権力の暴走をいかにして止めるか――「直言」28周年に寄せて
2025年1月1日



「直言」更新28年

けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い致します。

毎年、1月最初の「直言」は、その年の研究・教育等の目標を挙げてきた。12年前は元気に語っていた(直言「還暦の年を迎えて」)。昨年1月1日の「直言」は、娘夫婦と孫たちとの「ヒロシマ」について書いたが、実はこの旅を企画した妻が体調不良で参加できなくなった。思えば、この時にすでに病の兆候はあらわれていたのだと思う。2025年の「抱負」といえるものは、この妻の病気に付き合うことを第一に、自分の健康を維持すること、「平和憲法のメッセージ」の週に一度の更新を絶やさないこと、講演・執筆などの各種要請にこたえること(歴史グッズの公開と活用も)、この4つである。

「直言」を初めてアップしたのは、1997年1月3日の「ペルー大使公邸人質事件について」だった。わずか364字(ちなみに先週の「直言」は5686字)。この時、公邸強行突入を陣頭指揮したアルベルト・フジモリ大統領は、昨年9月11日に86歳で死去している。

28年前に始めたこの「直言」の一貫した姿勢は、権力の横暴や暴走を許さないということである。第1回でも、「「テロリスト」に対する強攻策にばかり目を奪われることなく、冷静な視点が必要だろう」とフジモリの強攻策に疑問を呈している。そして、3カ月後には、フジモリのやり方を厳しく批判している。最終的には、フジモリ自身が民間人殺害などで有罪判決を受けている(途中経過は直言「人気があっても任期で辞める意味」参照)。

 この28年間に、「直言」で取り上げた日本の13人の首相のうち、最も激しく、最も徹底して批判したのが安倍晋三だった。なぜかといえば、安倍が「幽霊ドライバー」だったからにほかならない。

 

安倍晋三は「幽霊ドライバー」

冒頭上の写真は、オーストリアのAutorevueいうサイト(日本のJAFにあたる)の「幽霊ドライバー」(Geisterfahrer)に関する記述内の写真である。車両進入禁止の標識に加えて、「止まれ」「間違い」と書かれ、黒い手に車両進入禁止のマークがついたものもある。これを見過ごして進入すると、こんな逆走車となるわけである。私が8年前にオーストリアのアウトバーンA1号のサービスエリアで撮った写真も同様のものである。Autorevue によれば、「幽霊ドライバーは道路交通の妖怪である。 彼らは通常、自動車専用道路や二車線道路で定められた進行方向とは逆方向に車を走らせ、自分だけでなく他の道路利用者をも重大な危険にさらすドライバーである」とされ、オーストリアでは2023年に計444件の逆走報告が記録され、14件の逆走事故が発生し、23人が負傷、2人が死亡している。

日本では200件ほどあり、約7割が65歳以上の高齢ドライバーである(NEXCO中日本のデータ)。驚いたのは、2018年の数字で、50件(25%)が「故意」によるものだった。

 私は、安倍の政権について、「交通法規〔憲法〕を確信犯的に無視する幽霊ドライバー」によって運転(運営)されてきたとは言えまいか」として、次のように指摘している(直言「憲法政治の「幽霊ドライバー」(Geisterfahrer)」)。

「…憲法改正に驀進する安倍晋三。「改憲偏執症(paranoia)」とでも形容するほかはない。改憲自体が自己目的と化す。改憲のためには手段を選ばず。その目的と手段の非合理性、執念深く粘着質な性格と「感情複合」が混じり合う安倍という人間が首相の座についてから5年。この国は変わってしまった。「7.1閣議決定」をはじめ、日本の憲政史上に残る「憲法違反常習政権」としての歩みを続けている。安倍がやることなすこと、ことごとく憲法に反するか、憲法の趣旨を没却した政権運営が定着してしまった。…」

 4年後にその続編を書いた。直言「憲法政治の「幽霊ドライバー」(その2)」である。そこでは、公文書改ざん・隠蔽だけでなく、そもそも文書を残さない安倍政権の特徴をこう書いている。

 「この政権は、文書主義を著しく軽視している。官邸を軸に、首相の面会関係の文書の作成・保存を否定している。…官邸は、安倍首相と官庁幹部の面談記録を一切残していないと明言しており、「必要があれば官庁側の責任で作るべきもの」というのが官邸のスタンスだが、官庁側も十分に作成していない。首相が、いつ、誰と会い、何を話したのかが「ブラックボックス化」している。…この政権は立憲主義への逆走だけでなく、法治主義にも、官僚的合理性に対しても逆走する「暴走車」としかいいようがない」と。

 かなりきつい評価だが、昨年の総選挙で自民党が過半数割れして、「憲法違反常習首相」が仕切る「安倍一強」の時代もようやく終わり、その残党たち(安倍派など)も力を失いつつある。自民党のなかでも岸田文雄らを中心に新たな「再編」の動きも生まれている。自民党の「割れ方」次第では、野党との関係での「連立方程式」が模索されていくだろう。今年7月20日の参院選が「衆参同時選挙」になるかどうか。6月29日の東京都議選の結果と相まって、この国の政治の枠組みも少し見えてくるだろう。その際、既存の政党間の組み合わせだけでなく、石丸伸二橋下徹が手を組んだ新党がSNSを駆使した活動を開始する可能性も視野に入れる必要がある。ただ、こうした動きが、日本の政治を変えていく上でプラスに作用するかどうかは別問題である。

「トランプ2.0」――高速道路に「幽霊ドライバー」の大群が出現

何よりもかによりも、今月20日(日本時間21日)、第45代米合衆国大統領に、リアル・トランプが再び就任する。「不死身のトランプ」の帰還である。直言「「もしトラ」が「ほんトラ」に―2024年米大統領選挙と日本」でも書いたように、「独裁者にはならない。(大統領就任の)初日を除いて」というトランプ発言(Foxニュース12月5日)が気になる。就任初日に、25本以上の大統領令を出して、これまでのバイデン政権の施策をひっくり返すと見られている。パリ協定やWHOからの離脱はもちろん、関税や移民などでどこまで踏み込むかが注目される。思えば、ちょうど4年前は、バイデンが大統領令を出して、トランプの施策のいくつかを覆したことは記憶に新しい(直言「「トランプ時代」の歴史的負債」参照)。「トランプ2.0」は、「予測不可能な性格、反ヨーロッパ的な政権運営、独裁者に迎合する傾向」などがブラシュアップしており、EUや西側諸国は対応に苦慮するだろう。しかし、「グローバル・サウス」の諸国にとっては必ずしもマイナスではない面もある。これから「トランプ2.0」の施策とどう向き合うか、冷静な判断に相当なエネルギーが必要だろう。

 冒頭下の写真にあるように、ドイツの週刊誌『シュピーゲル』47号(2024年11月15日)の表紙はすさまじい。大統領執務室の机に足を乗せているのは、実業家・大富豪のイーロン・マスクである。この特集のタイトルは「「地獄のコンビ」(Duo infernale)― ドナルド・トランプとイーロン・マスクの邪悪な計画」である。「影の大統領」「イーロン・マスクは世界で最も裕福な人物であるだけでなく、短期間でドナルド・トランプの囁き役までに上り詰めた。米国史上、これほど権力とカネが結びついた例は稀である」と。トランプは、マスクを天才と称え、政府支出削減を指揮する正式な役割を与えることを検討していたが、新設される「政府効率化省(DOGE=ドージ)」のトップに起用すると発表した。「影の大統領」とあるように、実はマスクがトランプを利用して、莫大な利益をあげていくことを狙っているだろう。国家の私物化ではなく、まさに私的国家である。

 他のトランプ人事も「目を見張る」(いい意味ではなく)ものがある。なかでも国防長官には、ピート・ヘグセスが予定されている。FOXニュースの司会者であり、また州軍士官として政治運動をしており、戦場における犯罪に関する恩赦運動を行ったことで悪名高い。こんな人物が上院の公聴会に耐えられるのか、はなはだ疑問であるが。

 思えば4年前、トランプは「選挙の不正」を主張してホワイトハウスに「籠城」し、支持者を連邦議会議事堂に向かわせたことは記憶に新しい。右の写真と冒頭下の写真を対応して見ると、これから米国は、「キング(俺様)ばかりで、ハート(心)のないトランプ」ゲーム(国家運営)が始まることがわかるだろう。トランプとプーチンの密接な関係については、「プーチンの手の中で踊るトランプ」という構図の缶バッチを入手した際、『シュピーゲル』誌とコラボさせてみたのが上の写真である(5年前の直言で使用)。「直言」では、「歴史グッズ」を使って、私の「こだわり」がいろいろ仕掛けられているので、画面を拡大して、じっくり見ていただけると幸いである。けっこう「やばい構図」もある。


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 それでは、本年も、「直言」をどうぞよろしくお願い申し上げます。

 

【文中敬称略】

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