「台湾有事」を煽る人々
臨時国会が始まった。石破茂首相の所信表明演説は、石橋湛山に始まり、湛山に終わるという構成だった。重要政策課題の一つである外交・安全保障政策では、「台湾有事」に関連する記述は見られなかった。日本周辺での中国空母の動きなどへの指摘はあるものの、中国との「建設的でかつ安定的な関係」の構築などにも言及していた。
元首相たち(安倍晋三や麻生太郎)は「台湾有事=日本有事」といって、「抑止力を使う」「戦う覚悟」などと盛んに煽っていた。台湾をめぐる軍事的緊張は存在するし、中国側も、もし台湾が独立に向かえばそこに介入するという意図は否定していない。しかし、それを差し迫った危機のように捉えるかどうかは、米国や日本、そして台湾の政権のありようによっても変化することを見なければならないだろう。実際、石破政権の外相は、「「台湾有事」など軽々に言うべきではない」という立場の人物である。
2022年8月のペロシ米下院議長(当時)訪台をきっかけとして、中国は弾道ミサイル発射を含む大規模軍事演習を行っている。台湾海峡の中間線を越えて中国軍機や艦艇が進出。台北上空を超えてミサイルが発射された。
2024年1月13日の台湾総統選挙で民進党の頼清徳が当選すると、中国の台湾に対する姿勢はより硬化していく。10月10日の「双十節」(台湾当局が「建国記念日」とする日)を前に、頼総統は、「中華人民共和国は中華民国の人々の祖国には絶対になりえない」述べた。中国はこれを「台湾独立」の立場の表明として強く反発した。
10月23日、中国は、台湾の周辺海域で軍事演習を行った(下記の写真参照)。陸海空軍、ロケット軍を動員。台湾本島や台湾が実効支配する金門島などを包囲するように実施された。演習の目的を、「台湾独立勢力に対する懲戒と外部勢力の干渉に対する厳重な警告」と位置づけた。
では、中国は本気で台湾に侵攻するのか。米国では、例えば、バーンズCIA長官が、習近平国家主席が「2027年までに台湾侵攻を成功させる準備を整えるよう、人民解放軍に指示を出した」という見方を示したとして、これがメディアにおける「2027年台湾危機説」の「根拠」になっている。しかし、「軍事問題研究会ニュース」2024年12月1日によれば、米議会調査局報告書が「台湾侵攻準備指示」について、これは「2027年かそれ以降に習主席が侵攻を実現することを決心しているということではない」との評価を示すレポートをまとめたという(Taiwan: Defense and Military Issues,15 Aug, 2024)。冷静に見れば、台湾侵攻が近いという根拠は明確でないといえるだろう。この点、遠藤誉の論説が参考になる。
それぞれの事情―トランプの登場
一般的に、台湾侵攻を実際に行うためには、その実施の意志(決心)と侵攻の能力(特に兵站・動員能力)が問題となる。前者については、前述のように明確な根拠がまだあるわけではない。後者については、米国防大学研究者による台湾侵攻に関する論考「海峡を越えて」(防衛省情報本部分析部訳、2023年2月27日)が注目される。その紹介(『軍事民論』744号(2024年11月29日)によれば、台湾侵攻の弱点は、侵攻に十分な中国軍の揚陸艦が不足していることが大きい。フェリーなど民間の船舶を活用する場合の問題など、兵員・燃料・貨物を輸送する海上輸送の課題も多い。「中国軍が台湾侵攻で迅速な勝利を望むのであれば、その兵站支援と動員計画の円滑な遂行に頼らざるを得ない」として、台湾侵攻が容易ではないことを明らかにしている。
先月19日のThe National Interest誌に、「トランプ政権が台湾に関してなすべき5つのこと」という論説が掲載されている(Five Things the Trump Administration Should Do on Taiwan, The National Interest, November 19, 2024 )。台湾の重要性を確認することは「力による平和」の外交政策に不可欠であるという立場から、次の5点を指摘している。①「長年にわたる米国の「一つの中国」政策を継続すべきである」、②「トランプ大統領は政権初期に、アジアの同盟国(日本、韓国、フィリピン、オーストラリア)を訪問し、その後に北京を訪問することを推奨する」、③「インド太平洋における最も重要な友好国のひとつである台湾に閣僚級の高官(適切なのは、商務長官、教育長官、農務長官など)を派遣すべきである」、④「台湾の将来はワシントンが決めることではないことを明確にする必要がある」、⑤「「強さによる平和」というアメリカの戦略を支えるために必要な政治的意志を呼び起こす」「対称的脅威と非対称的脅威に同時に対処する兵器パッケージを台湾に送り続けるべきである」。
これら5つの点は、米国の立場からすれば、ある意味で当然の政策的継続性を担保すべき事柄である。だが、これをあえて書かなければならないほど、トランプ政権は予測不能な面をもつ。国防長官をはじめ閣僚に狂信的なトランプ信徒が就任するので、これからの米国の対外政策は予断を許さない。
頼清徳政権への批判
『風傳媒(日本版)』10月4日によれば、国民党の馬英九前総統が、米国ハーバード大学で講演演説を行い、頼清徳政権の対中政策に警鐘を鳴らして注目された。賴総統が掲げる「新二国論」が台湾の安全と両岸の平和にとって無益であり、憎しみと不安、混乱の種をまくだけだと強く批判した。「台湾はチェスの駒ではない」と強調し、両岸の未来は台湾と中国の人々自身が決めるべきだと主張した。馬前総統は、頼総統に対して、「新二国論」の独立路線を改め、「中華民国憲法」と「両岸人民関係条例」に基づいて両岸関係を処理するよう呼びかけた。憲法の「一つの中国原則」に回帰し、両岸の相互信頼を再構築することが、中華民国総統の義務であり、両岸および地域の平和につながると述べた。その際、米国をはじめとする国際社会に対して、台湾と中国の対話を促すよう呼びかけた。これが両者および地域の安全にとって最も効果的で有益な方法だと強調した。台湾にもさまざまな意見があり、馬前総統の主張はもっと注目されていいように思う。
以下、10月14日に行われた中国による台湾包囲の大演習(「聯合利剣-2024B」)を陳氏に分析していただいた。ここに掲載する。
中国による「台湾侵攻」演習と台湾社会の軍事化陳韋佑(チン・ウェイユー)台湾人があまり関心を寄せない「聯合利剣-2024B」軍事大国は国の威信を賭け、仮想敵国に自国の圧倒的な軍事力を見せ、同盟国または付庸国(semisovereign state)に保障と脅威を混ぜた約束を示し、市民たちの心にパトリオティズムの快楽と力のない者を跪かせる恐怖を残すことになる。そして、軍事演習というパフォーマンスは、すべてのステージと同じように、人々に認識されてから初めてその魔力を発揮することができる。
このような意味で、2024年10月14日に中華人民共和国によって行われた「聯合利剣-2024B」という軍事演習は、成功しているとは言い難いであろう。
2024年10月14日、双十節1が終わって最初の月曜日の未明、中華人民共和国は大規模軍事演習「聯合利剣-2024B」の発動を声明するとともに台湾本島周辺で台湾島包囲戦のシミュレーションをする軍事演習を開始した。これには、人民解放軍だけではなく、中国海上警察の艦隊も演習に参加していた。そして、演習の予定終了時間は公表されなかった。いつか終わるかがわからないという不確定要素が、台湾と台湾人へのプレッシャーを強めると指摘した識者もいる2。「わが軍の優れた作戦能力を示した「聯合利剣-2024B」はきっと台湾人の心に「祖国」の強さと人民解放軍に抗えない恐怖を植え付けるようになる」。これが、おそらく中国指導部の予想だったであろう。
しかし、観客のいないパフォーマンスは茶番劇にもならない。「聯合利剣-2024B」は台湾本島周辺で行われた大規模な台湾島包囲作戦シミュレーションである以上、台湾の政府と軍部は大きなプレッシャーを感じたに間違いない。しかし、いくら本島に近いと言っても、「聯合利剣-2024B」は人々の住んでいる街から遠いところで行われたものである。一般市民は、中国や台湾の政府の広報またはマスコミによる報道を通じないと演習そのものを認識することすらできない。
2022年8月の米下院議長(当時)の台湾訪問以来、「聯合利剣-2024B」は4度目の台湾島包囲作戦の演練である。大規模な軍事演習に加え、ここ数年、意図的に台湾軍の実効支配空域・海域に近づける人民解放軍の空軍パトロールと艦隊活動が数えきれないほど多い。もちろんこれが厳重に扱われるべき問題のはずであるが、台湾の市民にとって、中華人民共和国による軍事演習はもはや新鮮さを感じない日常になっている。
マスコミの扱いにもそれが現れている。特に政権に近いマスコミにとって中国の軍事演習は国民の中国への嫌悪感や愛国心を強める良き素材であるが、「聯合利剣-2024B」について、各放送局はそれほど関心を寄せていなかった。政権に近い放送局でさえ、「聯合利剣-2024B」を素材にして「邪悪な中国」をアピールしても、報道に以前のように愛国心たっぷりの熱量が感じられなかった。台湾人は政治討論番組が大好きである。月曜日から金曜日まで、毎日の午後と夜には複数の政治討論番組が放送される。公共放送のPTS(「公視」)を除けば各放送局の政治討論番組は、NHKの「日曜討論」のような真面目な番組よりも、むしろ「TVタックル」や「そこまで言って委員会」のように政治をネタにしたバラエティ番組か「虎ノ門ニュース」や「文化チャンネル桜」のようなインターネットの極右番組に近いといえるだろう。政治討論番組をみれば、いま台湾人が興味を持っている政治話題とは何かがわかる3。以前ならば、「聯合利剣-2024B」のような大規模軍事演習だったら少なくとも1週間にわたる連日の大特集になったが、政権に近い放送局の政治討論番組であっても、数か月前から主な話題として語られてきた柯文哲氏と彼が党首を務めた民衆党のカネ問題に対する関心の方は圧倒的に高かった4。実際に、アメリカ大統領選ですら限られた関心を集めていたのみである。
ちなみに、動画の冒頭で中国の軍事演習について「昨日、中国による軍事演習が行われましたが、中心都市台北そして私がいる彰化県も日常そのもので、ギャップに戸惑うところであります」とコメントした、台湾の角煮を紹介するTBSの番組5が台湾のSNSで話題になっていた。「日本人記者が軍事演習について報じるために台湾に来たが、台湾人は無関心すぎるから仕方なくグルメの報道をやることにした」というような誤読が広まっていた6。もちろんこれは誤解だが、「聯合利剣-2024B」に対する台湾人の無関心は窺えるであろう。
なお、冒頭の写真は、中国の海上警察たるChina Coast Guardが公表した「聯合利剣-2024B」関連プロバガンダ映像である。台湾の流行語「超派(「めっちゃひどい!」、マイナスのニュアンスではない)」を使ってはいるが、内容的には台湾人の反感を買うしかないものである。冒頭下の写真も中国海上警察が公表した演習関連の映像で、これも誰をターゲットに設定したのかは理解不能である。
頼清徳総統の「祖国」論台湾政府が何か重要な講話や国家行事をすると中国政府は何か対応をとらなければならない。逆の場合も同じである。いくら双方が互いに相手を事実上の主権国家として扱い合っていても、中華人民共和国が台湾の主権が中華人民共和国にあるという「1つの中国」の建前が諦められない以上、そして中華民国政府とも名乗る台湾政府が中華人民共和国の主張を否定しながらも中華民国と台湾と中華人民共和国の主権問題に関してきわめて曖昧な態度7をとる以上、こうした建前だらけのやりとりが必要である。軍事演習も、この2つの事実上の国家同士の交流手段の1つである8。
それでは、中華人民共和国は何に応じるために軍事演習という国費を燃やす「交流」手段を発動したか。今年5月に就任した頼清徳総統の「祖国」論は、その「対応しなければならない台湾当局のやった事件」の1つだと思われている。2024年10月5日に行われた双十節前夜祭では、頼総統は彼らの「祖国」論をは初めて披露した。以下は、10月5日の総統講話より一部抜粋である9。
最近、私たちの隣人である中華人民共和国は75歳の誕生日を迎えたばかりです。まもなく、中華民国は113歳の誕生日を迎えます。年齢的には、中華人民共和国は決して中華民国の祖国になりません。逆に、中華民国こそ、75歳を超えた中華人民共和国の国民の祖国になりうるのです。しかし、中華民国は既に台澎金馬に根を張っていますので、こういう関係を論ずる必要はもうなくなりました。但し、もし誰が中華人民共和国の誕生日をお祝いするとしたら、慎重にお祝いの言葉を選ばなければなりません。「祖国」という言葉は使ってはならないのです。
まず「祖国」論の背景について簡単に説明しておく。台湾と中華民国の関係を語るとアカデミックな討論に無益な論争を招きやすい。簡単にいえば、まず1945年の日本敗戦とともに台湾と澎湖は中華民国の実効支配下に入った。蔣介石政権が大陸を失って以来、中華民国は、中華人民共和国を主権国家として認めず、中華人民共和国政権の実効支配領域について主権を主張した。ただ、その実効支配領域は台湾、澎湖、金門、媽祖、太平島等、すなわちいま外国の方々に認識されている国家としての「台湾」の領域にとどまっている。そして中華人民共和国政権も、建国時から中華民国を既に滅亡した国家と位置付けて中華民国政権の実効支配領域の主権を主張しながらも中華民国政権の実効支配領域を国家として統治・支配することができずにいる。しかし、冷戦時代には、中華民国の両蔣政権であれ、中華人民共和国の中国共産党政権であれ、建前として互いに相手を反乱軍と称し合って各自の支配下の人々に対して「大陸の同胞を救え」/「台湾を解放せよ」と命じながらも各自の実効支配領域でそれぞれの国民統合を推進していた。一方、冷戦時代には国家への反逆として弾圧されていたが、1945年まで大日本帝国の一部であり続けていた台湾には、中華民国政権とはあくまで台湾の外部から入植したよそ者にすぎないと考える人もいた。いまの中華民国と中華人民共和国と台湾のややこしい関係は、この冷戦時代の延長線上にある。そして、よく誤解されがちであるが、台湾独立主義者の言う「台湾独立」は、「中華人民共和国からの独立」ではなく、「中華民国からの独立」なのである。だから台湾独立主義者は「台湾人はまだ国家をもっていない」と主張している。一方、75年にもわたって中華民国実効支配領域=台澎金馬という現状のもとでは、「中華民国=台湾」あるいは「中華民国は国家の名前であり、台湾は地名である」という形で「わが国は既に独立国家になっている」系列の考え方をもつ国民はきわめて多い。また、中華人民共和国との関係にあたって、西ドイツと東ドイツのような関係に近いと考える国民もいないわけではないが、「我が国(この『我が国』の名前とは何かを別にして)と中華人民共和国は2つの国家である」と考える国民の方が多い。
そして、台湾と中(華人民共和)国のポピュラーカルチャー文化交流関係という分野では、かつて台湾こそ文化輸出国であったが、台湾芸能界の相対的な優位はもはやなくなった。子どもの頃、台湾人の芸能人は中国の若者の心を掴んでいたと言っても過言ではないであろう。しかし、いまは逆に台湾の若者は中国のドラマ等に熱中している。いまは、多くの台湾出身の芸能人が中国に赴き、中国人の流行語を台湾人が受け入れるという状態になっている。中国政府も台湾出身の芸能人を「中国との統一を宣伝するプロバガンダ」として利用していると思われている。いまの台湾では、台湾出身の芸能人が中国に好意を示せば猛非難を招く。中華人民共和国の建国記念日を祝う芸能人や中国を祖国と呼ぶ芸能人は炎上する。また、「中国からの文化的侵略」「中国の劣等文化」「中国のドラマやSNSに洗脳されること」を警戒している憂国系のネット使用者もかなり活躍している10。頼総統の「祖国」論の背景には、こうした文脈がある。
それでは本題に戻る。頼総統は根からの台湾独立主義者とよく言われるが、前述した「祖国」論で示すように、少なくともいまの頼総統は台湾独立主義者とは言いがたい。正直、1912年からの連続性を強調した11頼総統の中華民国と台湾の関係論を、1949年を「我が国」の起点とした蔡英文総統の「中華民国台湾」論と比べれば、むしろ前者の方が台湾独立主義より距離がある。筆者が初めて「中華民国こそ、75歳を超えた中華人民共和国の国民の祖国になりうる」を知ったとき、ドン引きしてしまった。台湾と半恒久的な軍事対峙状態に陥った列強に対して、「俺こそお前の親父だ!」を自信満々に言い出した精神的勝利法は、まるで阿Qの神髄を体現したもののようである。
台湾社会の軍事化――ドラマ『零日攻撃』と陸軍演習場台湾人は「聯合利剣-2024B」にあまり関心を寄せていなかったと述べたが、台湾社会の軍事化、そして台湾人の平和的生存権への脅威は依然として進んでいる。ここでは、台湾における社会の軍事化を浮き彫りにする代表例として、この間社会現象になったドラマプロジェクト『零日攻撃』について書いておく。
ドラマプロジェクト『零日攻撃』は、中国人民解放軍に侵攻される台湾をテーマにする、来年放送予定の台湾ドラマシリーズである。今年の7月に、台湾上陸作戦発動前の1週間を描くコンプセントドラマ12が公開され、多くの反響を呼んだ。「とてもリアルな戦争ドラマ」「リアルすぎ。怖い!」という感想が散見であった。しかし、『零日攻撃』で描かれた中国による間接侵略と直接侵略をはじめとする戦争・軍事に関する描写は軍事的合理性を欠いているといわざるをえない13。
そして筆者からみれば、『零日攻撃』で登場した一番超現実的な要素は、インターナショナルを歌い上げながらも中国の工作員として活躍する台湾人ヤクザというキャラクターである。確かに台湾のヤクザは中国に買収されるとよく言われているが、ナショナリズムに因んで中国を支持する、極右派の彼らがインターナショナルを歌い上げることは考えられない。「全共闘のヘルメットをかぶった街宣右翼」のように荒唐無稽な作劇である。これが台湾人によく見られる共産主義恐怖症の顕露にあたる。「インターナショナルを歌い上げた台湾人ヤクザ」という現実味のないのに「リアル」と言われた要素で暴かれたように、『零日攻撃』は中国侵攻シミュレーションではなく、「中国のスパイはどこにもいるぞ!」「台湾という国家を愛さない者は全員有事になったら中国に力を貸す潜在的工作員だ!」といった恐怖を国民に植え付けて安価な反共主義と国家主義を煽るネトウヨの軍国ロマン主義の具象化にすぎない。両蔣政権時代の愛国反共プロバガンダのアップデートだといえよう。ちなみに、『零日攻撃』の投資者の1人は、ここ数年愛国反共実業家として活躍する曹興誠氏14である。
さらに、国民は、日常化する中国による軍事演習への興味を失いつつあるとしても、政府と軍部は無頓着ではない。中国との軍事的緊張が高まるにつれ、軍事費が高騰したり軍事演習が頻発したりする。その結果、市民の平和的生存権を危うくする状況がますますひどくなりつつある。ここでは、陸軍演習場の近くに住んでいる住民たちの日常生活が軍事的活動に潰されてしまう事件を紹介する。
自由時報15の10月28日付の記事「【独占】軍が頻繫に演習と訓練を行ったのが原因か 新埔の住宅がひび割れ」16によれば、軍の演習のせいで日常生活が壊滅状態に陥った新竹県新埔鎮上寮里14隣の住民たちは悲鳴をあげていた。新竹県新埔鎮上寮里14隣の住宅街は陸軍の湖口演習場に近く、数十年にわたって住民たちは辛抱して演習と訓練の騒音を我慢していたが、今年の年初め以降、演習と訓練の頻度が上がり、騒音汚染のみならず、家の壁のひび割れも発生した事態に至った。住民の林福財氏によれば、今年以前、訓練期間は1年のうちに1か月間集中していたので、困っていると思いながらも国家安全のために我慢していた。しかし、今年は年初からずっと演習が行われていた。頻度の高い場合週に4~5日砲撃訓練が行われる。皆本当に困っている、と述べた。そして、林福財氏の母親である林貴美氏によれば、頻繫な砲撃のせいか、家の家のひび割れも確認された。そして、軍に通達しても重視してもらわないとコメント。また、住民の謝氏夫婦も、自宅がいつか砲撃の振動で崩れてしまうことを心配し、国防省に家を売って引っ越しをさせてもいいと述べた17。
新竹県新埔鎮上寮里14隣の住民たちの日常生活は、「国家安全のため」の軍事演習によって潰されてしまった。政府と軍部は台湾人の生活様式を護るために軍事活動をすると言いながらも率先して軍事拠点の近くに住んでいる人々の日常生活を潰してしまう。平和的生存権論の泰斗たる深瀬忠一教授の憲法学説に従えば、住民の日常生活を壊滅状態に陥らせた国の軍事活動は、既に「戦争・軍事的圧迫の集積」という平和的生存権に対する全面的・集中的な破壊・侵害態様にあたる18。これが、重大な人権侵害事件として位置づけられるべきである。
闘わない民主主義本来、法学徒や野党は毅然として国家安全保障による人権保障と法治国家の原理への破壊に向き合って国家権力と闘うべきであった。しかし、筆者からすると、台湾の法学徒と野党にはあまり期待できないように思う。
今年8月中旬、私は台湾の最高レベルの研究機関である中央研究院に足を運んで中央研究院法律学研究所主催の憲法研究会に参加した。最も興味のあるのは、L先生によるアメリカ大統領の戦争権限に関する研究発表であった19。大学院での私の先輩の一人は、アメリカ大統領の戦争権限について研究しているが、彼は、大統領の戦争権限が制限されるべきものという前提に立って議会と裁判所がいかにして大統領の戦争権限を制限するかという問題意識を軸として研究を展開する20。しかし、L先生は正反対の問題意識を抱いている。L先生は、(濫用されている)アメリカ大統領の戦争権限を肯定的に捉えたうえで、議会による統制をうけない行政特権としての元首戦争権限論を構築している。いうまでもなく、L先生はこうした議会による統制をうけない大統領戦争権限論を台湾法に導入することを狙っている。
当日の報告では、L先生は、「総統は全国の陸海空軍を統帥する」ことを定めた憲法第36条では総統は国会による干渉を受けない軍事的行政特権を有すると規定されていると述べた。これは、大日本帝国憲法の「統帥権の独立」と同じものである。もともと、総統の統帥権を定めた憲法第36条は清国末期の欽定憲法大綱に定めた皇帝の統帥権に遡ることができ、さらに欽定憲法大綱の皇帝の統帥権条項は大日本帝国憲法の天皇の統帥権条項に遡ることができる。日本の皆さんならば、いや、西欧立憲主義を継受した諸国の皆さんならば、きっと2024年の立憲民主主義国家で統帥権の独立を高く評価する憲法研究者がいることにびっくりするであろう。しかし残念ながら、これは「『先進』民主主義国家・台湾」の現実である。
司会を務めたY先生(名高い法律学者であり、内務相を務めたこともある)は、「中国に侵攻されたとき、総統は国を護るが、国会は足を引っ張るばかり」という「仮定」を提出し、L先生と同じ分科会で報告するS先生も「いまの国会は何もできない。総統の行政特権は必要だ」云々を言ってY先生とL先生に同調した。あの日、私は戒厳時代の憲法学者たちの研究会に参加したかという錯覚に陥ってしまうようであった。あの日の中央研究院で、誰かが「蔣総統万歳!」を唱へても違和感を感じないであろう。
周知通り、台湾の軍事化を進める原動力は国内にあるのみならず、アメリカ政府の意向も台湾の国防政策に大きく影響している。たとえば、徴兵期間延長決定の裏にはアメリカ政府の要請があったと思われている。民進党であれ、国民党であれ、民衆党であれ、アメリカの権力者に媚びを売らない国政政党はここにない。ここでは、1つの代表例を紹介する。
TaiwanPlusは国費で運営されている、外国人向けの英語インターネットメディアである。現在、文化省の依頼を受けた公共放送のPTSによって運用されている。先日、TaiwanPlusはアメリカ現地でアメリカ大統領選挙について報じる一つの報道動画を公開した。動画では、TaiwanPlusの記者21がトランプ氏のことを「convicted felon(有罪判決を受けた重罪人)」と呼んでいる。そして、トランプ氏の勝利が明らかになった11月上旬、今年5月にトランプ氏がニューヨーク州裁判所の有罪判決を受けたことは事実であるにもかかわらず、国民党22、民進党23、民衆党24すなわちすべての国政政党に所属する超党派の国会議員たちは、トランプ氏のことを「convicted felon」と呼んだTaiwanPlusの報道動画は「政治的中立性を欠いた」「台米関係を害する」「きわめて不適切」な報道だと断じ、撤回を強く求めた。李遠文化相もこの報道動画について「かなりひどい」とコメントし、文化省が既にPTSに「勧告」を送ったことを明らかにした25。そして、非難を浴びたTaiwanPlusは、このトランプ氏のことを「convicted felon」と呼んだ報道動画を非公開にしたか削除した。TaiwanPlusの事後声明によれば、文化省の指示を受けて非公開にしたのではなく、TaiwanPlus編集部による自主的決定であったというが26、国境なき記者団はこの件を国による報道の自由への侵害と位置付けて、「政府が外交関係を強化するために報道機関の編集方針(editorial line)に手を出すことは決して許されることではない」という批判声明を出した27。それにもかかわらず、放送事業を監察する国家通訊伝播委員会(NCC)の首席秘書官でさえ、11月28日の国会答弁で、トランプ氏のことを「convicted felon」と呼んだTaiwanPlusの報道動画が「国益を害する」ものであると述べた28。
このニュースを知ったとき、驚いた。これが、報道の自由への赤裸々な侵害であるから。英語圏では、トランプ氏が普通に「convicted felon」と呼ばれている。日本語の報道記事のなかでも、「有罪判決を受けたトランプ氏」と書かれた記事がたくさんある。しかし、台湾政府とすべての国政政党によれば、台湾では、マスコミにはトランプ氏のことを「convicted felon」と呼ぶ自由はないようである。トランプ氏からの要請はない。アメリカ次期大統領のご機嫌をとるために、台湾の政府と国会議員たちは躊躇せずに報道機関を弾圧してしまった。この凄まじい属国根性の丸出しには、いや、この「民主主義大同盟」を護る強い熱量には、おそらく伊達判決を覆した田中最高裁長官29が生きていれば、彼も脱帽するであろう。
他国のマスコミと同じようにトランプ氏のことを「convicted felon」と呼ぶことすらできない。当然、アメリカ政府からの国防に関する要請があれば、政府も野党もアメリカからの要請に抗えないに決まっている。いや、抗う意思が毛頭ないというべきであろう。トランプ氏はNATO加盟国や日本や台湾といった「同盟」国の負担を増やすことを何度も公言していた。台湾が軍事費をGDP比10%に増やすべきだという暴言を述べたこともある30。軍事費をGDP比10%に増やすのはさすがに無理すぎるが、国が軍事費をさらに上げることは不可避であろう。実際、英紙Financial Timesの記事によれば、台湾当局は来年発足のトランプ政権に決意を示すために、150億ドル以上の兵器購入計画を検討しているようである31。台湾国防省のシンクタンク国防安全研究院の蘇紫雲氏も、この対米兵器購入計画について、政府は、日本やNATO諸国にも配備されるステルス多用途戦闘機F-35のほか、退役したタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦32の購入も求める可能性があると述べた33。一方、11月13日の国会で、国防相はFinancial Times記事で言及された150億ドル以上の兵器購入計画の提出を否認したが、これからも引き続き既存の枠組みに沿ってアメリカに対して兵器を購入させてもらうよう求めると述べた34。いずれにせよ、本来国民のために用いられる国費は、これからも軍事費に喰われ続けていく。
むすびにかえて台湾周辺で行われた中国軍の軍事演習は、台湾人にとって新鮮さを感じない日常化する行事になっている。ターゲットの関心が集められないパフォーマンスはパフォーマンス失格である。しかし、これは、台湾人が軍事的合理性や国家安全保障の呪縛から解放されたことを意味しない。中国との果しなき軍事的対抗をやり続ける台湾政府と軍部は、すでに中国とともにチキンゲームに陥ってしまい、終わりの見えない軍備拡張と軍国体制への道を疾走している。そして、それをアメリカも押し付けている。
日本や欧州ならば、法学徒と野党はこの止められない軍事化への道を走ることを止めるために奔走する。しかし、台湾の法学徒と野党は、阻止はおろか、逆に社会の軍事化をさらに加速させる。彼らは、おそらく自分が正しいことをやっていると信じて込んでいるであろう。たとえ元首独裁制を作り上げても、報道の自由を潰しても、この国を護り貫くと思い込んでいるのではないか35。しかし、「権威主義の侵略者」の手を借りずに自らの手で立憲民主主義を破壊した「民主主義国家」は、この世界に存在するに値するか。
ミネルヴァの梟は、この時代を生きる私たちをどんな目つきで見つめてくれるか。
(早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程)
[追記]
2024年12月3日の夜、韓国のユン・ソンニョル大統領は突然に戒厳令を敷いた。ユン大統領の戒厳令は、台湾でも多くの注目を集めている。年初の選挙で与党民進党は総統選に勝って政権維持に成功したが、野党連合(国民党+民衆党)が国会多数派を占めている。そして、本文で書いた通り、野党連合は国会を通じて行政府への統制を強めようとしている状況である。国会と政府の対立はとても激しい。そして、2018年から完全に国家主義・愛国主義・ナショナリズムの煽りに傾倒した民進党と熱烈な一部の支持者は、国会権限強化法案を提出したり政府の予算案に反発したりする野党を「中国の間接侵略の一環として意図的に政府の邪魔をする売国賊」と位置付けている。こうした事情を背景にして、ユン大統領が非常戒厳を発表した当初、SNS上では、「民主主義を護って売国野党を一掃するために戒厳令を敷く」とのユン大統領の戒厳令に好意的な反応を示す投稿が見られていた。そしてあろうことか民進党国会議員団公式Thredasアカウントが、ユン大統領の戒厳令を肯定的に捉えたうえで台湾も韓国のような状況に直面しているため戒厳令も必要であるということを示唆する投稿を行った。すぐに削除されたが、スクリーンショットが拡散され、炎上している。同アカウントは、改めて声明を出して、民進党がユン大統領の戒厳令を支持しているというような解読は悪意中傷である、民進党は単に韓国の出来事を紹介していて、戒厳令を支持するわけではない、とコメントしたが、納得のいくものではないだろう。本文で記したように、民進党と民進党支持層の極右化が看過できない状態になっていることは疑いようがない。(2024年12月4日午前3時追記)
- ^台湾では10月10日が祝日の双十節である。この日に国家主催の記念式典が行われ、式典の総統挨拶は政権の重要な講話と考えられる。双十節は300年弱の清国の統治を終わらせた辛亥革命のはじまりたる武昌起義(1911年10月10日)を記念する、建国記念日のような中華民国の国家記念日である。なお、中華民国の「開国」日は1912年1月1日であったため、民国元年は1912年である。
- ^参照:中國解放軍舉行「聯合利劍-2024B」軍演 你需要知道的6個要點 - BBC News 中文(https://www.bbc.com/zhongwen/trad/chinese-news-69414558)。
- ^もちろん、台湾人の政治的興味と政治的品位は(質の低い)政治討論番組によって規定されているという側面もある。
- ^関心が高いとはいえ、真面目な討論に限るわけではない。
- ^朝から大行列!台湾「角煮の街」 朝のみ夜のみ…街歩けば24時間食べられる【すたすた中継】|TBS NEWS DIG(https://www.youtube.com/watch?v=axHCyfRm4wE)。
- ^参照:咦?看到台灣人對中國軍演超無感 日媒索性開始介紹起爌肉飯...... - 政治 - 自由時報電子報(https://news.ltn.com.tw/news/politics/breakingnews/4832673)。
- ^ややこしいが、厳密にいえば、憲法典に従えば中華民国は中華人民共和国を主権国家として認めずにいる。憲法典だけではなく、中華人民共和国に関わる台湾法の全体の建前として、中華人民共和国は「国家」ではないし、中華人民共和国の国民も「外国人」ではない。しかし、実際には、中華人民共和国国民を事実上の二等ないし三等外国人として法的に扱う。
- ^こうした建前と本音のズレばかりの中華民国と中華人民共和国の奇妙な関係はおそらく日本の方々にわかりにくいであろうが、田中芳樹著小説『銀河英雄伝説』に登場した銀河帝国と自由惑星同盟の関係を参照すればわかりやすくなるであろう。
- ^参照:總統出席國慶晚會 盼國人團結合作 讓國家更強壯、更繁榮、更進歩(https://www.president.gov.tw/NEWS/28759)。
- ^いうまでもなく、この背景には「我が台湾人こそ中華文化の正統継承者」という小中華思考が隠れている。
- ^10月10日の総統挨拶では、頼総統が「民主主義と専制主義の戦い」を軸として「我が国」の歴史を語っている。頼総統は、1912年の辛亥革命を我が国の起点とし、1912年から1949年までの歴史を飛ばして冷戦時代の戦争と民主化運動を経て我々はようやく民主主義を手に入れたというように我が国の歴史を語っている。背景知識をもたない人が頼総統の「我が国の歴史」論を聴けば中華民国はいまなお清国と戦っていると思ってしまうであろう。
参照:"團結台灣 共圓夢想 總統發表國慶演說(https://www.president.gov.tw/News/28775)。- ^Youtubeで視聴可能。英語字幕付き。
【零日攻擊 ZERO DAY】 官方完整版前導片 Official Full-Length Trailer #零日攻擊 #金獎團隊#港日台跨國演出#紅色滲透 [ 環繞聲道 Surround ](https://www.youtube.com/watch?v=iAnZdVG041Y)- ^たとえば、劇中では中国軍は制空権と制海権が確保されないまま歩兵のみの小部隊を台湾島に送り込んで上陸作戦を発動する。歩兵隊が全員ジョン・ランボー並みのワンマンアーミーでない限りこれは自殺作戦に等しい愚行である。
- ^曹興誠氏は台湾の半導体技術を中国に違法輸出したことがあるが、最近は愛国反共実業家というキャラクター設定で活動している。
- ^自由時報は親民進党系で、政権に親和的とされている。
- ^獨家》疑因國軍演訓頻繁 新埔民宅出現龜裂、自由電子報影音頻道(https://video.ltn.com.tw/article/x5hVmhUHFiw/PLI7xntdRxhw0WAtjar8mbBJH6nFzOOxRb)
- ^住民たちの声は、註16の記事を参照。
- ^深瀬忠一『戦争放棄と平和的生存権』(岩波書店、1987年)234頁以下参照。
- ^一般非公開の研究会発表のため、報告者の名前と論文タイトルを伏せさせていただく。
- ^望月穂貴「安全保障政策への裁判所の参与(1・2)」早稲田大学大学院法研論集161号253頁以下、162号163頁以下(2017年)、同「戦争権限における大統領単独行動主義と司法審査消極論」早稲田法学会誌68巻2号349頁以下(2018年)。
- ^この記者はアメリカ人のはずである。
- ^偷臭川普?公視急下架「美國選了重刑犯」影片 藍委砲轟:不只丟台灣的臉、風傳媒、LINE TODAY(https://today.line.me/tw/v2/article/EX0nM0a)
- ^綠委批公視記者稱川普「重刑犯」非常不恰當!賴瑞隆:影響台美關係、LINE TODAY(https://today.line.me/tw/v2/article/l2YPVNk)
- ^Taiwan+稱川普重刑犯又不利柯文哲 民眾黨團要求立即下架、聯合新聞網(https://udn.com/news/story/6656/8351869)
- ^影/公視TaiwanPlus稱川普「重刑犯」 李遠:非常嚴重、聯合新聞網(https://udn.com/news/story/10575/8349033)
- ^針對TaiwanPlus美選新聞爭議 公視董事會決議、公視(https://about.pts.org.tw/pr/latestnews/article/5571)
- ^Taiwan: RSF denounces rare and worrying act of censorship by the government 、RSF(https://rsf.org/en/taiwan-rsf-denounces-rare-and-worrying-act-censorship-government)
- ^TaiwanPlus 將川普稱為「重罪犯」 NCC主秘黃文哲:此一爭議 有損國家利益 、Newtalk新聞(https://newtalk.tw/news/view/2024-11-28/946768)
- ^田中耕太郎最高裁長官と砂川事件について、布川玲子・新原昭治編著『砂川事件と田中最高裁長官』(日本評論社、2013年)を参照。
- ^Trump's 10% defense demand panned - Taipei Times(https://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2024/10/03/2003824726)
- ^Taiwan considers big US defence purchases as overture to Donald Trump(https://www.ft.com/content/7b218d0f-31dc-4b74-b993-797388767b85)
- ^タイコンデロガ級は優れた対空能力も備えているとはいえ、台湾周辺海域を作戦区域と想定する台湾海軍のはずであるので、軍事大国の外洋海軍のために量産された、改修コストと維持費の高いタイコンデロガ級巡洋艦を購入しようとするのは本当に軍事的合理性だけに基づいた発想かと疑わざるをえない。
- ^金融時報:台灣命懸一線 考慮以4800億以上軍購向川普輸誠、聯合新聞網(https://udn.com/news/story/10930/8351882)
- ^快新聞/否認將對美提出近5000億軍購 顧立雄:國防部沒給清單、民視財經網(https://finance.ftvnews.com.tw/news/detail/2024B13W0270)
- ^ここでは、2つの例をあげる。第一に、2018年頃、中国人民共和国国旗すなわち五星旗の掲揚を禁止すべきかが話題になっていた。当時、五星旗の掲揚禁止に賛成する法学徒も少なくなかった。たとえば、中正大学法学部の李仁淼教授(北海道大学出身の公法研究者)は、集団活動に参加しながら五星旗を掲げる行為は象徴的表現を通じて中華民国ないし台湾を滅ぼす可能性があり、公に集団活動に参加しながら五星旗を掲げると五星旗の掲揚に反対する者がほぼ必ず現れて彼らと激しく対立するため、公開の五星旗掲揚を禁止するのは表現を規制するのではなく五星旗掲揚に伴う暴力衝突という急迫危険性を防ぐのにあたり、五星旗掲揚を禁止しても表現の自由への規制にならない、という敵対的聴衆の法理を改造したと見られる理論を主張した。また、成功大学の陳怡凱准教授(テュービンゲン大学出身の国際法・EU法研究者)は、国民が国家に対して忠誠義務を負うとし、国民の国家忠誠義務に反する行為=五星旗掲揚は表現の自由の保障の外にあるとする。公法学の墓場から基本義務論を引っ張り出してきたのである。さらに、台湾大学法学修士号をもつ張權氏は、五星旗とナチス旗を類比し、五星旗掲揚禁止は「戦う民主主義」であると主張。「台湾もドイツのように戦う民主主義を採用しているから五星旗掲揚を禁止すべき」というドイツ憲法学を「調整」した説が当時よく見られた。参照:學者:禁掛五星旗避免對立致危害 非限制言論自由、中央廣播電臺(https://www.rti.org.tw/news/view/id/416136);自由廣場》禁掛五星旗違反言論自由?、自由評論網(https://talk.ltn.com.tw/article/paper/1206864)
第二に、2024年、国会多数派の野党連合は台湾版議院証言法――長きにわたって台湾では国政調査権を可能ならしめる議院証言法は存在していなかった――をはじめ事実上の行政府最高支配者たる総統に対抗して国会による行政府への統制を強める国会権限強化法案を推進していたが、断固反対の与党に抗うために野党連合も強行採決を厭わないポーズをとる結果(強行採決は蔡英文政権時代から台湾国会の日常になっていた)、青鳥行動という国会権限強化法案に反対する大規模な抗議活動が発生した。法学徒にとどまらず、多くの知識人が青鳥行動に応援していた。そのなかには、国会による統制を受けない行政府最高支配者たる総統の権力を擁護する研究者もいたのである。たとえば、名高い学者としてよく知られる歴史研究者の呉叡人氏は青鳥行動のイベントで国会権限強化法案を「中国に買収された立法府による行政府へのクーデター」と断じて立法府の憲法的・民主的正当性を否定。法学研究者の羅承宗氏(南臺科技大学経済法学研究科の教員)も、ドイツ連邦大統領の法律審査権を積極的に捉えたうえで台湾総統も事前違憲審査権に等しい法律審査権を有すると主張。羅氏はドイツ連邦大統領の法律審査権がドイツ皇帝の残留的権力であることやドイツ連邦大統領が行政府の長でないことを見事に無視したうえで事実上の行政府最高支配者たる台湾総統が事前違憲審査権を有する憲法の番人(羅氏はあえてカール・シュミットの著作タイトルでもある「der Hüter der Verfassung」という表現を肯定的に用いた)であるとする。台湾の知識人たちもワイマール共和政の教訓を忘れるなと言いがちであるが、自分も幻の「国体」を護るために立憲民主主義体制を蔑ろにする者の1人であることにあまり気付いていないようである。参照:中研院學者吳叡人:藍白以立法權發動政變/吳叡人: 中國收買 在台灣最被鄙視的一群人/吳叡人:藍白架空總統行政權 國安危機新型態|20240525|、Youtube(https://www.youtube.com/watch?v=A-KOXPU9XqM);將錯就錯,或敢於說不?總統能拒絕公布顯然違憲的法律嗎?、法律白話文運動(https://plainlaw.me/posts/can-president-refuse-to-promulgate-law)。