「イスラエル-ガザ戦争」――第4次中東戦争から50年
50年前の1973年10月6日(土)、エジプトとシリアなどがイスラエルに電撃侵攻して、第4次中東戦争が始まった。ユダヤ教の安息日は土曜日。しかもユダヤ人にとって最も重要な宗教上の祝日「ヨム・キプール」(贖罪の日)が10月6日のため、イスラエル軍は不意を衝かれた形になった。その50周年にあたる2023年10月6日は金曜日なので、翌7日の土曜日の早朝、ガザ地区を支配するスンニ派イスラム原理主義ハマス(HAMAS)が、イスラエルに対する大規模なロケット弾攻撃を開始し、同時に国境のフェンスを破壊して特殊部隊を侵入させた。イスラエルはこの攻撃を「全く予期しなかった」とされている。
米国の政治アナリスト、アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)はこの攻撃について10の教訓を挙げているが、そのうち、①「イスラエルは無敵」は幻想だったこと、②ハマスのハイブリッド戦争戦術にイスラエルはまったく備えていなかったこと、③政治的内紛(強引な司法改革に対する国民の反発)がインテリジェンスの失敗につながった可能性が高いこと、④米国の諜報機関がウクライナに集中していたため助けにならなかったこと、の4点が重要だろう(憲法研究者の私としては、③について特に後述する)。
イスラエルにとってこれは「不意打ち」だったのか。「ネタニヤフ[首相]は、ハマスに侵攻させ、人質を取られることで、わざとイスラエルを弱い立場に追い込み、アラブ諸国や中露の仲裁で、ハマスやヒズボラ、イランと和解せざるを得ない状況を作っているのでないか」(田中宇「イスラエルとハマス戦争の裏読み」10月11日)という見方もあるが、何ともいえない。
中東における問題については、カタールの「アルジャジーラ」(AlJazeera)に、1991年の湾岸戦争以来注目しており、平日朝7時のNHKのBS「ワールドニュース」も欠かさず見ている。ホームページの項目タイトルに「イスラエル-ガザ戦争」(Israel-Gaza war)を使い始めたので、「直言」でも括弧を付けてそのように呼ぶことにする。10月11日付に「分析:なぜハマスは今、攻撃したのか、そして次に何が?」がある。これによれば、ハマスの動きは3つの要因によって引き起こされたという。①極右のイスラエル政府がヨルダン川西岸とエルサレムで入植者の暴力を容認する政策をとったことで、パレスチナ人の間に絶望感が広がり、反撃への要求が高まったこと、同時に、こうした政策によってヨルダン川西岸で緊張が高まったため、入植地を警備するイスラエル軍を南部から北部にシフトさせることになり、これがハマスに攻撃の正当化と機会を与えたこと、②アラブとイスラエルの正常化が加速しているため、ハマス指導部は行動を起こさざるを得ないと感じたこと、③ハマスがイランとの関係修復に成功したことで、ハマスが強化されたこと、である。ガザ地区に対するイスラエルの攻囲戦略が強化されてガザの状況が極端に悪化したことから、対外的な事情を加味して、この時期、このタイミングでの奇襲攻撃となったと見られている。
地図から見えるもの――「恒常的緊急事態」国家による戦争
ただ、ここまで書いてきて虚しい気持ちになった。どのような分析が正しかろうと、これからたくさんの人が確実に死んでいく(殺されていく)。テレビでは、ウクライナに続いて、ここでも戦況評論家たちが、リアルポリティクスや表面的な軍事力学で嬉々として解説している。筆がなかなか進まないときにふと気づいたのは、4年前にイスラエルとパレスチナ自治区の訪問記を書いてもらったゼミ22期生のマハール有仁州君のことである(現在、全国紙の記者)。直言「激動のイスラエルとパレスチナを行く――ゼミ生の取材記(1)」と直言「激動のイスラエルとパレスチナを行く――ゼミ生の取材記(2–完)」を、この機会にぜひお読みいただきたい。私も再読して、さまざまなことを気づかせてもらった。
彼から4年ほど前にお土産としてもらっていた地図のことも思い出した。書斎の奥に横にして貼ってあったので忘れていたのだが、それを昨夜、床に広げて正面からスマホで撮影したのが、冒頭左の写真である。タイトルは、『1948年のパレスチナの地図 帰還は人民の権利であり意志である』。マハール君は、2018年12月下旬にパレスチナ自治政府の難民省(ヨルダン川西岸地区ラマッラ(Ramallah)所在) を訪れてこの地図をもらった際、1948年5月14日のイスラエル建国(パレスチナ側ではナクバ(大厄災)と呼ばれる)によって追い出されたパレスチナ人たちの居住地の場所が記されているとの説明を職員から受けたという。“RETURN”という英語が印象的である。この一つひとつの印のところにパレスチナの人々が「リターン」すれば、イスラエルは消滅する。つまりイスラエルという国は、この地図が示しているように、パレスチナの人々を追放し、土地強奪を大規模に行なって、そこに、新たに入植してきたユダヤ人が新しい街を建設していった結果である。マハール君は「直言」で書いている。「シオニズムという排外的植民地主義的思想が国家の根幹にある」と。イスラエルの建国そのものがパレスチナの人々にとっては「大厄災」(ナクバ)なのである。
それゆえに、またそれゆえにこそ、イスラエルは、その存在そのものからして「恒常的緊急事態」の国家とならざるを得なかった。欧米や日本では、緊急事態法制の議論において、緊急事態の終了の設定が甘かったり、議会統制がゆるく濫用の危険が高かったり、基本権が長期的に侵害されるような場合の批判の切り口として、この言葉が用いられることがある。書物の形でこれを明確にしたのは、(西)ドイツ基本法に緊急事態条項を導入する初期段階で出版された、憲法学者ヘルムート・リッダー(ドイツ大統領シュタインマイヤーの指導教授 )のDer permanente Notstand,1963であった。リッダーは、「平時の法」と「戦時の法」との区別を重視した。緊急事態法制の設計次第でこの限界が曖昧になり、自由は、戦争がそれを脅かす前に放棄され得るという視点を明確にしている(S.5)。この視点は、「9.11」後の「テロとの戦い」を正当化する憲法的言説として用いられるようになる(最近の若手の議論が「憲法ブログ」で行なわれている。例えば、Vgl.Emre Turkut,Der 11. September und die drei Arten des permanenten Ausnahmezustands参照)。そして、どの論者にも共通の認識としてあるのは、世界でもっとも強烈な「恒常的緊急事態(戦時)」国家はイスラエルであるということである。
そのため、建国以来、「イスラエル-パレスチナ紛争」は続いており、この歴史的視点なくして、現在の「イスラエル-ガザ戦争」を語ることはできないだろう(歴史的展開については、『アルジャジーラ』スタッフがまとめたsimple guide(10月9日付) が便利)。冒頭左の写真の地図から見えてくる、両者の非和解的な矛盾ゆえに、イスラエルは度重なる国連の非難決議にもかかわらず、パレスチナの人々に対して重大な侵害行為を行なってきたのである。それは「恒常的緊急事態(戦時)」国家の本性に近い。だが、それではあまりに悲惨である。だから、他方で、イスラエルとパレスチナとのこの非和解的な矛盾を克服すべく、さまざまな努力が重ねられてきたことも見落としてはならないだろう。とりわけ重要なのは、1993年9月13日の「オスロ合意」である。パレスチナ側は穏健派PLOのアラファト議長、イスラエルはラビン首相(労働党)、ペレス外相が、ノルウェー外相の仲介で「パレスチナ暫定自治に関する原則宣言」に調印した。イスラエルとパレスチナが共存する道が模索されていく。だが、その後、再びそれが危うくされてきたのである。最大の発火点がガザ地区である。先月、9月13日は「オスロ合意」30周年だったが、イスラエル建国75周年の年に、50年前の第4次中東戦争以来の大規模な「イスラエル-ガザ戦争」が始まり、最悪の状況に陥っている。
ハマスを第1党にしたために
福岡市とほぼ同じ面積に220万人以上が暮らすガザ地区。子どもの割合も、人口密度も高い。イスラエルによる兵糧攻め的な攻囲政策により、子どもたちの状況はきわめて悪化していた(子どもの権利保護を訴えるNGO 報告書参照(AFPニュース2022年6月16日))。
ガザ地区の状況が深刻化する最大の原因は、2006年1月、ガザ地区の自治選挙において、ハマスがPLO主流派のファタハにとってかわって、第1党となったことであろう。ヨルダン川西岸地区では穏健なファタハが、ガザ地区では過激なハマスがそれぞれ統治するという構図である。ハマスはイスラエルを消滅させて、イスラム国家の樹立を目指している。その明確な主張が若者を中心に支持を広げたが、イスラエルは2007年以降、ガザ地区に対して徹底した攻囲戦(兵糧攻め)に打って出る。ガザ地区の不幸は、現状への不満から、ハマスを第1党にしてしまったところにある。
ガザはスターリングラードに似ている?
「ガザ戦争」とスターリングラードの戦いの共通性が言及されている。スイスの軍事専門家アルベルト・シュターヘルは、市街戦に発展すれば重戦車は有効ではなく、ハマスの防御罠や待ち伏せ攻撃によって泥沼にはまる可能性があり、これはスターリングラードの戦いを想起させると指摘している(Stalingrad in Gaza-Stadt )。オーストリアの対外政策専門記者ヴィーラント・シュナイダーも、ガザはスターリングラードになると論じている(Die Presse vom 11.10.2023 )。徹底した市街戦になるという点では共通点もあるが、歴史状況はまったく異なり、対比する意味があるのか疑問である。いずれにせよ、市民を巻き込んだ長期にわたる市街戦がこれから始まることが危惧される。
イスラエルは10月13日、110万人のガザ地区住民に対して、地区の南部に24時間以内に「避難」することを求めるビラ(「伝単」)を空から撒いた。ハマスは住民が避難しないように「人質」にしようとしているという報道もある(上記のDie Welt vom 14.10.2023)。
この原稿を書いている間にもイスラエルがガザ地区を地上から攻撃して、市民を巻き込む市街戦が始まろうとしている(米国の政治学者イアン・ブレマーは、ガザ地区を二分する「二段階戦術」を想定する(Courrier Japon10月12日付)。
「ホロコースト」、「人畜」(human animals)、「テロ」…
中東に関心がなかった人々も、ハマスによるこれまでにない規模でのイスラエル人殺害に対して、「テロリストによる殺戮」という形で一致して非難している。子どもを含む民間人の大量殺戮はかつてない数字で、イスラエルでは「短期間でのユダヤ人の殺害はホロコースト以来だ」という言説が飛び交っている。「失言」で知られるバイデン大統領も、「ユダヤ人にとってホロコースト以来、最も過酷な日だったのではないか」という表現を使ってしまった(TBS10月12日)。確かにハマスはイスラエルの一般市民を短期間にかつてない規模で殺害した。だが、冒頭右の写真をご覧いただきたい。国連のデータに基づく、2008年以降のパレスチナとイスラエルの死傷者数である(Statista,May 12, 2021。犠牲者は圧倒的にガザ地区のパレスチナ人の方が多い。10月7日から数日で、イスラエルが4桁の犠牲者を出したことを書き込めば、グラフの一番下はイスラエルが一時的に飛び抜けて多くなるだろう。しかし、その後の報復攻撃により、ガザ地区での犠牲者は急増している。
日本のメディアは「双方の死者が○○○○人を超えています」と報じることでそのあたりを曖昧にしている。ハマスの今回の攻撃方法が国際的な非難を浴びるのは当然であるが、これから始まる地上戦によってどれだけの命が奪われるかを考えると、慄然たる思いがする。
そうしたなか、イスラエルのヨアヴ・ギャラント国防大臣(左の写真)は、「ガザ地区の完全な包囲」を命じ、「電気も食料も燃料も水もない」状況を作り出していることを説明した上で、「我々は人畜(human animals)と戦っており、そういう認識で行動している」という驚くべき言葉を発した。ナチスがユダヤ人やロマなど非アーリアを「劣等人種」(Untermensch)と呼び、その排除を「最終解決」の目的としたことは周知の通りである。ユダヤ人抹殺を狙ったナチスの発想と同じになっているという皮肉である。
米国の国際問題専門記者アリス・スペリの論稿「イスラエルはハマスの犯罪に対応するため、ガザでの大規模な戦争犯罪を命じた」は重要な視点を含む(The Intercept 9.10.2023 )。ハマスとイスラエルが行なった民間人殺害は、ともに戦争犯罪であるという視点を明確に打ち出して、次のようにいう。
「両者とも凶悪な犯罪を行なったが、ガザを完全に包囲しようとするギャラン[国防大臣]の呼びかけは、根本的な不均衡を明らかにした。 ハマスの攻撃はイスラエル国民と世界に衝撃を与え、過去50年間で最も深刻なイスラエルへの攻撃となったが、200万人の閉じ込められた市民を飢餓に陥れるというギャラントの脅しとは比較にならない。メディア評論家のサナ・サイードは月曜日、「だからこそ、これは決して対等な『戦争』ではなかったし、これからもそうなることはないだろう」と指摘した。「なぜなら、一方が全住民を完全に抹殺し、生死を支配する力を持っているからだ」と。
なお、英国BBCは、ハマスを「テロリスト」と呼ばない編集方針を決めた(Wedge ONLINE 2023年10月12日)。「誰かをテロリストと呼ぶことは、どちらかの味方をすることであり、状況を公平中立に扱うことをやめることである」「我々は何が起こったかを説明することで、視聴者にその行為の全容を伝えるべきだ」「『爆破犯』、『襲撃者』、『銃撃者』、『誘拐犯』、『反乱者』、『戦闘員』など、加害者を具体的に説明する言葉を使うべきだ」「我々には、客観性を保ち、誰が誰に対して何をしているのか、視聴者が自分で判断できるように報道する責任がある」と。メディアとしてきわめて冷静な姿勢だろう。
「紛争激化の全責任はイスラエルの占領政策にある」(カタール外務省)
イスラエルは、ガザ地区のハマス、レバノン国境北部のヒズボラ、そしてヨルダン川西岸地区のパレスチナ人との戦いという、2正面、ないし3正面の敵と対面している。このままいけば、「イスラエル-ガザ戦争」は中東全域に波及する大中東戦争になりかねない。ここで、カタール外務省が出した声明(10月7日) に注目したい(写真は同外務省のツイッター(現X)) 。「紛争激化の全責任はイスラエルの占領政策にある」という立場を鮮明にして、こう続ける。「パレスチナ人が持つ権利の継続的な侵害、最近ではイスラエル警察の制圧下に置かれた聖なるアル・アクサ・モスクへの度重なる襲撃によって発生したエスカレーションの責任はイスラエルにある」と。
またトルコのエルドアン大統領は、イスラエルによるガザの封鎖と執拗な攻撃は、ハマスの攻撃に対する「不釣り合いな対応」(disproportionate response)であると述べ、ガザ包囲と空爆を「虐殺」(massacre)と呼ぶ(『アルジャジーラ』10月11日付)。
イスラエルにおける立憲民主主義を求めるたたかい
ここまで書いてくると、「ウクライナ戦争」についての私の立場を「親ロシア派」とか「どっちもどっち派」という人たちは、今度は「親パレスチナ派」ないし「どっちもどっち派」に私を分類するかもしれない。だが、この問題では、これから始まろうとしているガザ侵攻こそ、ウクライナ侵攻と同様に非難すべきだという立場を明確にしたい。前述した「不釣り合いな対応」を超えて、ガザ地区の民間人の命と生活に対する一方的な破壊行為となるだろう。そこで指摘したいのは、今年の1月以降のイスラエルにおける、立憲主義と民主主義を求める市民の大きな動きのことである。
昨年11月1日のイスラエル総選挙で、ネタニヤフ元首相が返り咲きを果たすために、極右「宗教シオニズム」の支援を受けた(BBC2022年11月1日)。「イスラエル建国以来最も右寄り」のこの政権は、今年1月、乱暴な「司法改革」の方針を打ち出した。裁判官を任命する委員会に対して、政府が決定的な権限を確保する。また、政権が進める法案が成立すれば、最高裁の判断を議会が単純過半数で否決できる。裁判所が首相を職務不適格で解任しにくくする等々、まさに司法の独立を損なう、立憲主義の危機が起きていた。「恒常的緊急事態」の国家とはいえ、野党も市民運動もあり、多数の市民が立憲主義のまっとうな主張、すなわち司法の独立を守れと立ち上がったのである。法案の採決直前には35万人のデモが行なわれた。デモのプラカードは象徴的である(右上の写真参照)。「反民主主義の枢軸」としてプーチンやハンガリー首相などと並んで、新顔としてネタニヤフ首相の顔がある。
注目されるのは、国家機関内部からネタニヤフ首相の強引な「司法改革」に反対の声が高まったことである。イスラエル国防軍の精鋭部隊をはじめ、国内のあらゆる方面から怒りと非難が噴出したという(BBC2023年3月28日)。法案が発表されると情報機関(モサド)の元長官らまでが「独裁国家になる」と反発し、予備役兵らが任務拒否を訴え、採決直前には抗議デモにも参加した。7月24日の法案成立後の世論調査では28%が国外移住を検討中と答えるなど国民の分断は深刻化しているという。最高裁が審査権を失い、入植地拡大への歯止めが失われれば、占領地のパレスチナ住民との衝突が激化し、湾岸諸国との関係改善は滞りかねないともいわれていた(BBC2023年7月25日)。
最高裁が、極右の不法入植地に撤去を命じたり、宗教シオニズムの超正統派の宗教学校の学生への兵役義務免除について無効とする判決を出したりしたため、ネタニヤフ首相が極右や宗教シオニズムの連立与党の意見を入れて、最高裁の権限を弱めようとしたのではないかという点である(BBC 2023年7月25日)。政権発足後に最初に取り組んだのが「司法改革」だった理由も見えてくる。そうすると、入植地拡大を掲げる極右に忖度して、首相がガザ地区への攻囲を強化していったことも理解できる。情報機関の元長官なども反対したということだと、前述した、なぜハマスが奇襲に成功したのかについてのアンドリュー・コリブコの分析の③の理由が理解できるのではないか。
立憲主義のために立ち上がったイスラエル市民がいる。その市民をハマスは多数殺害した。これによって、ネタニヤフ政権は国内的な批判を棚上げして、挙国一致内閣をつくり、自らへの批判を実質的に封じることに成功したのである。ネタニヤフの政治的ピンチから救ったのは、皮肉にもハマスということになる。他方、ガザ地区の選挙で2006年にハマスが多数を占めたために、攻囲が強化されていった。いずれにおいても、選挙の結果が重要である。宗教シオニズム派の影響の強いネタニヤフ政権と、イスラム国家をめざす強硬派のハマスが勝利したことがすべての不幸の背景にある。
イスラエル非難は反ユダヤ主義か
パレスチナに対するイスラエル政権の強引な政策に対しても、ドイツは批判しづらい。イスラエル批判は反ユダヤ主義と非難される傾きにあるからである。親パレスチナ団体の活動を禁止する動きも出ている。実際、10月14日にケルン警察が親パレスチナのデモを禁止したが、主催者がその処分を取り消すよう求めたところ、ケルン行政裁判所はデモ禁止を取り消す仮命令を出した。親イスラエルのデモと同じ広場で対峙することも起きている(General Anzeiger(Bonn) vom 14.10.2023 )。
ドイツの保守系紙Die Welt(デジタル版)の10月13日は、「(ドイツ)連邦共和国の自己理解のテストケース」という見出しで、ショルツ首相をはじめ、議会のほとんどの会派が「イスラエルの安全保障はドイツの国家理性(Staatsräson)」という言葉を繰り返している。この言葉はすでに2008年にメルケル首相(当時)がイスラエル議会の演説の際に使った言葉である。2001年の「9.11」の際に、シュレーダー首相(当時)がワシントンで「限りなき連帯」を語ったときよりも強い。
イスラエルにガザ地区への全面攻撃をさせてはならない。イスラエルの民間人を多数殺害したハマスは、「ガザ地区の住民を人質にして」戦おうとしている。これ以上の殺戮を止めるために、少なくともイスラエルへの支持はしないということが大切だろう。これは親ハマスでは断じてない。