多少なりとも緩和することに貢献したにすぎないように思う。
統一教会問題と公明党・創価学会
「7.8事件」によって、統一教会(現・世界平和統一家庭連合)と自民党との関係をめぐる「不都合な真実」が一気に表面化した。日本テレビ系のワイドショーでも、連日取り上げられている。統一教会を宗教法人法81条に基づいて解散させるべきだという議論も急速に高まっている。
山口代表は、統一教会と政治との関係について、「これは政治と宗教一般の問題ではない。旧統一教会は霊感商法や多額の寄付の強要とかトラブルを数多く抱えている。社会的なトラブルを抱えている団体と政治家との関わりが問題だ。ただ、健全な民主主義のプロセスを経て、政治活動や政治参加をしている宗教団体は数多くあり、それを政治と宗教一般の問題と捉えることは本質を誤るので、きちんと分けて冷静に議論することが大切だ」と述べている(NHK「公明党 山口代表を直撃―自公の関係は 旧統一教会は」(NHK2022年10月6日)。以下では、公明党と創価学会とをめぐるかつての議論を概観しておく。。
1964年発足した公明党は、1993年の非自民連立政権に参加した際、支持団体の創価学会との関係をめぐって、野党になった自民党から政治と宗教に関する問題でかなり厳しい追及を受けた。実現はしなかったが、池田大作・創価学会名誉会長の国会招致問題にまで発展した。
当時、公明党批判の急先鋒だったのは、安倍晋三である。安倍は、公明党と創価学会の関係が憲法の政教分離の原則に反すると主張する「憲法20条を考える会」(自民党有志議員)の設立メンバーにも名を連ねていた(以下の叙述は、直言「憲法が「根底からくつがえされる」――正念場の公明党」参照)。創価学会・公明党批判には、25年前の菅義偉も参戦していた。この「直言」で紹介しているが、衆院決算委員会において、「巨大な宗教団体であります創価学会、私は、この団体はまさに政教一致の団体そのものである、こう考えておるものであります。…(創価学会の)内部資料…はまさにこの政教一致を裏づけるものなんです」と舌鋒鋭く追及している。今は昔である。
また、1988年に衆議院議員の大橋敏雄は、公明党所属にもかかわらず、池田大作名誉会長(当時)による学会の支配・私物化などを批判している。「宗教法人「創価学会」の運営等に関する質問主意書」(昭和63年9月2日提出、質問第10号)は、かなり徹底したものである。そのなかでは、「学会による巨額な寄付金集め」もこう追及している。
「…学会の寄付金集めは、近年過激なものとなつている。「信心の歓喜と感謝の思いをこめた財務」、「財務は御供養の精神に通じる」、「先生(名誉会長)の大きな世界広布構想のもとに世界的規模で広がりつつある広宣流布を財務がどれだけ支えているのか認識を深めよう」等々と煽り、毎年巨額の寄付金を集めているが、これらはいわば寄付の強要ではないかとの声があがつている。こうした寄付金集めの実態は、寄付をめぐつて夫婦の意見が対立し、遂に別居や離婚という家庭崩壊現象が起こつたり、また生活保護世帯や老齢者、身体障害者等の会員の中には生活苦に陥り、あるいは公営住宅でささやかな生活をしていた人が夜逃げしたなどという例もある。…」
いま問題になっている統一教会の「過度な献金」や家庭崩壊などと重なるものがある。なお、この質問主意書に対する「答弁第10号」(昭和63年9月13日、内閣質第113第10号)では、この論点については、「信者による寄附金の拠出は、信者の信仰にかかわるものである限り、宗教法人が自主的に決定する問題であると考える。」というシンプルなもの。ちなみに、大橋は、『文藝春秋』(1988年5月)に「池田大作への宣戦布告」を公表して、別件で公明党を除名されている。
もっとも、背後には、次のような問題状況があったことも想起されなければならない。すなわち、戦中、治安維持法により壊滅的打撃を受けた創価学会が、戦後、組織再建と拡大を目指して、戸田城聖(創価学会2代会長)の指揮のもと、信者獲得や資金集めに躍起になり、その強引さによる社会問題化の記憶が色濃く残っていたという時代背景である(「折伏大行進」と呼ばれた)。また、発足当時の公明党は、党綱領に「王仏冥合」といった教義上の用語が見られるなど、創価学会との距離感が折に触れて問題視されてきた。
以上の状況を踏まえて、創価学会と公明党の関係については、自民党が折に触れて追及してきた。だが、それは、1999年10月に終わりを迎えた。自公連立政権の誕生である。自民党候補への創価学会からの支持票を期待して、公明党の政教分離原則違反などの議論は封じられた。その過程で公明党の側は、創価学会との組織上・人事上の分離を明確に宣言し、党綱領から教義的な表現を一掃するなどの対応を取ってきた。創価学会も、都市部を中心に大規模かつ強引な信者獲得活動を展開していた頃に比べ、その活動熱は幾分穏健化しているようにも見える。
今般の統一教会問題が展開するなかで、自民党は統一教会との「関係を完全に絶つ」と表明している。だとすれば、創価学会員からの支援についてもハードルが高くなるだろう。また、政治と宗教の問題は、センシティブかつセンセーショナルな問題であるがゆえに、時に誰もが冷静さを欠く恐れがあることに注意しながら、創価学会と公明党を含め、政治と宗教の問題については、近年の動向や研究を踏まえた学術的かつ冷静な批判的検証が引き続き必要であろう。
いずれにしても、これからの国政選挙では、自民党は楽々当選とはいかなくなった。 「黄金の3年」も幻想になろうとしている。岸田文雄内閣の総辞職、場合によっては衆議院解散もあり得る。その時、野党がバラバラで対応して、有権者にきちんとした選択肢を提示できなければ、その横から、今まで考えなかったような「政党」が割って入るかもしれない。 憲法をないがしろにする「立憲主義からの逃走」はとっくに始まっている。イタリアでムッソリーニを肯定する首相をいただく政権が誕生することは、ヨーロッパがさらに困難な状況になる兆候といえるかもしれない。
【文中一部敬称略】