「日本を取り戻す。」自民党のブーメラン?――キックバックも大麻も「文化」か
2023年12月25日

安倍派「粛清」?

日、1226日、「日本を取り戻す。」というスローガンを掲げた第2次安倍晋三政権が発足してちょうど11年になる。昨年は、直言「「壊された10年」2次安倍晋三内閣発足の日に」をアップして、「「某霊」が永田町を徘徊している」という視点で、最大派閥の安倍派に支えられた岸田文雄政権は「完全にこの呪縛霊と地縛霊に憑依されたかのごとくである」と書いた。この1年間に「直言」を52本アップしたが、その半数以上は岸田政権の危うい政治に対する批判だった。経済・社会政策から「少子化対策」外交・安全保障に至るまで、岸田が打ち出す政策・施策はことごとくズレまくり、国民の反発が非常に強く、内閣支持率は20%を切るところまで落ちている。反面、岸田には安倍派から徐々に距離をとろうとする傾きも見られる。12月に入ってその流れは一気に加速した。安倍派の政治資金規正法違反が連日報道され、ついに安倍派事務所に対する東京地検特捜部の家宅捜索も行なわれた(1219日)。「徐霊」の先頭に特捜検察が立っている。ほぼ同時刻に二階派事務所にも捜索が行なわれたが、これは煙幕だろう。岸田は安倍派の閣僚を更迭し、党役員も辞任させておきながら、二階派の法務大臣を残すという不自然な人事をやった。これは検察庁法14条(指揮権発動)を意識させながら、これを決して使わないというメッセージだろう。

3年ほど前、安倍政権は、黒川弘務東京高検検事長の定年延長を行なって検事総長に据えようとした(令和2131日閣議決定・人事)。政権に逆らわない「忖度検察」にすべく、検察庁法22条や国家公務員法81条の3に無理筋の解釈を加え、国民の反発をかった(直言「検察官の定年延長問題」)。人事への露骨な介入に対する検察の恨みは深い。全国から応援の検事を加えて、徹底した捜査が行なわれている。 


「アベランド」の11年間――壊されたもの

安倍晋三存命中は検察、警察、国税、「マトリ」などが機能不全を起こしていた。この国はまさに「アベランド」になっていた(直言「「アベランド」―「神風」と「魔法」の王国」参照)。冒頭の写真は2012年総選挙のときの自民党総合政策集だが、その右下に『安倍時代における日本』(Japan in der Ära Abe, 2017)というドイツ語の本の表紙が見える。その真ん中あたりに、王冠をかぶった安倍の顔と“ABELAND(アベランド・安倍の国)という文字がある。その下には“PILFER”(こそ泥)という文字が見える。この表紙の絵は、201511月に渋谷区原宿の通りにあったもので、編者の一人が撮影したらしい(S.4)

冒頭2枚目の写真は、2009830日の総選挙投票日に自民党が主要各紙に出した意見広告である。政権交代を何としても阻止しようと、「日本経済を壊すな」「日教組に子供たちの将来を任せてはいけない」という絶叫調で、麻生太郎政権の末期症状を示していた。その後「日本を取り戻す。」というスローガンを掲げて誕生した第2次安倍政権によって、日本は本当に壊されてしまった。

象徴的な例として、「モリ」こと森友学園問題(直言「「構造的忖度」と「構造的口利き」」参照)、「カケ」こと加計学園問題(直言「「ゆがめられた行政」の現場へ」参照)、「ヤマ」こと安倍御用記者・山口敬之逮捕状執行停止問題(直言「「反社勢力」に乗っ取られた日本」)、「アサ」こと安倍昭恵の「大麻疑惑」問題、「サクラ」こと「桜を見る会」問題(直言「安倍政権の滅びへの綻び」参照)、「クロケン」「コロナ」「アンリ」の問題と続く。なお、「アンリ」の参院選広島選挙区買収事件の原資に、今回の「闇金」が使われた疑いも浮上している。闇金で買収。悪行の連鎖である。

「日本を取り戻す。」という意味不明のスローガンに乗って政権を奪取した安倍晋三。翌年には「ねじれ解消」というミスリーディングなスローガンによって参議院でも多数を占めて「安倍一強政治」が始まった。「無知の無知の突破力」が歴代首相にない官邸への権力集中をもたらした。政権発足6年の時点で、直言「安倍政権の「影と闇」」を出して「アベなるもの」(Das Abe)は「光と影」などという二分法で論じることは不可能であると述べた。統一教会との融合・癒着の関係も、安倍派の前の細田派トップが「大昔から」といっている以上、相当根深い(直言「統一教会との関係は「大昔から」―最高機関の最低議長」および「統一教会の家族観に「お墨付き」―安倍晋三の置き土産」参照)。


自民党の政治文化――裏金キックバックも大麻も…

1214日に総務大臣を辞任した鈴木淳司は、安倍派の政治資金パーティーをめぐる裏金疑惑を受けて、キックバック(資金還流)は「政治の世界では文化」とまで述べた(『毎日新聞』1215日付)。語るに落ちるとはこのことをいう。安倍政権下で権力の私物化は底が抜けた状態が続いていたが、その亜流政権2代でもさらに進化と深化を続けている。「ルールを守らない」「責任をとらない」「自分たちだけは特別」という奢りのメンタリティはしっかり定着した。今回、検察はそこを突いてきた。政治資金面で地道に告発し続けてきた憲法研究者の努力が実を結んだといえるだろう(上脇博之『なぜ「政治とカネ」を告発し続けるのか――議会制民主主義の実現を求めて』日本機関紙出版センター、2023)。

怪しい「文化」はまだまだある。首相夫人だった安倍昭恵。閣議決定(答弁書)で「私人」と認定しておきながら、「公人」性を存分に使って、安倍政権の権力私物化に関与してきた。森友学園問題では昭恵の関与を隠蔽するため、公文書改ざんが行なわれ、財務省職員の赤木俊夫さんの命を奪っている(直言「公文書改ざん事件と「赤木ファイル」」参照)。その一方で、この元首相夫人は「『日本を取り戻す』ことは『大麻を取り戻す』ことだと思っています」とはっきり語り、「大麻で町おこし」の活動を行なってきたのである(直言「魚と政権は頭から腐る―隠蔽・改ざんから麻薬汚染まで」参照)。だが、厚生労働省は201611月発行のパンフレット『大麻栽培でまちおこし!?』で警告を発してきた。大麻使用罪も新設されて大麻への厳しい姿勢が明確になってきた今こそ、権力私物化の背後で行なわれていた闇と影を明るみに出すべきではないか。厚生労働省麻薬取締部(「マトリ」)も、「忖度」を払拭して、本来の職務を推敲すべき「とき」である。違法な闇金も大麻も…。永田町の政治文化の「豊かさ」に改めて驚かされる。

 

安倍+α政権の泥棒政治(クレプトクラシー)

安倍のあとを引き継いだ菅義偉の政権は長続きしなかったが、安倍=菅の8年間を、直言「「権威主義的立憲主義」の諸相安倍・菅政権はクレプトクラシー(泥棒政治)」で総括した。その本質は「泥棒政治」(kleptocracy)である。詳しくは、上記「直言」で紹介した塩原俊彦「「クレプトクラート=泥棒政治家」と安倍首相」(Webronza 2019129)を参照されたい。

岸田政権の22カ月もその延長線にあり、「泥棒政治」に変わりないし、憲法スルーの「ステルス戦法」によって、より巧妙かつ狡猾な「泥棒政治」に「進化」しているといえるかもしれない。『週刊ポスト』20231222日号が「安倍派強盗団」と書いたが、いい得て妙である。これは政治学用語の「クレプトクラート」(泥棒政治家)の別表現であって、言い過ぎとはいえないだろう。ただ、泥棒の窃盗よりも、「暴行または脅迫」を要件とする強盗の方が強い。1216日のTBS「報道特集」で、パーティー券を押しつけられた企業の関係者がこれを「みかじめ料」と呼んでいたのは象徴的である。

というわけで、2023年最後の「直言」は、「泥棒政治」を振り返るにとどまり、来年への展望を出すことなく終わることになるが、かすかな希望があるとすれば、政治の腐敗と堕落について国民の認識が高まり、それが内閣支持率に反映していることだろう。「忖度」文化を一掃して、一人ひとりが自らの判断で発言し、行動する。そういう流れが政治や社会を変えていく。来年はそれを期待したいと思う。1年間お読みいただいて、どうもありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。

【文中敬称略】


トップページへ